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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.5 )
日時: 2014/12/20 18:43
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 こんな時に限って「今日は早めに上がっていいよ」という店長の忌まわしい言葉に、苦笑いで頷く。笹村さんは、私の仕事が終わるまでゲームセンターをうろうろしていると言っていた。この花屋から最寄りの、ネオン街にあるゲームセンターは道を踏み外した中高生の巣窟で、あまり近付きたくない。外はもう暗いし正直帰りたいっていうか。

 バス停を通り過ぎ、いざ夜の街へ。ネオン街は危ないと教えられてきたので今まで来たことはなかった。それに今は夜。危ない人に誘拐されたりしないだろうか。まあ、私は特別可愛いわけでもないし大丈夫だとは思うけど。

 仕事帰りのサラリーマン達が闊歩する街の端っこを隠れるようにして歩く。ぽつぽつと、カップルのような男女も見え始める。私の前をフリフリのスカートを着た女の子が、大学生くらいの茶髪のお兄さんと腕を組んで通り過ぎていった。あれ、あの子どっかで見たことがあるような。二度見すると、その女の子は間違いなく青い薔薇を欲しがった昨日の妖精さんだった。そしてその妖精さんは、遠山夢乃さんという名前であることも知っていた。
 学校ではとても清楚で大人しそうに見えるのに、今の遠山さんは「二次元から飛び出してきました」ってぐらい派手で、着ている服もなんだかコスプレみたい。隣にいる男の人のために頑張ってお洒落したのかなと思うと微笑ましいが、遠山さんはこのネオン街でも特に異色を放っていた。

 ところで遠山さんには彼氏が居たんだなあ。三好くん、強く生きてください。


 「おっせーんだよエリカ! 爺さんになっちゃうだろ!」
 「ご、ごめんなさいっ!」

 ゲームセンターに入るのに躊躇していると、自販機の横にあるベンチを占領している笹村さんと目が合った。出会って3時間の人間のことを下の名前で呼ぶ笹村さんに「えっ何この人」という感想を抱いていると、その笹村さんは「それじゃあ行くぞ、マックー!」と私の腕を掴んで走り出した。
 マックを食べて、適当に断って、帰してもらおう。お母さんに夕食はいらないと連絡を入れ、私は笹村さんについて行った。 

 「エリカってさ、友達いる? できれば音楽できるやつ」
 「え、ええっと……音楽できる子は、いないかもしれません」

 夜の街を歩きながら、笹村さんは隣の私に問う。
 本当は仲のいい北川さんは、幼い頃からピアノを習っている。クラスの福田さんは合唱部だ。でも、その人たちに迷惑はかけたくなくて、咄嗟に嘘をついてしまった。

 「ったく。あ、あれ夢乃じゃん」

 笹村さんが唐突に立ち止まり、お兄さんとお城のようなホテルに入っていく女の子を指さした。

 「遠山さんと、知り合いなんですか?」

 その女の子は、どこからどう見てもさっきの遠山さんで。サラサラの髪も、コスプレみたいな服装も。笹村さんが、遠山さんを知っているとは思わなくて私はつい顔を上げる。

 「知り合いもなにも、『金払えばすぐやらせてくれるコスプレイヤー』ってことで有名じゃん。夢乃」
 「え、何を、ですか?」

 言葉の意味がわからなくて首を傾ける私に、笹村さんは「もう良いよお前めんどくさいっ」と吐き捨てて歩き出した。なぜかわからないが怒らせてしまったらしい。謝ろうとしたとき、笹村さんは思いついたように振り返った。

 「待てよ、あの夢乃なら金たんまり持ってるはずだよな……、あいつを加入させれば、楽器が買えるぞ!」
 「楽器ないのにバンド名乗ってたんですかぁ!?」
 「うるせえ!」

 ひいい、ごめんなさい。でも、遠山さんは忙しそうだしそんな事してる暇ないんじゃないでしょうか。そう反論しようとしたが、笹村さんは遠山さんの後を追おうとしている。どうしよう、このお城みたいなホテル、高校生は入れないやつじゃないですか?

 「笹村さん! あ、そうです! 私、遠山さんの電話番号持ってますぅ! だから、ちょっとこのホテルに入るのはやめといたほうがっ」
 「でかしたぞ! よし電話してみよー!」
 「えぇ、今から遠山さん休憩中なので、あの、明日とかにしといたほうが……」

 私がポケットから取り出したピンクのメモを奪って、笹村さんはスマホに何かを打ち始める。三好くんもそうだが、最近の男子はスマホに文字を打つのがやたら早い。私は未だに慣れないのになあ。

 「役に立つじゃん、エリカ。他に良さそうなメンバーいるか?」
 「い、いませんよ……」
 「そうだよなぁ。俺もそう思ってた。まあ、夢乃を加入させたらそのファン共がうじゃうじゃ来ると思うし、オーディションだな」

 この人の自信は、どこから来るのだろう。まだ夢乃さんすら加入していないというのに。ていうか私も加入してないです。
 前を意気揚々と歩く笹村さんを見ながら、自分とは真逆なこの人がちょっと羨ましいな、なんて思った。