コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.6 )
- 日時: 2014/12/22 00:05
- 名前: mimori ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
混み合っているマックの片隅、別れ話をしている高校生カップルの隣の席に私たちは腰を下ろした。「俺のおごりでいいよ」という笹村さんを説得し続けた結果、全額払わされることになり、私の財布はいよいよ悲鳴を上げ始めた。もともとお小遣いはそんなに多くないし、欲しい本なんかを2冊も買ったらあとは通学の電車やらバスで使い切ってしまう。
「マックで別れ話かぁ。なんか、可愛そうだな」
「きっ、聞こえてたらどうするんですかぁ!?」
腕を組んで隣に視線を泳がせている笹村さんを慌てて止めると、案の定お別れ寸前のカップルはお話をやめて私を凝視していた。
「ぷっ、エリカの声がうるさいんじゃん」
「す、すいません……」
立ち上がり隣に謝罪をする。数秒後止まっていた別れ話が再開し、私は許されたと認識して席に着いた。もう、この人といると余計な苦労を背負わされます。
「で、バンドの話だけど。夢乃のファンだからといって、まったく音楽経験がないやつは加入させられないだろ?」
「私も音楽経験、ないですけど」
「ヘドバンうまいじゃんお前」
あ、あれは謝ってただけです。楽器も持ってないところを見ると、笹村さんも音楽経験全然なさそうに見えるけどなんでこんなに偉そうなんだろう。夢乃さんだって加入してくれるかどうかわからないのに。
マックシェイク(いちご味)を啜りながら、笹村さんは左手の人差し指でストローの袋をくるくる回して遊んでいる。先程まで「お腹すいたー」と喚いていたのに、笹村さんはシェイク1つしか注文しなかった。私に払わせるから、あんまり注文しなかったのかな。そんな変な気遣いするくらいなら、自分でお金払って食べたいだけ食べてください。
「あ、そーだ。俺の後輩に、すんげぇピアノ上手いやつが居るんだよ。もーほんとコンクール? コンテスト? とか出てる! ちょ、電話してみるわ」
「えぇ……そのお方、もう寝てるんじゃないですかぁ?」
「はぁ? まだ8時だぞ」
スマートフォンを取り出して、「えーと、みーよしくんはどこかなー」と画面に指を滑らせる。まったく、忙しい人だ。
隣の別れ話はいよいよヒートアップで、女の人は今にも立ち上がって出ていきそう。
「あーでもあいつさぁ、夢乃みたいな女絶対苦手だろうなぁ。お前みたいな地味な女しかダメって」
笹村さんが顔を上げる。私そんなに地味ですか、と言い返そうとしてやめた。遠山さんは学校では清純で大人しい方だから、いいんじゃないでしょうか。
「いわゆる処女しか認めない、ショジョチューってやつ? 馬鹿だよなぁあいつ、経験ある女にリードしてもらうのが良いのに。自分の思い通りになる女が良いだなんてほんと童貞丸出しの発想だよな。なんにも分かってねえ」
「あ、あの! 食事中ですよぉ……?」
「あーはいはい。わりぃわりぃ」
私が頼んだポテト(Sサイズ)を勝手に食べている笹村さんは、テレビでは放送できない言葉を連発し始めて、私は今度こそ止めずにはいられなかった。
「そんじゃあ三好はパスだなー。えーと、どうしよっかなー」
「……みよし?」
「なんだよエリカ、知り合いか?」
聞いたことのある言葉が聞こえて、膝下に落としていた目線を上げる。みよしといえば今日保健室で爆睡していたあの携帯ゲームに情熱を注ぐ1年生の男の子。人違いの可能性もあるが、みよしなんてそうそう聞く名字じゃないし、多分彼だろう。
「知り合いっていうか、今日保健室でお休みされていたので、少しお話したくらいですが」
「へぇ。まーあいつ、すぐぶっ倒れるしなぁ」
「そうだったんですかぁ。……あ、三好くんがお休みしてる時、遠山さんが来てたんですよぉ。それを三好くんに伝えたら喜んでいましたよ?」
「え、まさかあいつ夢乃が援助交際してること知らないんじゃね」
確かに三好くんは、「女の子は夢乃さんみたいに大人しく清楚であるべき」って、瞳を輝かせて言ってたなぁ。なんだか急に彼が可哀想になってきました。遠山さんは学校では、あの妖精さんだとは気づかないくらいだし、三好くんみたいに勘違いする人が出てきてもおかしくない。
「っは、おもしろっ。あいつ絶対それ知らないで夢乃に惚れてるよ。三好採用。電話しよ」
「や、やめましょうよ! かわいそうですよぉ! 三好くんは純粋に恋して欲しいですっ!」
「恋なんて一時の病気だろ? すぐこうなるのがオチだよ」
……と、笹村さんは隣の修羅場カップルに人差し指を向けた。恋なんてしたことないけど、こんな重々しい話し合いは私もしたくないので、何も言い返せず黙り込んでしまう。
「あいつに現実を見せるためにも、これがいい機会だよ。さぁて電話電話〜」
「笹村さんは鬼かなんかなんですか……?」
笹村さんが横の髪をかきあげて、端末を耳に当てる。その向こうからは、「げ、涼太郎かよ。僕いまパズモンしてんの、邪魔しないでよ」と明らかに不機嫌そうな三好くんの声が聞こえてきた。