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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.8 )
日時: 2014/12/23 16:44
名前: みもり (ID: DYDcOtQz)

 次の日学校に行くと、私の教室2年2組の前に挙動不審な一年生の男の子が立っていた。部活をやっているクラスメイトの誰かの後輩かな、先輩だらけの西校舎に一人で来て、相当不安なことだろう、かわいそうにと思いながら、私は教室に入ろうとした。

 「あ、にっ、西澤さん!」
 「はひぃ!」

 後ろのドアへ向かう途中でいきなり呼び止められて、振り向くとその男子は昨日の三好くんで。身長160センチぴったりの私と寸分変わらない高さにある目は真っ赤で、昨日もあまり寝ていないらしいことが分かる。「お、おはようございまーす」と三好くんはぎこちない笑顔を浮かべ、用事があるから廊下で話したいと提案してきた。
 顔色も悪くて、今にもまた保健室に連行されそうな三好くんは、とても不健康そうに見えて、保健委員代理としてちょっと心配だな、と頭のどこかで思っていると、彼は私に聞いてきた。

 「あの、笹村涼太郎居るじゃないですか。昨日あいつから電話かかってきたんですけど、西澤さん、無理やりあいつに巻き込まれてるのかなって」

 それを聞くためにわざわざ2年生の教室に来たんだろうか。
 三好くんは(私の推測だが)部活は入っていなさそうだし、三好くんの性格なら2年生の教室まで来るなんてかなり勇気がいることだ。なんていうか、真面目なのかお馬鹿なのかわからない人だ。

 「……あ、あれはですねぇ、私も悪いんです。頼まれると、断れない性分なもので……」
 「迷惑じゃなければ、僕があいつに言っておきますよ。えーっと、僕もあいつにはさんざん悩まされてきたんです。あいつ、このままだと夢乃さんまで巻き込みかねないので、今のうちになんとか辞めさせないとって」

 慎重に言葉を選んで、話しているのが伝わってくる三好くんは、「ほんとに、周りの人の都合を省みないやつですよね、あれ」と苦笑いをした。
 三好くんの提案は、私にとってはとてもありがたい。私の代わりに三好くんが断ってくれるなら、これ以上面倒事に巻き込まれることは無い。私はいつもどおりのくだらない日常に戻るのだ。

 でも私は、昨日笹村さんの事を助けたいなんて思ってしまった。一瞬だけでも彼に絆された自分も居た。彼はやり方こそ乱暴だが、ちゃんと自分の道を生きている。
 私の人生は、私が主役ではない。いつだって誰かを立てて、誰かの陰に隠れて、表面だけの優しい人を演じる。私とは真逆の位置にいる笹村さんの事を、正直羨ましいなんて思ったりもした。
 今ここで三好くんに「断っといてください」と頼むと、もう二度と笹村さんと話すことはないのだろう。
 楽器も曲も練習場所も何もないのにバンドをやるなんて無謀すぎるけど、私はもうしばらく笹村さんに振り回されていたかった。

 「……ご、ごめんなさい。私、やります。ちゃんと、最後まで」
 「え、ほ、ほんとですか……? あいつに脅されたりとか、そんなんじゃ」

 驚いた顔で、大きな目を見開いている三好くんを見て、笑みが溢れる。「ふふ、えっと、私、本当は合唱部に入りたかったんです。最初は嫌でしたけど、笹村さんって意外といい人じゃないですか。だから、あの、頑張りたいなって」なんて、こんなに言葉が出てくるのはいつぶりだろう。

 「だ、だって涼太郎が卒業するまであと3ヶ月くらいしかないんですよ? それなのに、い、今からバンドって……あいつ、就職も決まってないしここらで現実見せてやんないとダメですよ!」
 「笹村さんはちゃんと現実見てますよ。これが最後のチャンスだって言ってました。最後くらい協力してあげますよ」

 私を変なものでも見るかのように見つめる三好くんは、「えー、そ、それじゃあ、頑張ってください西澤さん」と明らかな作り笑いを浮かべ、早急にやきそばパンと今週のジャンプを買ってこなければ殴られるのでもう帰ります、お話してくれてありがとうございましたと頭を下げた。彼も私と同じ、「パシられる側」の人間なのだろうか。

 来週からは、期末試験も始まる。朝のホームルームが始まる前に少しだけでも勉強しておこうか。三好くんを見送って、私は教室に入る。エリカちゃん、おはよーと声をかけてくる友人たちに挨拶し、私は席に座った。