コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.101 )
- 日時: 2015/03/01 10:56
- 名前: Garnet (ID: Yry.8Fde)
じゃ 行こうか。…奈苗がそう言って、オレ達は歩き始めた。
「蘭がさっき、1人きりだ、って言ってたけど…陽菜は?」
すっかり忘れていた大事なことを尋ねる。
「え?いるよ。」
「???」
「確かに、午前中は 街の幼稚園に挨拶に行ってたらしいけど…1人ってわけでもないし」
『時の旅人』は 何も疑問など抱いていないとでも言うように、すたすたと歩き続けていく。
一瞬、何が起きているのか よく分からなくなった。
蘭はたまに、こういうことをする。
そう…ホントは(っていうのは失礼だが)、すごく頭が切れる。
よく、バカっぽく見せてる芸能人が
本当は凄い学歴だったり、ちょっとした時にハッとされるのと、同じような感覚だったりする。
奈苗より恐ろしい…
ってことは…奈苗の秘密も、知ってるってことなのか…?
…と頭をフル回転させていたら、
「なあ、あの子 ハーフか?施設の子なんだろ?」
良樹が呑気に訊いてきた。
「ヨーロッパ人同士の子供だよ…多分。
親が ハーフとかクォーターかもしれないし、それは分からない。」
「へえ…ヨーロッパ…ね」
柔らかな陽の光の中に彼女がいると、妖精みたいに見える。
髪が金色に見えて まるでティンカーベル。
「ねえ 奈苗ちゃん、ファミリーネームは?」
「Ailey.」
「へー…」
奈苗は 振り向かずに言った。
きっと、良樹には 心を許してないんだ。
わざと『苗字』と言わず、『family name』と言ったところに、何かを感じ取ったんだろう。
「良樹…アイツをなめたら、火傷どころじゃ済まないぞ?」
「わかってるよ…。
だって、何所ぞのスパイも顔負けの 知識量とあの度胸じゃないか…
興味を持つのも当然だろうが…」
「何だよ?!奈苗に そんなヤツが関わってんのか?!」
スパイ、という言葉に 背中が冷たくなった。
「まあ、ヨーロッパかアメリカのスパイといったら…って、うわあ!!」
突然の大きな声に驚いて 横を向くと、良樹は出っ張ったアスファルトでこけていた。
同時に カシャ、と変な音がして、
「Freeze」
奈苗が言った。
- Re: COSMOS ( No.102 )
- 日時: 2015/03/01 12:10
- 名前: Garnet (ID: Yry.8Fde)
ぞっとした。
アイツの頭に当てられていたのは…!
「…」
良樹は 黙って両手を挙げた。
ていうか、奈苗って 左利きだったっけ?あと、いつの間に移動しやがって!
「ふふ………冗談だよ、冗談!」
奈苗はそう言うと例の物を指に掛けてクルクル回し、弾を1つだけ出した。
目を凝らさないと 見えないほどの小さな弾……。そう、BB弾。
懐かしいなあ……っておい!
「高校生のお兄さんから 貸してもらったんだ♪」
「奈苗…テメェ…」
言いながらも、思わず笑い出しそうになる。
どっちが本性なんだよ…。蘭といい勝負じゃないか…。
そして いつのまにやら、あやつのモデルガンは オレのポケットに忍ばせられていた。
「良樹おにーちゃん、あとでコロッケ奢ってね!」
「は…はあ…」
情けない格好のまま 目を点にしているが、
「〜♪」
時を彷徨うティンカーベルは、スキップしながら 下り坂を下りて行った。
「はい、ビーフコロッケ。」
「うわあ!ありがとう!」
小さな手の中で、紙に包まれた揚げたてのコロッケが 湯気を立てている。
店の小父さんが、キッチンペーパーも添えてくれた。
「コロッケ程度で済んだだけ、有難いと思うよ…」
「…あちっ。」
無邪気に頬張る奈苗を見て、良樹は呟いた。
奈苗は 相変わらずの『知らないふり』だけど。
「よし!じゃあ 奈苗が食ってる間、サッカーやろうぜ!!」
埃っぽいネットから、ボールを取り出す。
硬くて軟らかい、あの感触を 足に蘇らせる。
撥ねる土。
どんどん出てくる白い息。
「さすが 拓!何年もやってないなんて、言われなきゃ分かんねーよ!」
「お世辞もいいとこじゃい!」
ゲラゲラ笑い合う。
こんなことも 久しぶりだ。
ゲームの話。
どの女子が可愛いか。
先生の噂話。
どれも バカげてるし、何時か忘れるし、終わってしまう。
でも、球を蹴ることは…面白い。忘れない。いつまでもできる。
ホントにやりたいこと———
思い出した。
答えを出せた。
もう、誰かのせいにはしない。
嘘をつかないで 自分に、相手に、正直になろう。
それが 前を向くことだから。
暖かい風がビュウと吹いて、甘い香りを連れてきた。
FIN