コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.11 )
- 日時: 2015/01/03 18:13
- 名前: らいち。 (ID: 86FuzJA.)
もうすぐ夏が暮れる。
そして、春が来たら 私は幼稚園に入ることになるだろう。
「アホらし…」
水を弾く顔を鏡に映しながら、呟いた。
「ん?なんか言った??」
知美ちゃんも 歯を磨きながら尋ねる。
子ども用の、刺激の少ない歯磨き粉だと聞いた。
今はそんな物もあるのね…
「うん…。次の春、私 幼稚園に入るでしょ?」
「そうだねー。」
「日本じゃ飛び級制度も無いし、暇になるだろうなぁって。」
「あはは。知美はこのままでいいよ。」
今日は登校日らしく、
知美ちゃんは 口を漱いで足早に食堂に走り去った。
食前と食後に歯を磨くのが、彼女のスタイルらしい。
私は 食後だけで十分だと思うのだが。
「このまま、ねぇ。」
ジト目で歩いていくのを、
中学1年の男の子——白金拓が、顔に泡をつけながら 不思議そうに見つめていた。
- Re: COSMOS ( No.12 )
- 日時: 2015/01/03 18:41
- 名前: らいち。 (ID: 86FuzJA.)
「「いっただっきまーす!!」」
食堂に 威勢のいい声が響いた。
この家の子供たち…私のような 3才のガキから、18歳まで、
みんながこうして 同じ部屋で朝食をとる。
今日は鈴木さんの手づくり。
「美味しいよね〜♪」
これは 私と同い年の、相沢陽菜(あいざわ はるな)ちゃん。
毎朝 鈴木さんに結ってもらってるツインテールがトレンドマーク。
「何で、鈴木さんが朝食担当じゃねぇんだか…。なぁ?奈苗。」
こちらは さっき私を不思議そうに見ていた、白金拓(しろがね たく)君。
痩せ形の長身なので、よく目立つ。
っていうか、同意を求められてもね…
私がサラダをむしゃむしゃ食べていると、
「こらっ!それ、どういう意味?!」
帽子を被った体操服姿の女の子が顔を出した。
「ひい!すんませーん…」
「嫌なら 勝手に自分で作れ!」
彼女は、中学2年の降谷蘭(ふるや らん)。
栗色のボブヘアをサラリとなびかせる、ハキハキした子だ。
「奈苗ちゃん、こんなアホの言うことに、いちいち同感したらあかんで!
ほな、ウチ部活行ってくるわ〜」
ラケットバッグをパタパタさせて走り去る後ろ姿を、
みんなも いってらっしゃーい、と元気に送り出した。
「ったく、あんな輩が よくテニスなんか続けられるよなぁ。」
そう言いながら、
拓にーちゃんが 知美ちゃんの残したパプリカをひょいと食べてしまった。
その本人は、食後の歯磨きに行っていて、もういなかった…。
- Re: COSMOS ( No.13 )
- 日時: 2015/01/06 00:33
- 名前: Garnet (ID: 4sTlP87u)
カリカリとシャーペンが動く先を、じっと見つめる。
たまに その音が途切れては、小さな唸り声が代わりに続く。
そして またシャーペンは規則的な音を奏で出す。
「奈苗。」
「なぁに。」
ふと、静かな時空が 日常空間に戻った。
「こんなの見てて何が面白いんだよ?」
「こんなの、って?」
「しゅ・く・だ・い!!」
拓にーちゃんが 伸びをしながら、いかにも嫌そうに答えた。
椅子も ギィ、と同じように伸びをした。
確かに、夏休みの宿題を 心から喜ぶような子どもは、この世に存在しない。
実際、さっきから私が見入っているプリントは Xとかyとか 色々ごちゃごちゃしてて、
その横に書かれていく計算メモと手を繋いでしまいそうだった。
「3時になったら、陽菜ちゃんと一緒にスイカ食べようよ。」
「よーし!ならやってやる!!」
その言葉と同時に、
拓にーちゃんは バリバリと問題を解き始めた。
「アツい…」
- Re: COSMOS ( No.14 )
- 日時: 2015/01/11 16:03
- 名前: Garnet (ID: UEHA8EN6)
「伸ばしてあげるべきですよ。」
「そうですよ」
「…でも…本人が望まないのなら…」
「それもそうだけどねぇ。」
戸が少し開いている。
この声は、鈴木さん達だろうか。
「どうした?奈苗。」
「しーっ」
拓にーちゃんが 間抜けた声を出したので、
私は思わず 大げさに人差し指を顔の前に持ってきた。
「わりぃな」
小さな声でそう言った拓にーちゃんも、興味深そうに 隙間に目をやった。
この家の大人達が 何やらコソコソと話をしている。
「でも、いいと思いますよ?
あの子なら 私立でも…ひょっとしたら、天才児かもしれませんし。」
「て、天才?!」
「なぁによ、鈴木さんったら。貴女、本当は知ってたくせに。」
「し、知りません!」
鈴木さんが、黒江さんに変な目で見られている。
人は名前の通りになるって言うけど、まさに典型的な例だろう。
…勿論、全国の『黒江さん』がこんな人のはずは無い。
色白で華奢な鈴木さんに比べ、
黒江さんは 結構ふくよかな小母さんだ。
「まあ、それで『此処』の評判が上がれば…」
「ちょっと黒江さん?!そういう言い方は無いんじゃないですか?!」
「あらぁ…貴女だって、ちょっと前に職を失くしたって聞いたけど?」
「っ…」
次は清水さんが標的になった。
失業したというのは 本当の話だが、そういう話はタブーだ。
ヘアピンで留めた横髪が はらりと落ちていくのが見える。
「黒江さん…貴方は一体…」
今度は桑野さん。
ある程度体育会系の、色が黒い人。
彼は こういう事が起きた時、あまり口論を好かない人間だ。
「くーろぉーえぇー…」
「おい奈苗っ、落ち着けって。」
拓にーちゃんは、今にも戸を開けそうになっている私を必死に抑えた。
- Re: COSMOS ( No.15 )
- 日時: 2015/01/13 17:12
- 名前: Garnet (ID: 3mH.h3JL)
せっかくの西瓜が、味気無い 不味い水になってしまった。
この家は意外に涼しいので、寒くなってきたような気もする。
何も知らない陽菜ちゃんは 2切れ目までペロリと平らげた。
「あー美味しかった!」
皿の上には 種だけがきれいに残っている。
一方で、私の皿にはまだ半分もスイカが残っていた。
「ねぇ、食べないの?」
丸い瞳が私を覗きこんでくる。ずっと綺麗で、ずっと澄んでて…
もしこのまま打ち明けてしまったら、この子まで嫌な世界に引きずり込んでしまう。
拓にーちゃんも、同じような事を考えていただろう。
「じゃあ陽菜が食べちゃうね♪」
返事も待たずに 彼女はスイカにスプーンを潜らせた。
しゃく、といい音がする。
「おいおい陽菜。そんなに食って、おねしょしても知らねーぞ?」
「大丈夫だいじょうぶ!」
「…」
拓にーちゃんは私の様子をうかがいながら、
陽菜ちゃんと他愛ない話を続ける。
お母さん。
お父さん。
心の中で、そっと。
何処かへ歩き続けていく者たちに 声をかけた。
この運命は、神様が仕組んだミッションなのですか?
心の中で、そっと。
その者たちは ゆっくり此方に振り向いた。
2人は、ただ微笑んでいるだけで。
問には答えてくれない。
どうして私は、この世に生まれてきたのですか?
でも、この問にだけ…
お母さんが答えてくれた。
———それはね。
幸せに、なるためよ。
- Re: COSMOS ( No.16 )
- 日時: 2015/01/17 15:40
- 名前: Garnet (ID: 4J23F72m)
最近、よく星を見るようになった。
そして、何時の間にか 私の部屋に人が集まるようになった。
彼らは 火照った心を夜空に冷やして貰い、天の川に意識を預ける。
そんな感じなのだと思う。
ある者は流れ星を探し、
また ある者はアルタイルとベガの恋模様に想いを馳せている。
近くで見ると大して綺麗でないものでも、遠くから眺めていると 嫌でも美しく見えてしまう。
『宇宙』は、その典型的な例かもしれない。
眠ってしまった陽菜ちゃんを抱きかかえた 拓にーちゃんが、
私のほうに近づいてきた。
「なぁ…奈苗?」
「何。」
「2つ、聞きたいことがあるんだ。」
「うん」
天使は 騎士の腕の中で、安らかに寝息を立てている。
こんな表現がぴったりだろうか。
「じゃあ、1つ目…。訊きやすいほうな。……前の名前は、何だった?」
「…知りたい?」
「ああ。」
でも、答えようとした途端、鈴木さんが部屋に入って来てしまった。
- Re: COSMOS ( No.17 )
- 日時: 2015/01/19 23:19
- 名前: Garnet (ID: UEHA8EN6)
「ほら、みんな!もう消灯時間よ!部屋に戻りなさい。」
「「はーい」」
逆らう気はないのか、皆はぞろぞろと出て行った。
そして、部屋に残ったのは私達4人だけだ。
沈黙に 星の声と天使の寝息が、静かにぼやけていく。
「奈苗…ちゃん。」
毎年テープから聞こえてくる、優しい声。
最近、聞き分けがつかなくなってきてしまった気がする。
「私たちの話、聞いてたのよね?」
「ええ。」
自分でも、どうすればいいのかがよく分からない。
ただ…
一つ、確かめたいことが、あった。
「鈴木さん。」
「何?」
拓にーちゃんの気配が、一瞬消えた。
「あなた ひょっとして…」
自分で言いながら、ひやひやする。
「お母さんと…異父姉妹だったりしないよね?」