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Re: COSMOS<ロック終了(*^^*)> ( No.122 )
日時: 2015/04/26 01:43
名前: Garnet (ID: IkQo2inh)

木々を鮮やかに彩っていた桜の花びらは、吹き出してきた新緑と入れ替わりに 姿を消した。

「はぁ…」

ドリルとノートを閉じて、ため息をついた。
傍らに置いてある時計の針は、3時半過ぎを指している。
塾に行かないと。

ランドセルの隣に掛けてある鞄に、ペンケースと 今さっきまでやっていたドリルとノートを詰め込んだ。
既に入っている荷物のせいで、もう 鞄は随分と重くなっていた。

「いってきます」

いってらっしゃい、とは 誰も返してくれない。
でも…それが当たり前だ。
そろそろ、この家にも帰れなくなってしまうだろう。


——今更何よ、父親ぶって。
——お前こそ何なんだ!
  翔の為とか言って、行きたくもない 塾なんかに行かせて…


皆は、パパとママの仲がいいのが羨ましいって言うけど、本当は 仲良くなんかない。
パパとママは 僕の事を大事に思っている、って言うけど、本当は 僕の事なんか眼中に無い。

だから僕は、『いい子』を演じるしかないんだ。
今度引っ越したら、あの学園の編入試験を受ける。今度こそ入る為に。

鞄からカードキーを取り出し、ドアノブにタッチした。
響く電子音が、ドアがロックされた事を告げた。

自転車のカゴに鞄を入れ、通路を走らせる。
殺風景なうちのドアとは対照的な ドアたちの横を、流れるように。
いつもなら、ママに怒られるから こんな事はしないけど、今日は そんなこと、どうでも良かった。

ようやくエレベーターに乗ることができた頃には、
少し息が切れ、背中が汗ばんで、ちょっぴり罪悪感にかられた。
タオルを出そうと鞄を開くと、タイミング良く 携帯電話が鳴り始めた。
麻衣から電話だ。

「もしもし?」
「あ、翔君、まだマンションの中にいる?私、今 ロビーにいるんだけど…」
「うん。もうすぐ1階に着くよ。」
「ちょっと 話したいことがあるの…。待ってるね。」
「あぁ、うん。」

僕の返事を聞いたのか聞いてないのか、電話はそのまま プツリと切れてしまった。