コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: COSMOS ( No.164 )
日時: 2015/05/09 10:55
名前: Garnet (ID: UcGDDbHP)

カタカタ揺れるランドセルと、サラサラ揺れる髪と、2人のヒソヒソ声。
1人は黒い髪で、もう1人はストロベリーブロンドヘア。
そんな2人を、遠くから見つめる私。

泣き出した黒髪の子の手をもう1人の女の子が優しく握ったところで、目が覚めた。
まだ朝日は登っていないらしい。

「ゆ、め…?」

布団から抜け出し、それを畳んで 部屋の隅に追いやる。
もう随分と暑くなってきたのに気付き、扇風機のスイッチを入れた。
結構年期の入ったものだ。埃っぽい風が、髪をバサバサと持ち上げた。

「ケホッ…古すぎ。」

私は扇風機に冷たい視線を送り、窓を開けて部屋を出た。


外に出てみると、うっすら靄がかかる中で あの2人が動き回っていた。

「蘭ちゃん、拓にーちゃん、何してるの?」
「あ、奈苗ちゃん?」
「早いな。」

振り向いた顔が、そっくり。
蘭ちゃんはサンバイザーを着けて、体操服姿でラケットを握っている。

「もう少しで"総体"があんねん。拓も、2年代表の1人やし。」
「総大ってのは、中学校最後の 運動部の大会だよ。総合体育大会の略。」
「ふぅん…ねぇ蘭ちゃん、そのサンバイザー、桑野さんにでも買ってもらったの?」

すると、姉弟は顔を見合わせて、私に向かって 人差し指を顔の前に持ってきた。

「内緒やで…黒江さんに見つかったら、とんでもない目に遭ってまう。
 桑野さんも、ウチもな。」
「ま、それは何とかなるだろーし、さっさと練習しよーぜ。」
「せやな。じゃ、奈苗ちゃん、朝ごはんよろしく。」
「うん…」


2人の、素振りの音とリフティングの音が 辺りに響いていた。

Re: COSMOS ( No.165 )
日時: 2017/07/26 19:54
名前: Garnet (ID: hmF5PELO)

「先生、さようなら。」
「はい、奈苗ちゃん さようなら。」

バスから降りて、先生と運転手さんに挨拶をした。
答えるように、小さいクラクションが鳴る。

「いつもいつも、こんな所まですみません…」

恵理さんが軽くお辞儀する。

「いいんですよ、大切なお嬢さんを、毎日何キロも歩かせる訳にはいきませんし。
 そうそう、夏休み直前に 四つ葉祭の説明会がありますから、お願いしますね。」
「はい。」

江藤先生は、後ろで結んだ髪から垂れてきた横髪を 耳にかけ直し、
恵理さんの返事に ニッコリ笑った。
30代前後…お母さんと、同じくらい。

バスが走り去ると、制服から着替え、陽菜ちゃんの待つ 美星幼稚園に歩いていった。
施設———まだ名が無い———から、歩いて40分はかかる。

「掴めそうで、掴めない……」

恵理さんが、私の独り言に ちらりと目をやった。

「ここ半年、前世の記憶に、霧がかかってしまってる…
 忘れたく、ないのに……。」


ただひたすら歩いて、何分か経つと、恵理さんが口を開いた。

「奈苗ちゃん、私は今まで、口出しはしないように決めてたわ…
 それは 貴方自身の問題だと思ったから…
 でももう、タイムリミットが迫っているのが事実でしょうし、
 私にも、出来ることは協力させてほしいの。」
「ありがとう…」

彼女の顔が、誰かと重なる。あれ…誰だろう、今の…。
もどかしさに、わしゃわしゃと髪をかき乱す。
すると、自身の異変に気が付いた。
——いや、気付きたくなくて、今まで逃げていたのかも、しれない。

はらりと抜け落ちた髪からは、赤みが薄らぎ、
鬱陶しかったほどの癖も、無くなりかけていたのだ。

「え………?」

Re: COSMOS ( No.166 )
日時: 2015/05/15 18:15
名前: Garnet (ID: C6aJsCIT)

「な、何で?」

事態が飲み込めない。

「私と同じ髪に、なっちゃったのね…」
「…っ」
「大丈夫よ、この髪は おばあちゃんとお揃い。」

揺らいだ視界を、柔らかい香りが包み込んだ。

「また戻るかもしれないじゃない。」
「お母さん…っ」

今 彼女を呼んだのは、見間違えた訳ではない。

ひょっとしたら、この先、"彼ら"の存在を忘れるごとに、
"彼ら"と私とを繋ぐ ガラス色の糸が、消えてしまうような気がしたから。

どうか、見捨てないで———

そう願って、呼んだ。


遠雷が聴こえた。