コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック】 ( No.187 )
日時: 2015/06/02 22:45
名前: Garnet (ID: nnuqNgn3)

「何ちゅうこっちゃ!!拓〜、どうしよ〜う…」
「何だよ蘭、うるせーぞ。テレカの度数無くなるだろうが。」

まったく拓ときたら、こんな一大事の時まで 姉を邪魔者扱いしよる。

暑苦しい公衆電話ボックスの中、ウチはアタフタしていた。
受話機の向こうからは、小さな溜め息が聞こえる。

「大変なことしてもーた…。」
「は?まさか 都会に来れたのが嬉しすぎて、ヤクザとでもつるんで、補導されてでもいるところを抜け出して、
 わざわざ此処に 公衆電話から電話をしてきたとでも言うのかよ。」
「そういう意味とちゃいます!!」
「じゃあ どういう意味なんだよ。」

こんなことして良かったのかと、改めて 自分を責めた。なっちは、寧ろ 踊り出す程なのに。
はぁ、と溜め息をついて 顔を上げると、ボックスの外から なっちがウチを見つめていた。

「拓、実は…」
「…」
「勝ったんよ…っ。次は関東や…」
「…」
「喜んでええの?」
「…いいに決まってるって。」
「え?」
「例え 大人達が何と言おうと、俺らは応援してるから。」

拓がそう言うと、
すごいよ蘭ちゃん、とか、僕たちも応援行きたい!とか、色んな声が 耳に押し寄せてきた。

「みんな…」

思わず、視界がぼやけて溶ける。

そうだよね。
テニス部に入れてくれただけでも、私は嬉しかった。
だから、新入部員を一目見た時…、自分の為にも 皆の為にも、最後まで諦めないって決めたのに。

こんな時に泣いてる私って、何なんだろう。

「皆の期待を裏切ったら、容赦しねぇから。それだけは覚えておけ。黒江さんには、俺から言っておく。」

電話が切れて、通話が終了したことを知らせる電子音だけが、ボックス内に響いていた。





「…と、いうわけだ。皆、協力してくれないか?」

奈苗、俊也、陽菜、鈴木さん、知美とをはじめた仲間を、1人ずつ見渡す。
その一人ひとりが、大きく頷いた。

「行こう、拓にーちゃん。」

奈苗の声で、俺たちは歩きだした。

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック】 ( No.188 )
日時: 2015/05/12 16:40
名前: Garnet (ID: NGqJzUpF)

「なっち…。私、ほんとは嬉しいんだよ?それだけは誤解しないで。」

そう言いながら、なっちに抱きついた。

「解った。それは解ったから。でもさ、約束、忘れてない?」
「あ…」

さっきからやらかしていた事に気がついて、自分で赤面した。


———お母さんのこと、絶対に忘れない。


言葉に着ける、様々な宝石。
それが方言なんだよ、って教えてくれた お母さんの為に、
私は、お母さんの使う方言を 受け継ぐことを決めた。
なのに。

「ごめん、なっち…もう私には、辛すぎるんだ…」

なっちのユニホームを握りしめながら、言葉を振り絞った。
でも、こんな気持ちになってしまったというのは、悲しすぎる事実。
涙も出なかった。

「蘭…」

複雑な感情を抱えた声は、ゆっくりと 茜色の空に溶け込んだ。




ごめんね、蘭。
お母さん、疲れちゃった。

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.189 )
日時: 2015/05/14 22:04
名前: Garnet (ID: qEZ8hLzF)

「あー、良かった…。」

奈苗がそう言いながら、布団に飛び込んだ。

「おいおい、まだ寝るなよ?」
「寝れるわけ無いでしょ。」
「…そうか。」

鈴木さん達は、蘭のお祝いの為に 折り紙なんかをせっせと作っていた。
その横で、陽菜が小躍りしている。
そんな光景に微笑んでいると、彼女が此方に近づき、

「ほら、奈苗ちゃんと拓にぃもやろうよ!」

なんて言いながら、俺達を引っ張ろうとする。

「うぅ。ちょっと今はパス…」
「俺も。」

すかさず そう言って対抗しようとしたが、陽菜は引き下がらなかった。

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.190 )
日時: 2015/05/15 21:41
名前: Garnet (ID: 0j2IFgnm)

しぶしぶ 折り紙で鎖を作り、食堂の壁にぶら下げていく。勿論 背が高いからと俺の役割になる。

「…まあ、アイツも頑張ったからな。」

なんてブツブツと呟いていると、横から鎖をホイホイ渡してくる俊也が 笑みを漏らした。
…カラスが笑っている。

「補欠で、しかも県大会にも行けなかったお前とは大違いだな。このシスコン。」
「一言どころかすべての文字が余計だ。
 ていうか 中学二年生で出してもらえるもんか。こんな下手くそが。」

シスコンなんて言葉、一体 何処で覚えてきたのだろうか。
何時ぞやの高校生の兄さんから聞いて、俺は知っていたけれど。
あのモデルガンでも構わないから、とにかくコイツを黙らせたい。

その辺でいいよー、という桑野さんと清水さんの声で ようやく一息ついた。




誰かが笑っている。
小さな子供たちが、2人…いや、3人。

砂埃が舞う中、彼らは 1つのボールを追いかける。
せっかくの新しい靴を、砂で真っ白にして。

すると、その中の1人が ふと走るのを止めて、此方を向いた。

あ…この子は————


「……っ」

彼女の顔がはっきり見えぬうちに、現実に連れ戻された。
寝てたんだ…。
前からも横からも、賑やかな声が聞こえる。
肝心のなっちも、私の肩にもたれて 寝息を立てていた。

私たち、の、お姉ちゃん…なんだよね…?

自分の不甲斐なさに、ますます呆れた。何度 こんな思いで彼女を見ればいいんだろう。
頬を滑る涙には気づかずに、私は再び 眠りに落ちた。

姉としては見たくない。
これからもずっと、親友として そばに寄り添っていたいと、そう思いながら———

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.191 )
日時: 2015/05/16 21:37
名前: Garnet (ID: UcGDDbHP)

「「蘭!!県大会、優勝おめでとう!!」」

玄関の扉を開けるや否や、歓声と拍手に包まれた。
この頭でこの状態なんだから、脳の処理機能が上手く働かない。

「あ、えーっと。…おおきに!皆のお陰で、無事に関東大会進出です!!」
「よーし、じゃあ パーティーの始まりだ!」
「「おー!」」

テニスシューズを脱いで、私を引っ張る拓に 付いていく。
無意識に奈苗ちゃんを視線で追うと、知美ちゃんと笑いながら走っていくのが見えた。

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.192 )
日時: 2015/05/18 18:12
名前: Garnet (ID: bAREWVSY)

「ただいま〜」

マンションの一室の扉を開けて、誰も居ないはずの場所に言う。

「…」

当たり前だが、返事は返ってこない。
洗面所で手を洗い 冷蔵庫を開けると、メモが乗せてある ラップを掛けた夕食があった。

「『夏海、お疲れさま。応援行けなくてごめんね。』か…。」

レンジで温めて、味気無いご飯を食べた。

バッグから引っ張り出したPHSには、一件のメールが届いている。
お母さんからだ。

『お帰り』

白黒の小さな画面に、3文字が映っている。

…直接言ってよ。
ただいまって言ったら、お帰りって、目を見て言って欲しい。
こんな我が儘って、可笑しい?

充電器にぶっ差す。


何となくイライラしたので、テレビを付ける。
ニュース、教育番組、アニメ、ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー…
最終的には、ドラマに落ち着いた。
学級崩壊したクラスを、そのクラスメートの一人が 変えていくという話。

その内容を頭に入れながら、下書きした読書感想文を清書していく。

——そんなのおかしいよ!——

少年が涙を流す。

——私も、主人公に共感しました。——

私は シャーペンを走らせる。
ああ、結局は他人事なんだ。私って最低。

そうこうしているうちに ドラマも終わり、アイドルのバラエティー番組になった。
作り物のスタジオ歓声がうざったくなって、直ぐにチャンネルを変える。

普段は見ない局だった。またドラマ。
これまた、おかしな職場をどうにかしようという、革命モノだ。

「好きなんだねぇ、革命。」

ソファに倒れこみ、部活の予定表を眺める。
明日は休みだ。

勉強でもしようかと ボーッとしていると、玄関から物音がした。

「よいしょっ…」

聞こえてくる声に 怠い身体を起こし、玄関に走る。

イラついても、凄く疲れていても。
やっぱり、『お母さん』が帰ってくるのは、嬉しいから。
返ってこない幸福でも、大好きな人には、沢山贈りたい。

「ただいま。夏海、まだ起きてたの。」

目は合わない。

「うん。お母さん…」
「ん?」

少しの沈黙に、顔が上がった。

「お帰り、なさい!」

飛びっきりの笑顔になれた…かな?

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.193 )
日時: 2015/05/18 18:06
名前: Garnet (ID: bAREWVSY)

食べて、喋りまくって。
お祝いというより、ただの雑談会になってしまった。
まあ、祝ってもらう筈の蘭は、ユニフォームのまま座布団の上で眠ってしまっているから、
いいかな。

「疲れちゃったんだね。」

知美がそう言いながら、彼女にタオルケットを掛ける。

「身体的にもそうなんだろうけど、問題は精神面だよな…」
「ん?何か言った?」
「いや、何でもないよ。」

ぼそりと呟いた独り言は、知美には 聞こえなかったらしい。
別に、聞こえてなくても構わないし、寧ろ聞かれないほうがいい。
…今まで、彼女には色々な所で驚かされてきた。
実は、奈苗の言う『あの子』なんじゃないかと、そう思ってしまったくらい。
だから、もう 変なことに巻き込みたくないんだ。

そういえば、知美には 1つ、気になるところがある。
5・60代の白人女性を見かけると、我を忘れて その人を追いかけようとし、
どうしたのかと訊くと、たちまちしょんぼりしてしまうのだ。
最近は、その行動をとらなくなったが。

俺は 溜め息をつくと、すっくと立ち上がり、皆のもとへ行って、
声を落として言った。

「なあ。次の蘭の応援、どうする?」

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.194 )
日時: 2015/05/20 07:56
名前: Garnet (ID: nnuqNgn3)

鈴木さんの意見で、あみだくじでメンバーを決めることにした。
奈苗に、紙に 皆の名前と線を書いてもらい、一斉にたどっていく。

桑野さんと、鈴木さんと、黒江さん(!)。
奈苗と俊也と陽菜と、知美と瑞と俺と、エマ…っておい!

「エマって誰だよ!」

思わずツッコミを入れる。知らないし。
誰かに解説していただきたい。

と その前に、瑞って誰だよという声が聞こえるので、そちらから解説しよう。
中台 瑞(なかだい みずき)、小学2年生で、まだ7歳。
癖っ毛と 笑うと見える八重歯がトレードマークで、少し恥ずかしがりや。

「知美ちゃんの友達!いいでしょ、拓にぃ?」

陽菜が近くに来て、目をウルウルさせながら言った。
あんな顔で『拓にぃ』なんて呼ばれてみろ、可愛くてしょうがないぞ。

「駄目とは言わないよ。何処の誰なのか知りたかっただけだから。」
「え!じゃあ良いの?!やったー!」

跳びはねた陽菜は、力の加減もせずに 俺に飛びついてくる。
胡座をかいていたお陰で 倒れることは無かったが、かなり ぐらりとバランスが崩れかけた。

「はる、な…お前…」
「ん?」

重くなったな。そう言おうとしたのに、上手く言葉が出てこなかった。
ちょっぴり、気づきたくなかったこと。

Re: COSMOS【レス数調整中φ(..)&ロック解除】 ( No.195 )
日時: 2015/05/21 18:42
名前: Garnet (ID: 8.sEFFTR)

陽菜は 俺の脚の上にちょこんと座り、何処かをじっと見つめている。

「拓にいちゃん」

呼ばれた声に顔を向けると、知美がいた。

「どうした?」
「…さっきさ、エマのこと、知らないって言ってたよね?」
「あぁ。知美の友達なんだろ? 絶対外国人なんだろうけど。」
「うん、クラスの子。アメリカからの転入生なんだけど、もう 日本語ペラペラ。
 でもね、たまに、怖くなるくらい性格が変わったりして。」
「へえ。」
「奈苗ちゃんと 初めて顔を合わせた時なんて、ドラマ見てるのかと思ったもん。」
「ドラマ?」
「そう。何て言えばいいのかな…。」

そう言ったきり、彼女は黙りこんでしまった。
こういう時は、無理に聞き出したりしないのがいい。誰にでも、自らのテリトリーは存在する。

知美の視線を追うと、そこには奈苗の姿があった。
寂しそうな背中を此方に向けて、夜を眺めている。

「…それで、拓にいちゃんに頼みたいことがあるの。」
「…」
「初対面って事もあるし、エマから 色々聞き出して欲しいんだ。」
「知美。」

知美の言葉に、思わず 声に力が入った。

「俺はやってもいいが、それは 卑怯なことじゃないか?
 その エマって子の本当の姿がどんなもんなのかは知らねーが、
 お前にだって、言いたくないことは山ほどあるだろう?自分が一番 解っているはずだ。」
「あ…」
「“その時”が来るまで、待て。」

澄んだ瞳が、見つめ返してくる。

「分かった…。」

知美は 少し困ったような笑顔になって、頷いた。
そんな彼女が こっそり一番風呂を独り占めしたのに気がついたのは、翌朝のことだった。