コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.19 )
- 日時: 2016/03/17 00:54
- 名前: Garnet (ID: rBo/LDwv)
何者なんだろう、アイツ———
薄緑のカーテンを開けながら、考えた。
身長のせいで 窓枠に視線が被ってしまう。
外は雨が降っていた。
近くの木の葉に、しっとり、雨粒が滲みこんでいく。
「拓にい、もう起きたの?」
陽菜が欠伸しながら言った。
「あぁ。…今日は、オレが朝飯作るよ。」
「え!」
パッチリした二重の目が、更に大きくなっていた。
そんなに驚く事か。
「あ、雨だぁ!!」
陽菜がはしゃぐ。
そういえば、今日は金曜日だった。鈴木さんと陽菜とで、街に降りて買い物に行く日。
雨なら 車に乗って。
彼女が大学を出る前、新車を買ったと聞いている。
静かなのとシートの感触が好きなのか、陽菜は 鈴木さんの車が大好きだ。
「じゃあ 奈苗を呼びに行くか。」
「そうだねー。
奈苗ちゃんもいてくれないと、目玉焼きが黒焦げになっちゃうもん。」
「一言余計だぞ」
オレは陽菜を肩に乗せ、静かに部屋を出た。
- Re: COSMOS ( No.20 )
- 日時: 2015/04/05 18:15
- 名前: Garnet (ID: OSvmcRAh)
オレたちのよりも 一際綺麗さが目立つドアを開けた。
少し低めに掛けてある NANAE のプレートが、からん、と軽い音を立てた。
「あれれ?いなーい。」
「そうだな。」
奈苗は、『此処』の住人にしては珍しく 1人部屋だ。
温かみのあるパズルマットが、余計に 大人達の思惑を際立たせてしまっている。
小さな布団もきれいに畳まれて、おとなしく 隅っこで夜を待っていた。
「ん?」
折り畳み式のテーブルの上に、スケッチブックが置いてあった。
オレは、それに引きつけられるように 表紙を開いた。
「勝手に見ていいの?」
「いいだろ、別に。これ位で怒るような性格でもないんだし。」
「うーん…」
50音の平仮名。
自分の名前。
そういうのが出てくるもんだと、思っていたのに。
3歳だなんて信じられないくらいの字で、彼女の想いが綴られていた。
≪8月 1週目
調べてみたら1945年だって。実感涌かないや。
もう60年も経ってるんじゃあ、探そうにも探せないよね。≫
2行の文の下には、似顔絵がある。
整った顔立ちの…小学生くらいの男の子…。
髪と目を黒く描いていないので、多分、日本人では無い。
もう一枚、捲ってみた。
≪8月 2周目
部活、羨ましいな…。
子どものままがいいけど、大人のことも、知りたい。≫
はっとした。
触れてはいけないものに触れてしまった、そんな感覚。
「拓にい!!」
陽菜が 一瞬の隙をついて、スケッチブックを奪い返した。
「これは、奈苗ちゃんの、大事な物なんだからね」
澄んだ瞳が、卑怯な中学生を見据えた。
- Re: COSMOS ( No.21 )
- 日時: 2015/04/23 17:28
- 名前: Garnet (ID: J/brDdUE)
「そう…だよな…」
回れ右をして、廊下に出た。
時々、ふと 思ってしまう。
ちゃんと大人になれるのだろうかと。
周りにいる子供たちは、いつも 年の割に合わない事をしたり、そういうことを言ったりする。
今のは全然違うけど、また考えてしまった。
「ん!いい匂い!!」
「へ?」
さっきの怒りはどこへやら、陽菜は パタパタと廊下を走って行った。
どれが真意なのか、何時のことまで覚えているのか。
最近…そんな事まで分からなくなっていく。
殺風景な廊下を進み、オレも台所に着いた。
「奈苗ちゃんって、お料理もできるんだね!」
「できるとは言えないけど。作れるのも、和食だけだし。」
「わしょく?」
「そ、日本のご飯。」
「へえ。やっぱお前、すげえな。」
そう言いながら 味噌汁の入った鍋を覗きこむと、
ちょっぴり照れくさそうに ありがとう、と奈苗が言った。
「あの頃は…お父さん、召集令状でもういなかったから——」
え?と顔を上げた時、奈苗も同じような顔をしていた。
陽菜が息を詰める。
「奈苗…?ま…まさか…」
「拓にいっ!!」
言葉の続きは出なかった。
翡翠の瞳が揺らいで、しゃがみこんでしまったから。
泣かせてしまった。
もう、誰にも涙は流させないって、決めていたのに。
ごめん…。
蘭…
奈苗…
「拓にいの…拓にいの、バカ!!!」
どうしてオレは、いつもいつも、こうなんだろう。
母に見捨てられ、
父には殴られ、
知らぬうちに こうして人を傷つけ———
なあ、
オレ、どうしてこの世に、生まれてきたんだよ…?
「奈苗ちゃん、いこ?」
「やだ。逃げない。」
陽菜が手を引こうとすると、奈苗は首を振った。
「忘れたくないもん」
「奈苗…」
「拓にーちゃんは、悪くないから。
陽菜ちゃん…。バカ、なんて 簡単に使っちゃダメ。」
「…」
今度は逆に、陽菜がしょんぼりした。
奈苗は さっと立ち上がり、再び味噌汁づくりを始めた。
もう、その瞳に涙は見えなかった。
「おー奈苗ちゃん、マジで作ってくれてん!有難いわ〜。
誰かさんとは大違いやな!!」
「うるせーよ」
寝ぼけ眼の蘭がやって来た。
この様子だと、話は聞いてないだろうな、多分。
「蘭ちゃん宿題頑張ってたし。私たちだって、頑張らないといけない。
…ていうか、寝癖ひどいよ!」
「げげ、ホンマやわ!洗面所行ってくるー!!」
蘭は気づいているのかな…
奈苗をじっと見つめていると、視線に気がついたのか こっちを向いて微笑んだ。
「ほら、拓にーちゃんも。焼き魚、あと5人分。」
「あ、あぁ。」
不意打ち。
色んな意味で、ドキッとした。