コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: COSMOS【レス数調整φ(..)】 ( No.215 )
日時: 2015/06/13 15:51
名前: Garnet (ID: mvR3Twya)

電車に乗ったとき、然り気無く訊いてみた。

——ねぇ、あれってどういう意味?

——あれ、って?

——月は太陽に勝てない、って言ってたの。

——ああ…
  蘭は、知らないほうがいいかもしれない。

なっちはそう言って、バッグから ピッチを取り出した。
慣れた手つきで、カチカチとキーを打つ。
クラスメートにでもメールしてるんだろうか。

——ふうん…。

なっちの返事に納得はできなかったけど、視線をずらして 窓の外にやった。
もうすぐ東京駅に着くらしく、周りがかなり明るくなっていた。
夜なのに人々は 時間も忘れて走り回っているのだと思うと、大人になるのが怖くなった。

高校、か…





「夏海お姉さん!」
「ん?」

東京駅からの新幹線に乗り込んだ後、私はお手洗いに立った。
そして、事を済ませてドアをガラリと開けると そこには男の子が立っていた。

「あ、トイレ待たせちゃった?ごめんね。」

誰なのか分からなかったし、何より眠かったので、さっさと席に戻ろうとした…けど。
くいっとユニフォームの裾を引っ張られる。

「どうした?」

ちょっと背が低めな その男の子に視線を合わせるため、しゃがんでみた。
今度は逆に、私が その子を見上げる形になっている。

「夏海お姉さん、今日凄くカッコよかったよ!また見たいな!バシーンってやつ!」

男の子はそう言うと、スマッシュの真似をした。
その動作が可愛らしくて 顔が綻ぶ。

「そっか。ありがとう。じゃあお姉さん、高校でもテニスやろうかな。
 その時には、君に応援に来てほしいよ。」
「ほ、ほんと?…あ、僕、中台瑞!知美ちゃんたちと同い年なんだ!よろしくね!」
「うん、よろしく!」

瑞くんが、小さな手を差し出す。私も そっと、手を重ねた。
その瞬間に、彼は パアッと笑顔を咲かせた。
小さな八重歯が見えた。

こんな弟が欲しかったな、なんて思ってしまった。
後々、この事を悔やむ日が、来るなんて知らずに。

「そういえば瑞くん、夏休みの宿題終わったの?」
「あ!トマトの観察日記、今週の分書いてない!」
「あらら…じゃあ明日書かないとね。」

がくりと肩を落とす瑞くんを見て、小学生の頃を思い出してしまった。



あの時は、この時間がいつまでも続くものだと思っていた。
泣いて、笑って、たくさん遊んで。

夏休みが、永遠に続くとさえ、思っていた。

ずっと、ずっと。
貴方と一緒にいたくて。

お別れとか、そんなこと、考えたこともない。

…でも。
永遠が叶わなくても。

私たちは、この夏のことを、一生涯、忘れることはない。