コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS【レス数調整φ(..)】 ( No.216 )
- 日時: 2015/06/14 21:26
- 名前: Garnet (ID: FFRec9Wj)
「じゃあ、この問題が解けたら 先生のところに持ってきてくださいねー。
丸を貰った人はドリルの30ページをやっててくださーい。」
先生の チョークを動かす手が止まった。
あの、カツカツって音は、結構好きかもしれない。
はーい、と皆が真伸びした返事をする。それと同時に、辺りは鉛筆の音だけになった。
そして、暫くその様子を眺めてから 私は席を立った。
「「先生、出来ました。」」
重なったその声に、互いに見合わせる。
麻衣ちゃんだ。
先にいいよ、と言おうとしたけど、麻衣ちゃんは 俯いてそろそろと後ろに下がる。
先生は、キョトンとしてそれを見ていた。
「あ、ありがと。じゃあ前貰うね。」
「うん…」
余計な仲裁を挟まれたくなかったので、努めて明るく振る舞った。
「はい、じゃあまずは知美ちゃんね。」
私が差し出したノートを受け取り、しゅるしゅると音を立てながら 丸をつけていく。
時々、挟んだままの下敷きを押さえたりしていた。
しゅるしゅる、しゅるしゅる。
そして最後に、先生の手が大きくグルグルと回った。
「全問正解!良くできました!!」
「えっ?」
渡されたノートには、沢山の丸の上に 花丸が描かれていた。
「うわっ、やったー!」
嬉しくて、スキップしながら席に戻る。
その途中で、エマと翔君とハイタッチしていった。
クラスの皆が ちょっと驚いた顔をしているけど、別に気にならない。
私だって、影ばっかりの人じゃないもん。
しかし、椅子に座った途端に、先生の残念そうな声が聞こえてきた。
「麻衣ちゃん、またうっかりミスしてるよ。…4問間違えたね。
早いのは良いけど、ちゃんと見直ししてね。」
「はぁい…」
麻衣ちゃんは、俯きながら ゆっくりと席に着いた。
すると、それを合図にしたかのように、ガタガタと皆が立ち上がり始めた。
エマと翔君も、丸付けの列に並んでいく。
「…」
一寸だけ開けた窓から、弱い雨の音が漏れてくる。
「麻衣…ちゃん。」
視線の先に、あの子の姿を捉える。
無表情に、ただただ ドリルの問題を解いていた。
髪の揺れ方も、癖のある鉛筆の持ち方も変わらないのに、麻衣ちゃんじゃないみたい。
心が其処に無い。
…こんなに長い喧嘩、初めてだ。
「トーモーっ!見てみて、ハナマル貰ったー!」
「僕は1問間違いだったよ、あーあ。」
ボーッとしている処に、2人がダッシュで戻ってきた。
「翔君、うっかりミスだった?」
「そーだよ。あーもう!」
ハハハ、っと3人で笑った。
でも、私達は 心からは笑えなかった。おんなじ目を、していたと思う。
早く、晴れて欲しいな。
- Re: COSMOS【レス数調整φ(..)】 ( No.217 )
- 日時: 2015/06/15 11:29
- 名前: Garnet (ID: nnuqNgn3)
遠くが白く霞む雨が 降っている。弱くはないけど、土砂降りでもない。
昼休み、教室の窓から 校庭を見つめていた。
カラカラだったその場所は、今や海と化している。
外は 時間の割りに暗くて、窓ガラスに私の顔が映りこむ。
その顔が、少しずつ変化していった。
3歳の時に出逢った、あのお婆さんの顔に。
「ねえ…貴方は誰なの…」
目元が奈苗ちゃんと瓜二つ。
でも、彼女の優しい笑顔とは違って、お婆さんの顔は怖かった。
「どうして私なんかを、助けてくれたの?」
答えてくれる筈は無いけど、聞いてみたかった。
はあ、とため息を吐くと、ガラスが白く曇って じわじわと端から消えていった。
「何ブツブツ言ってるの?トモ?」
その言葉と一緒に、私の肩に手が乗っかった。
「うわっ!」
手の重みを振り切るように後ろを向くと、エマがいた。
お婆さんの残像が、彼女に重なる。
「なんだ、エマかあ…ビックリさせないでよ。」
「何それ。他の人だと思った?」
「うん、まあ、ちょっとね。」
「...That's weird!(へーんなの!)あははっ!」
「へ?」
残念だけど、私には英語が通じない。
先生が、ぎょっとした様子でエマを見ている。
「あぁ、そうそう。引っ越しのほう、落ち着いたからさ。
前に約束したやつ、できそうだよ!」
「え、ティーパーティー?!ほんと?」
「ほんと。」
すると 今度は、水筒のお茶を飲んでいた先生が、むせ始めた。
そりゃあそうか。
小学生がティーパーティーなどと、たわけー、って 心の声が聞こえてくる。
「じゃあ、18日の月曜日、空けといて。」
「うん。…って、あ!」
その日が何の日なのか、気が付いてしまった。
そんな私に、エマはウインクをしてみせる。アメリカの女優さんみたいに。
「トモと、奈苗ちゃんだけの、招待だからねっ。」
- Re: COSMOS【レス数調整φ(..)】 ( No.218 )
- 日時: 2015/06/16 21:20
- 名前: Garnet (ID: 6k7YX5tj)
「…ってわけだからさ、奈苗ちゃん、一緒にエマの家に行こうよ。
2週間後。18日の月曜日に。」
「うわぁっ、ほんと?行きたい!」
「じゃあ決まりだね。」
夕食後、奈苗ちゃんの部屋に行って 事の経緯を話すと、彼女は目を輝かせながらOKしてくれた。
みかん色の灯りの中に、二人きり。
二人だけの、秘密の空間。
私からも、奈苗ちゃんからも、お風呂の石鹸の匂いがした。
此処が、私が唯一 心から安心できる場所。
ふと 彼女の手元に視線を落とすと、いつものスケッチブックが広げられていた。
「あ、また描いてるんだ。」
「えへへ。」
いつもと変わらぬ笑顔の、『あの子』。その右手には、1輪のコスモスが揺れていた。
こんな優しい瞳を、奈苗ちゃんに見せていたんだね。
この子と会って話してみたいな、なんて思った。絶対に無理なんだろうけど。
「ねえ、でも なんでコスモスなの?」
「…ふふっ。一寸訳あり。話すと長くなるから、また今度ね。
忘れてたら、言って。」
奈苗ちゃんは、『あの子』と同じ、優しい目になった。
きっと、本当にすんごく長くなるんだろうな。
「わかった。じゃあ 今日はもう寝るよ。おやすみ。」
「おやすみなさい、知美ちゃん。」
みかん色の灯りの中から、闇の中に そっと脚を浸して、静かにドアを閉めた。
10月にもなって 空気は縮こまり始めたけど、心はとても温かい。
隣に誰かが居てくれるって、こんなにも温かいことだったんだね。
もし、お婆さん…名前もわからないけど、貴方が助けてくれなかったら、
私は今頃 この世界には存在しなかったよ。
ほんとに、ありがとう。
その夜、私は夢の中で、彼女に感謝を伝えた。