コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS【レス数調整φ(..)】 ( No.228 )
- 日時: 2015/07/03 23:36
- 名前: Garnet (ID: 0exqyz.j)
「ママ。パパ。」
「陽菜ね、もう 幼稚園生なんだよ。」
「お友だちも、いっぱいできたの。」
小さな花束を そっと置いた。
「桜が咲いたら、今度は年中さん。」
しゃがんで、目の前の四角い石を触ってみた。
冷たいね。
…冷たい。
石には、文字が書いてあった。
奈苗ちゃんと鈴木さんが たまに書いている文字。アルファベットって、いうやつ。
文字が斜めになったりしていて ちょっと読みづらい。
「なんて書いてあるの?」
返事はかえって来ないけれど、石をずーっと見続けた。
太陽の光の眩しさと 暖かさに目を細めていると、後ろから誰かが近づいてきた。
「ユウナ・アイザワ、ハルト・アイザワ。」
あったかい、低い声。サラッ、と、芝生と靴が こすれる音がした。
ゆっくり振り向いてみると、眼鏡を掛けた 白髪のお爺さんが立っている。
「だれ?」
「ここを管理している者です。向こうに、教会が見えるでしょう?
普段はあそこにいますが、君が来たのが見えてね。」
「ふうん…」
「おや、憶えていないかい?鈴木恵理さんと一緒に 来ていたじゃないか。
えぇっと 確か…君が、2歳の頃だったかな。こうして、同じように話したんだよ。」
「うーん…ごめんなさい、おぼえてないみたい。」
ばっと頭を下げると、お爺さんは はっはっは、と笑い始めた。
優しい笑顔だな。
「そうだよな、憶えている訳ないか。」
お爺さんはそう言って、隣にしゃがんだ。
銀色のネックレスが揺れている。
「ねえ、さっき言ってたのって、ママとパパのお名前?」
「うん。」
「もう一回、教えて?」
「ママの方が、優菜さん。パパの方が、陽人さんだよ。」
「ユウナさん、ハルトさん…。」
「そう。」
心のメモに、走り書きする。
忘れないように。消えてしまわぬように。
見つめてくる水色の瞳に 吸い込まれそうになる。
外国の、人なのかな。
「ねえ、ふたりは、アメリカで死んじゃったんでしょ?」
「うん。」
「お仕事に行くのに、飛行機に、乗って、それで…」
———海に墜ちた。
その言葉の代わりに出てきたのは、涙だった。
寂しい。悲しい。会いたい。
冷たい風が吹いて、花束の香りを 運んでくる。「泣かないで」、そう言うかのように。
お爺さんが、ぽんぽんっ、と頭を撫でた。大きくて 温かい手で。
「今日は、雪が降るらしい。早いところ帰った方がいいかもしれないよ。」
うん、と頷くと、目の前に 白いハンカチが差し出された。
その上に、キラキラ光る物が置いてある。
「なあに?これ。」
お爺さんは、それを手にとって、首にかけさせてくれた。
指輪が2つ通された、ネックレス。
指輪に埋め込まれたダイヤが、チカチカと煌めいた。
「忘れたら、駄目だよ。」
「え?」
「亡くなった人は、人の心の中でしか、生きられないんだ。」
「…?」
意味をのみこめなくて、暫く お爺さんを見つめていた。
もうすぐでお昼かな、と言いながら 2人で見上げた空には、段々と雲が増え始めている。
「ありがとう。これ、大切にするね。」
もう電車の時間だから、と、お爺さんにさよならを言って、墓地を出た。
また、会えるかな。
- Re: COSMOS ( No.229 )
- 日時: 2015/07/04 15:23
- 名前: Garnet (ID: Ze3yk/Ei)
「ゆーきやこんこ、あーられやこんこ…」
改札を通ろうとした時、三人の親子が後ろから通り過ぎた。同い年くらいの 女の子で、両親と手を繋いでいる。
東京からでも来たんだろうか。この辺りではあまり見ないような身なりだ。
「降っては、降っては、ずんずん積もる…」
歌っていたのは 女の子だった。
2人と繋いだ手をぶんぶんと振り、お父さんが時々 痛いよ、と 困ったように笑いながら言っていた。
「早くお祖母ちゃん家に行きたいよ〜」
「はいはい、あと駅五つだから。我慢して頂戴。」
「はーい。」
お祖母ちゃん、かあ…。
ポシェットから切符を取り出して、改札機に通す。
でも、出てきた切符を取ろうとしたときに、手が滑ってしまった。運の悪いことに 強い風も吹く。
「あっ!」
切符はひらひらと宙を舞い、あの親子の方へ飛んで行った。
どうしよう。あれ、高いのに。
そう思った、その時。親子の 父親のほうが振り返って、器用に 切符を掴んだ。
ガッシリとした腕。
その“男の人”は、女の子とそっくりな笑顔で 此方に近づいてきた。
そっとしゃがみ込んで、切符を目の前に差し出してくる。
「君のだろう?」
「う、うん。ありがとう…ございます。」
「どういたしまして。」
私は 切符を受け取った。
男の人の手は……………温かくなかった。
「あ、君、お母さんとお父さんは?」
きょろきょろと辺りを見回す その後ろから、母娘もやって来た。
「パパ〜、早く行こうよ〜。」
女の子が “パパ”のジャンパーを引っ張る。
「あら、もしかして迷子?」
女の人も、中腰になって じっと見つめてきた。
顔が陰になっていて、怖い。
いやだ…いやだいやだいやだ。
やめて。
見ないで。見ないで…!
気づいたら、後退りしていた。
「お、お母さんっ、も、お父さん、も…いないから。最初から、いない、の。」
首を 冷たい汗が伝った。
何を、怖がっているの。
「「…っ?!」」
“パパ”と“ママ”が息を詰めた。一番見たくなかった顔。
同情してくるような、今にも泣きだしそうな、それでいて蔑むような。
あのネックレスを見て、大半を理解してしまったらしい。
ごめんなさい、と言ってその場から駆け出そうとした時、更に傷を抉られた。
軽々しく、女の子は 言葉を投げ捨ててきた
「パパもママもいないなんて、へーんなのっ!」
へーんなの
へんなの
へん
…変。
ガツンと、頭を墓石にでもぶつけたような。一瞬、倒れるかと思った。
血の気がさあっと引いて、世界が無色になる。
女の人が怒っている声が、フェードアウトしていく。それと同時に、涙が視界を埋め尽くした。
ふらふら歩き続けて、何とか電車に間に合った。
—————4歳児にこれは、地獄だ。