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- Re: COSMOS【作者帰還←】 ( No.287 )
- 日時: 2015/09/28 11:45
- 名前: Garnet (ID: 9AGFDH0G)
淡い海ほたる色に輝く空に、少年は、白く弱々しい 小さな足を踏み出した。
蹴りあげるものが何も無い場所へ、彼の身体は投げ出される。
冷たい風が全身を包み込み、少年は、これで漸く 愛する人に会えるのだと、心の奥が吹き抜けるような想いだった。
しかし彼は、大きな青い瞳を閉ざすと、其の瞼の裏側に、哀しげな少女の表情を見た。
少年が、最も恨んでいる人物の娘。
何も知らないあの女の子。
彼奴と同じ、翡翠の瞳を。
彼奴と同じ、赤みのある茶髪を。
彼奴と同じ、鋭い目付きを。
皮肉にも、彼女は全て併せていた。
サツイさえ抱いてしまいそうで、怖くなった。
こんなことを考えている自分が、恐ろしくて堪らなかった。
急に、突然に。死にたくないと、思った。
少年は次の瞬間、ありったけの力を振り絞って、壁を蹴った。
鈍い痛みが全身に駆け抜ける。
気付いたときには、必死に 木の枝を離すまいともがいて……
闇に見える白い息とは裏腹に、背中は 気持ち悪いほど汗で濡れていた。
少女の叫び声が聞こえる。
ああ、生きていてよかった。
手の甲に浮かび上がる赤い筋など、気にも留めずに。
少年は、其の儘暫く 枝と葉に引っ掛かる、見慣れぬ星空を眺めていた。
———その男の子、頭が良いんだよね、きっと。
だから 見たくないものまで見えちゃうんだよ。
別れ際に エマに言われた言葉が、妙に頭の中でエコーする。
賑やかな街から帰ってきて、此方がやけに静かに感じた。
人は居ないし、道路はガタガタだし、大きな電工掲示板も、大音量のBGMも掛かっていない。
精々、数百メートルおきに 古い街灯と電柱が数本走っている位。
そして、一寸道を逸れれば雪だらけ。
でも、此処から見られる雄大な星空は、誰もが誇らしく思える程美しい。
此処の春の訪れは、透明で、earth collarで、綺麗だ。
暗闇の中でもがいてきたのなら、其処から這い上がろうとしているのなら、此処はきっと、貴方の心をぴかぴかに磨いてくれるよ。
優しく、包み込んでくれるよ。
「あの子にとっての幸せが、何処かに無くなっちゃったんだよね。」
知美ちゃんが 白い息を吐きながら呟いた。
繋ぐのをやめたその左手は、癖なのか、脚を踏み出す度に ぶんぶん前後に揺れる。
周りの景色にオレンジ色が溶け込んで、私達だけ異世界に居るようだ。
雪がキラキラと輝いている。
「どうしたらいいのかなあ……」
ぽつんと漏れた言葉と一緒に、もう一度、前の方で白い息が流れていった。
銀髪の男の子は、少しずつではあるものの、ご飯を口にするようになった。
最初のうちは バナナやリンゴくらいしか食べなかったが(しかも有機栽培)、もう一度 蘭ちゃんのハンバーグを彼に見せると、渋々フォークで切り分けて食べ、一時間程掛けて完食してくれたのだ。
あの時の蘭ちゃんの顔は、一生忘れられないと思う。
涙に潤んだ瞳、ありがとう、って言って飛び付きたいのを 必死に堪えて噛んだ唇。
きっと、考えたことは皆一緒の筈。
「……私達も、彼の事を知ろうと努力しなくちゃいけないよね。」
「え?」
私の言葉に、知美ちゃんが足を止める。
サクリと、雪を踏み締める音が 辺りに響いた。
「私達、求めてるばっかりで、歩み寄ろうとしてないような気がする。」
「歩み、寄る…」
吹き付ける北風に、長い黒髪がふわりと浮き上がる。
彼女の綺麗な横顔を、柔らかな陽の光が照らした。
「私、一寸なら英語は平気なの。彼と話をしてみようと思う。」