コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.289 )
- 日時: 2015/09/21 20:32
- 名前: Garnet (ID: NStpvJ0B)
(作者の英語力には限界がある為、以下、日本語でお送り致します。)
淡い蒼色にぼんやりと光る部屋。
彼は、また、何かに祈るように 窓辺に立って夜空を見上げていた。
其の後ろ姿は、誰が見たって明らかに寂しそうで。
「綺麗でしょう?」
切り揃えられた銀色の髪が、さらさらと風に揺れる。
私は ドアを開け放した儘、音を立てないように、深海のような此の部屋に足を踏み入れた。
床が僅かに軋む。
何時だっかたか、知美ちゃんに おんなじことを言われた。
「なんで」
彼の所まであと数歩というところで、意志の強そうな声が空気を伝った。
思わず、足が固まってしまう。
「なんでお前は、そういう目で見るんだよ。他人事みたいに哀れみやがって。」
決して、4歳児には見合わぬ言動だ。私がそんなことを言えるものでは無いが。
しかし、少々暴力的な 中学生の反抗の如く言葉を吐き捨てられた処で、此方は良い気持ちはしないわけで。
かといって、挑発に乗るのもよろしくないだろう。
「哀れんでいる積りは塵程も無いよ。……ねえ、星、綺麗でしょう。」
「汚ないと言えば嘘になる。」
わざと反らした話に、彼も 仕返しと言うかのように、素直じゃない答えを言ってくれる。
「正直に、綺麗だねーって言えば良いのに。」
私がそう言って、窓の方に頭を向けて寝転がれば、彼はそっと振り返って 窓台に肘を乗せた。
こうして見上げると、彼が逆さに見える。
腕は敢えて投げ出し、何も隠し持っていないと 間接的に相手に伝える。
頭を相手の近くに置くことで、無防備さをアピールする。
何しろ、相手はとんでもない身体能力の持ち主。そして、エマの言うように、頭も良いんだろう。
暴力の腕は知ったこっちゃないが、カッターナイフ一つあれば、もしかしたら、私のことを———
海の青い瞳に、無表情な私の顔が映り込む。
とても冷たい目だと思った。何もかも拒んできた、冷たいつめたい氷の目だった。
「アイベラに比べれば、こんなものはちっぽけだ。」
「アイベラ……?」
血色の悪い唇が小さく動く。
「アイベラ半島。お前の父親の故郷、アイルランドのな。そして僕もまた、アイリッシュだ。」
これまた彼は、4歳児とは思えない程の 薄気味悪い笑みを浮かべる。
「……え……ぇ?」
あまりの驚きに、声が掠れてしまった。
こんな格好の儘、目を見開いて、何も出来ずにいる。
何とも滑稽だろう。
勝敗があるのだとすれば、完全に私は敗者。成す術が無い。
彼の後ろで、流れ星が 星屑の中を細く真っ直ぐに駆けて行った。
- Re: COSMOS ( No.290 )
- 日時: 2015/09/27 13:12
- 名前: Garnet (ID: GlabL33E)
「どうやら、思ったよりは頭が切れないようだ……。」
彼はつまらなそうに言って、腰を落とした。
細い背中を冷たい壁に預け、左足を立て、右足をそっと伸ばしている。
顎を上げて、見下すように見てくるものだから、不本意にもカチンと来る。
何かされそうになったらその足首を捻ってやる、なんて恐ろしいことは、私は思っていない。
「僕の正体を探ろうだなんて馬鹿な事は、考えない方がいい。今其を話した処で無意味だからな。」
「…」
青い瞳の奥で、不完全燃焼している火種が燻っていた。
「でも、英語を話せるとは 感心したよ。両親が居ない今、誰に教わっている?」
「文法的なものだけなら、中学生なり高校生なりに幾らでも訊けるよ。
でも 其れじゃ会話にならないから、此処の一員である、私の母の妹——叔母に教わってる。
英、米、日と、子供の頃から飛び回ってきた彼女に。」
「僕を迎えに来た彼奴等の中の、弱そうな茶髪の女か?」
「そういう言い方は止めて欲しいですね。」
「だったら名前を教えろ。」
穏やかになりかけた口調が、突然棘を持つ。
此方が一酸化炭素中毒になりそうだ。
「……鈴木恵理」
怒りでもあり 恐怖でもある感情に脳内を支配されて、何処かに消え入ってしまいそうな声で答えた。
そんな私の心を見透かしたのか、暫くの沈黙が流れた。
初めて出会ったあの日から 色々と考えてはみたのだけど、私とこの人との接点は、如何頭を捻っても思い付かなかった。
ただ、今さっき、彼がアイリッシュだとわかって……。
ひとつだけ、可能性が浮かび上がった。
————お父さんと、血縁者である可能性。
だけど、根拠が全く無い。
お父さんの瞳の色は琥珀色なんだと、お母さんが言っていたし。対して彼は綺麗な青色。
お父さんの写真は無いし、恵理さんも、会ったことはないと言っていた。
二人の出逢いについても、詳しいことは聞いていないらしい。
彼は私の言葉に目を見開くと、立てた膝に頭を乗せた。
シルクのような髪が静かに垂れ、其の表情を隠した。
唇が微細に痙攣している。
「…どうしたの?」
様子がおかしいことに気付き、私は 身体を起こした。
其処で何かがはち切れたかのように、彼の呼吸が荒くなった。
変な音が混じって、時々途切れたりする。
「も、もしかして……!」
「触るな!」
彼に触れようと手を伸ばすと、思いきり叩かれた。
うっすら汗の浮かぶ顔を上げ、キッと此方を睨み付ける。
「前から"こう"だ。薬も、ある…し、楽な姿勢は、自分が、一番、解っている……」
「ごめん…なさい…。」
「大人は呼ぶな。面倒なことは嫌いだ。
彼奴等には言うなよ。」
「解った、言わないよ、誰にも。言わないから。……でも、心配なの。心配くらいさせてよ。」
鋭い表情が、言葉を紡ぐ度に滲んでいく。
限界までぼやけて、其は 頬を滑り落ちていった。
「お前…」
俯いた視線の先に、赤く腫れた自らの手があった。
冷たい涙の粒が 蒼白く輝いて、手の甲にぽつりと零れ落ちる。
「嫌われたって、恨まれてたって、どうでもいいの。怖いけど、そんなことは我慢する。
……貴方の姿が 私と重なるの。放り出して逃げられないの。
貴方が飛び降りたとき、凄く凄く怖かった。
私の所為だって、そのことがずーっと頭から離れなかった。
貴方にとって、哀しみ以上の辛さを与えてしまったのなら、私は、一生掛けてでも償う。
でも、そんなこと以前に、貴方は、私達の、家族だから。家族に、なったんだから。」
自分でも、言ってることが訳分からなかった。
頭の中がこんがらがって、おかしくなりそう。
たかが4歳児の、覚えたての英語だ。ぐっちゃぐちゃで汚ないだろう。
寄り添いたいんだと、解りたいんだと、伝えるのに必死だった。
そして、他人の前でこんなにも泣きじゃくる自分が情けなかった。
今私は、とんでもない恥を曝している。
馬鹿だ、この上ない馬鹿だ。
「…………ナナエ。」
「……?!」
呼ばれた名前に、反射的に涙が引いた。
いつの間にか、彼の呼吸も整っていて。
「おまえの、なまえ、しってる。ナナエ・エイリー。」
片言の、精一杯の日本語だった。
恐る恐る、顔を上げてみる。
「え……」
「おまえは、うそつきじゃない。ギゼンシャじゃない。」
上手かった。普通に上手かった。
「きずつけて、ゴメン。
あいつら、むかえにきたとき、ナナエのはなしばっかしてた。
やさしくて、ココロがきれいで、あたまがいいって、エリ、いってた。
……ほんとは、にほんご、すこしならはなせるし、わかる。
でも、うまくないから、からかわれるのやだった。」
「私たちは、馬鹿にしたりなんてしないよ。私、恵理さんが言うみたいなんかじゃないよ。
日本語だって、其で充分だよ。私の英語の方が愚駄愚駄だ。」
「ナナエ…」
海を映す瞳に、さざ波が立つ。
燻る火種は、冷たい北風に吹き飛ばされて、夜空の何処かへ吸い込まれていった。
"意識"では、貴方は私を許すと言った。"無意識"は如何なのかは解らない。
でも、恨むんなら、私は其で構わない。
きっと、真実を追い求めているのは同じだから。
「ぼくの、なまえは———」
寒さに凍える小さな蕾は、春になれば、必ず花開く。