コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.304 )
- 日時: 2015/10/29 21:51
- 名前: Garnet (ID: kXLxxwrM)
〔Daniel 4歳(5歳)春〜初夏〕『夜と朝の狭間』
目の前で、コップの中の氷がカラリと音を立てる。
アイスティーと氷を入れたガラスのコップに、ストローがそっと差し込まれた。
「どう?日本の生活には慣れた?」
ニット帽を深目に被った男性が、組んだ手に顎を乗せながら訊ねてきた。
帽子の端からプラチナブロンドの髪が見え隠れする。
綺麗な青い目が僕を見詰めた。
安っぽい騒がしさが室内を満たすファミレス。
赤ん坊連れやカップル、中高生が多いなかで、僕ら二人は 隅っこで静かに向かい合っている。
勿論禁煙席で。
「まあまあ、ですかね。お米には中々慣れません。」
「ジャポニカ米は 君の口には合わんか。ハハハッ。」
結露して濡れたコップを掴み、ストローをくわえる。
少し遅れて口に入ってきたアイスティーは、何だか薄くて味気無かった。
「なあ、ダニエル……」
「はい?」
「君は、此処に残る覚悟はあるか?」
「はい。」
「何度も言うが、日本でその髪色はとても目立つ。
それに………この言葉はあまり聞きたくないないだろうが、君は"彼女"によく似ているんだ。
その頭と容姿にアイツが惚れ込んだりすれば、何をされるかわかったもんじゃない。」
「…」
「それは君に限らず、奈苗も同じこと。
ルビーは、今こんなことが起こっているとも知らないんだ。どうか、護ってやってほしい。」
「……はい」
静かに滴が垂れていく。
俯いて拳を握り締める僕に、彼は苦笑いを浮かべた。
「恨みたくなる気持ちも解るがね…。僕も昔、大切な人を奪われたクチだからな。」
「え?」
初耳の事実に、思わず顔が上がった。
すると、彼はまた、苦虫を噛み潰したような表情になる。
……母さんまで死んでしまっとき、悲しみのあまりに泣けなかった僕を、同じ顔で抱き締めてくれたのを…昨日の事のように覚えている。
「あれ、話したこと無かったっけ。」
「ええ…だって、スカウトされて入ったと……」
僕の言葉に、彼は白い睫毛を伏せて コーヒーを啜った。
「まあ、入ってからの話だから、入局の動機とはほとんど関係ないんだ。
…………彼とは、出会ってから別れるまでの時間がとても短かった。
かなりの敏腕でね、"どっちでも"深い信頼を得ていたんだ。よく笑う人だったよ。」
「へえ…」
もう少し話を聞きたい気もしたけど、彼がニット帽で目を覆ってしまったので、思わず言葉を嚥下した。
硝子の壁の向こうで、お洒落な格好をした四人親子が 楽しそうにこの店の前を通りすぎていく。
高校生位の兄と、僕と同じ位の妹と、二人によく似た笑顔の両親。
他にも人は多く行き交っているのに、彼等だけが妙に目についた。
前に会ったときより 皺の目立ち始めた彼の頬。
食い縛る歯が覗いて、薄い唇が小さく動いた。
—————死ぬもんか
赤黒い世界がちらついた気がして、頭の中に強風が吹き荒れた。