コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.363 )
- 日時: 2016/01/08 01:35
- 名前: Garnet (ID: cYeSCNTQ)
「君は、本当に素敵な子だね。
良い子の周りには、良い子しか集まらないんだよ。
夏村さんも、えーっと……吉田さんと言ったかな、兎に角彼女も。いい友達じゃないか。
さっきのことも、実は、全部見ていたんだよ。
だから 運転手の鹿沼に、駄目にしてしまった買い物の品を買い直して貰ったんだ。」
「え…っ」
目を見開く夏村さんの隣で、自然と顔が火照ってしまう。
いい友達だと言ってもらえたこと、私を素敵だと、言ってくれたことが嬉しくて、擽ったかった。
そして、何より。
夏村さんと私は、もしかしたら、もう友達になってるんじゃないかって。思っちゃって。
「駿河さん……」
「は、ハいッ?!」
そう思っていたらいきなり彼女に呼ばれたから、飛び上がりながら 変な声を出してしまった。
「あ、あのさ…その…、知美って、呼んでも良い?」
細い人指し指で 頬を撫でながら、目線を下のほうにずらしてパチパチ瞬きされる。
…………え?
今、何て?聞き間違い?放送事故??
頭の中、大パニック。
車の振動で、夏村さんの短い髪が 小さく揺れている。
薄くなってきた夕陽が、すらりと細い身体のラインを縁取るように、金色の光で彼女を照らしていた。
これは、嘘じゃ、ないな。
「う、うん!良いよ!
私も、夏村さんのこと、レイって呼びたい!いい?」
「勿論。」
「う、わあ!やったあ!」
嬉しさの余りに シートの上を跳び跳ねまくってしまう。
「吉田さんも、あたしのこと、レイって呼んでよ。
あたしも、麻衣ってよぶから。」
「え…でも、呼び捨てなんて恥ずかしいよ。」
「良いじゃん別に。」
「……じゃあ、レイ…?」
「なーに。麻衣。」
「え!」
「ふふっ、冗談だって。」
私を挟んで話している レイと麻衣ちゃんも、何だか、隔たりが解けて すっきりしたみたい。
「ねえ、それなら、知美と麻衣も呼び捨て合ったら?」
「え?」
突然の提案に、少し吃驚する。
「何か、不公平かなってさ。」
「そうしたい気持ちは山々なんだけど、1年生のときから 知美ちゃんとは呼び捨て合ったことが無いんだ。
これからもっと仲良くなって、自然にそうなれる日が来たら、そうしようと思ってる。
知美ちゃんを呼び捨てには出来ないけど、大好きってことには変わりないからね?」
「麻衣ちゃん……っ!」
思わず、夕陽の匂いがする麻衣ちゃんに、抱き付いてしまう。
各々の家に着くまで、車内の空気はずっと、温かい儘だった。
クラスを越えた友情。
初めてそれを目の当たりにした、もうすぐ9歳の秋。
「素敵ですね、松井さま。」
「ハッハッハ、だから、子供は大好きなんだ。
何なら鹿沼、君も呼び捨て合うか?」
「まっ、松井さま!!」
運転手さんが ハンドルを握る手を緩めてしまい、車が大きく揺れる。
私達は、それにツボってしまい、ずーっと、笑いが止まらなかった。
今年初めての空っ風が吹くのは、何時になるだろう。
伊香保でのんびりしてきた松井さんが私を迎えにきたのは、土曜日の朝10時頃だった。
「お迎え、一番乗りやなあ。楽しんできてね、知美ちゃん。」
「うん!」
「気を付けてね。」
蘭ちゃんと奈苗ちゃんが、心なしか 寂しそうに声を掛けてきた。
大きな荷物を肩に背負って、玄関まで見送ってくれる皆に 挨拶する。
蘭ちゃんと拓にーちゃんと、奈苗ちゃん、ダニエルくん、俊也くんは、参加しないらしい。
特に中高生組は、今回が最後の年なのに。
でも、彼等は 最後まで此処に居たいと言っていた。
それなら、その気持ちを尊重したいと思う。
5年後か……蘭ちゃんなんか、素敵なお姉さんになってるだろうな。
因みに、陽菜ちゃんは 鈴木さんに隣町まで送ってもらうらんだって。
お昼過ぎに出るからか、彼女は私を見詰めながら 足をバタバタ踏み鳴らしていた。結構緊張してるのかも。
「うーっ!いいないいなーっ!陽菜も早く行きたあいっ!」
「おい陽菜、落ち着けってば。」
「だーって……」
そんな陽菜ちゃんを、拓にいちゃんが抱き上げて落ち着かせている。
ほんとの兄妹みたい。
ツインテールをプルプルと揺らし 瞳を潤ませる姿が、何となく幼く見えてしまった。
そんなこんなで笑っていたら、後ろでドアが開いた。
振り向くと、あの優しい笑顔。松井さんだ。
お洒落なんだけど上品な服装で、見てる此方も安心していられる。
「お待たせ、知美ちゃん。こんにちは。
今日から2日間、短い時間だけど、宜しく。家で皆待っているよ。」
「は、はい!こんにちは!宜しくお願いします!!」
舌を噛みそうになりながら、精一杯の気持ちを込めてお辞儀する。
顔をあげると、また松井さんは微笑んで、そっと頭を撫でてくれた。
ずっとずっと前に、お祖父ちゃんに頭を撫でられたときの感触に とても似ていた。
「それでは、松井さん。
2日間、宜しくお願いします。何かあれば、遠慮なくご連絡下さい。
書類を読んでいただいた通り、知美は食物アレルギーはありませんが、若干 動物の毛やフケ、ハウスダストに弱い傾向があります。
それだけはご留意を。」
「了解しました。
知美ちゃんを、預からせていただきます。」
「はい。松井さんも、お気をつけて。」
まるでお父さんみたいな表情をする桑野さんと松井さんの会話を見上げていたら、2日間だけなんだけれど、此処を離れてしまうのが ちょっぴり寂しくなった。
廊下の奥から、忙しなく電話の鳴る音が聞こえてくる。
「それじゃあ、行こうか。」
「うん!」
でも、わくわくには、寂しさは到底勝てっこない。
見送ってくれた皆に大きく手を振って、私達は車に乗り込んだ。
いざ、新潟県、小千谷市へ。
松井さんの奥さまって、どんな人なんだろう。
新しく家族になった2人は、どんな風に喋るんだろう。
オーディオから流れる洋楽を子守唄に うとうとと微睡みながら、私は夢の中でもスキップしていた。
窓の外では、すじ雲が青い空を駆けながら 子どもみたいに笑ってる。
どうか、良い家族でありますように。
《『幸福を分け合えられたなら』完》