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Re: COSMOS【きっと夢だよ】 ( No.376 )
日時: 2016/02/24 22:43
名前: Garnet (ID: RnkmdEze)



心が乾くまで大泣きして、漸く笑えるようになったのは、太陽が西に傾いて 秋らしく色づき始めた頃だった。

江戸川沿いの近くにある広い土地の中の、何年も人の手が付けられていない廃屋を 2人でこっそり綺麗にして、私たちの住みかにした場所。
その目の前の 野生のコスモスたちを一望できる空きスペースで、拾い集めた枝や葉を使って火を焚く。



———ごめんね、今日は何も持ってこられなかったよ……



オレンジ色に揺れる火の中へ細い枯れ枝を放り込んでいると、申し訳なさそうな顔をするノアくんが戻ってきた。

彼はいつもは夕方、時々昼間にも 食べ物を求めて何処かに行ってしまう。
私も行く、と言っても 桜子ちゃんは此処で待っていてと制止されるから、其処だけは毎回もやもやするのだけど。

だから私は、



———大丈夫だよ、お腹空いてないし、水には困らないから。
   乾パンと金平糖、まだまだ一杯あるから ノアくんにあげる。



そう言って、お帰りなさいって抱きつく。

彼はそんな私を見て、何か言いたげに唇を震わせるけど、目を閉じて、私の髪を撫でて、夕暮れに何かを想って。
そうしているだけ。



———本があるんだ。
   上手くないけど、桜子ちゃんに読んであげる

———ほ、ほんと? ありがとう!
   早く聞きたい!

———ハハッ、じゃあ、少しだけ待ってて



屋根の下に置いてある荷物の中から本を取り出し、焚き火の前に置いた石に座って、その表紙を開いた。
ちらりと覗いてみたけど、表紙も中身も全部英語。
得体の知れないものを見ているようで、ちょっぴり寒気がした。 

赤い空が色褪せ、闇に蝕まれてくる。
それでも明るくて暖かいのは、この場所だけだった。



———ねえ、ノアくん。

———ん?



薄い色の瞳が、炎に照らされて私を捉える。



———その……、前に空襲警報が出たとき、防空壕の中で言ってたことは、やっぱり、本当のことなの?

———それって、僕がアメリカ人だってこと?

———…………うん



訊こうきこうと思ってはいたけど、中々切り出せなかったこと。

周りの大人たちは、心なんて無いんじゃないかって位、アメリカの人たちを酷く言っていたから。
幾ら私でも、そんなに憎まなくていいじゃない、って、思ってしまった。
口が裂けても言えないけど。
そんなことを言えば、私とお姉ちゃんたちが殺されかねない。
おかしな国だよね。
いつから日本は、こんな国になってしまったんだろう。



———ほんとだよ。
   僕は、6年前までアメリカに住んでた。
   ……捨てられちゃったんだ。家族に。