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Re: COSMOS ( No.76 )
日時: 2015/02/16 19:20
名前: Garnet (ID: T3oqfZAk)

真っ白な壁。
真っ白な天井。
真っ白な服。
迫りくる大人の身体。
子どもたちの泣き声。

「うわっ」

ちょっとよそ見する度に、大人にぶつかりそうになる。

「手ぇ離さんといてな。」

首を一生懸命に上に向けると、あの夜のことが嘘のような、優しい笑顔。
自分で話すより あの人に話してもらったほうが早いから、と
例の『須賀総合病院』に来たのだ。

「507号室……此処か。」
「此処が…蘭ちゃんのお父さんの、いるところ…?」
「せや。あと、なっちのお母さんな。」
「…」

蘭ちゃんが戸を横に引くと、音も無く 別世界が開けた。
機械に繋がれた男性が、皺の無い真っ白なベッドで眠っている。

「三枝さん、お久しぶりです。」

蘭ちゃんがそう言うと、
ベッドの近くの椅子に腰かけていた女性が、ゆっくりと 此方を向いた。
あの夜に見た写真の 夏海さんに、とてもそっくり。

「あら…蘭ちゃん、来てくれたのね。」
「あー。拓が急に来れなくなってもうて。」
「そうなの…。あ、その子もしかして 施設の子?可愛いじゃない。」

女性は立ち上がると、私に目が合うように ゆったりした動作でしゃがんだ。
きれいな黒髪と 笑った時の目元が、近くで見ると もっと似ている。

「エイリー・奈苗、3歳です。初めまして。」
「奈苗ちゃんっていうのね。綺麗な瞳の色…」
「ありがとうございます。両親がヨーロッパ人なので。……あ。」

言い終わって、大変なことをしてしまったと 気がついた。

「奈苗ちゃん…あなた…」
「あ…いえ、その…」

蘭ちゃんが焦って弁解しようとしている。
すると、三枝さんが くすくすと笑いだした。

「そういう個性も、あっていいと思うわ。
 将来 どんな大人になるのか、少し楽しみね。」

季節外れの向日葵みたいな笑顔の後ろで、ちらちらと粉雪が舞い始めた。