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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: COSMOS ( No.79 )
- 日時: 2015/02/18 19:28
- 名前: Garnet (ID: 2DtFjIhe)
「一番最初に産まれたのがね、夏海なの。」
眠り続ける男性を 切なそうな目で見つめながら、三枝さんが言った。
「私との間にできた子よ。」
心電図の音が、規則正しく鳴る。
同じように、酸素マスクも曇る。
「でも… すぐに、蘭ちゃんがよそで産まれたって…、ある日、この人が打ち明けたわ…」
きっと、蘭ちゃんは何度も この話を聞いているんだろうに、彼女は 逃げ出そうとも 涙を零すことも無かった。
私は『この人』をじっと見た。
こけた頬。
蘭ちゃんと同じ、栗色の髪。
点滴をさしている腕は 何となく弱々しくて、手は大きい。
確かに、顔つきは 拓にーちゃんに似ている。
私の考えていることを見越してか、
「蘭ちゃんは、この人の父に よく似ているの。」
にっこり笑って、蘭ちゃんの頭を撫でた。
はにかむ笑顔の後ろで、しんしんと雪が降り続ける。
「間もなく 会社はクビ。やけになって、こんな様になっちゃったって訳。
…まぁ、普段は誠実そうな人に見えるから……人聞きの悪い言い方になるけど、騙されるのも無理ないわね。」
三枝さんは 立ち上がり、窓を開けた。
凍るような空気が 足元を這ってくるのがわかった。
遠くから、灯油の移動販売のアナウンスが 微かに聞こえてくる。
でも そのツクリモノの声は、雪に吸いこまれていってしまう。
蘭ちゃんが歩んできた14年間の日々が遠くに置き去りにされて、ひと時の平和が この人たちを包み込んだ。
「そして3番目、拓君。」
その名を聞いて、チクリと胸が痛んだ。
部活にも入らず、勉強も 私たちの面倒も見てくれてたから…
「彼の母親は、病気で亡くなったと聞いているわ。あと…蘭ちゃんは…」
言いかけて、濁した。
蘭ちゃんの瞳を見つめてから、意を決したように はっきりとこう言った。
「自ら、それを望んだ。」
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