コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Eternal flowerー花言葉と君と。ー【挿し絵付!】 ( No.55 )
- 日時: 2015/05/20 19:30
- 名前: 彼方 (ID: hFRVdxb.)
濃い紫の花が置いてあった。
黄色くて丸いおしべとめしべを中心に、 細く短くて、赤っぽい紫の花びらが、放射状に広がっている。
今までこんな暗い色をした花は、「彼」は選ばなかった。____暗い色の花が、良い意味の花言葉なはずはないだろう。やっぱり、愛想を尽かしたのだろうか。水に黒いインクを垂らしたように、じわじわと、でも着実に絶望感が広がっていく。
この花の花言葉の意味を知りたい。 ああでも知りたくない。____だって、この花の名前を知って、花言葉を調べれば、そこで私と「彼」との交流は終わってしまうだろうから。
……でも、ここで悩んでいても、仕方ない。まだ悪い意味だと決まった訳ではないんだから。そう自分を鼓舞して、アイビーを呼ぶ呼び鈴に手をかけた。
すうっと息を吸い、ふーっとゆっくり吐き出す。…大丈夫、もう覚悟はできた。私は、ゆるゆると呼び鈴を鳴らした。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
アイビーがいつも通りの微笑を湛えて跪いた。私は、濃い紫の花を指差して言った。
「アイビー、これ、なんて言う花なの?」
するとアイビーは、ちらっと見てすぐに返答した。
「これは、濃色の菊ですね」
私は、アイビーがあまりにも速く返答するので、少し驚いた。
「あら、随分速く答えるのね。もしかして、のうしょくのきく、だったかしら、をここに置いたの、アイビーなの?」
少しいたずらっぽく笑いかけると、アイビーは珍しく焦ったように否定した。
「と、とんでもない!ええと……、僕はこれでもルルディ家に仕える執事の一人ですから、花の名前くらいは____。……どうかなさいましたか、お嬢様?」
きっと私は、未知のものを見たような顔をしていたのだろう。ルルディ家?……そんなもの、聞いたことがない。
「ルルディ家、って……、何?」
アイビーは、信じられないといった色を浮かべ、沈黙した。そして、恐る恐る私に尋ねた。
「まさか…………、旦那様から何一つとしてお聞きになってないのですか?……ご自分の苗字すらも____!?」
……ああそうか。物語で、偉い人や裕福な人は、 「苗字」とやらを名乗るものだと読んだことがある。私の家はすごく広いらしいのだから、苗字があってもおかしくはないのかもしれない。広いといっても、この部屋と庭以外、見たことがないけれど。
「ええ。お父様から聞いたことがあるのは、エリカという名前と、私はここから出てはいけないということ。その二つだけよ」
アイビーは、酷く衝撃を受けたかのような表情になった。
「そんな……。いくらお嬢様のことを____だからと言って、それはあんまりですよ、旦那様……っ」
誰に聞かせる訳でもない、アイビーの囁きは、小さ過ぎて、途中が聞こえなかった。
「私のことが、何?」
私の声で、アイビーは我に返ったようだった。
「あ、いえ、何でもありません。お気になさらないでください」
「そう。……それより、ルルディ家?とは、どういう家系なの?」
それを聞くと、アイビーは安堵したように微笑んだ。そんなに、詮索されたくないようなことを呟いていたのだろうか。
アイビーは、ふるっと笑って語りかけるように言った。
「では、お話致しましょうか。由緒ある『ルルディ家』の歴史を」