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Re: Eternal flowerー花言葉と君と。ー【挿し絵付!】 ( No.65 )
日時: 2015/08/26 11:52
名前: 彼方 (ID: hzhul6b3)

第八章*アイビー*

ぼんやりと霞む天井が見えた。
私は一度、二度、と瞬きをした。だんだん天井が鮮明になってゆき、そこで私は思い至る。そうか、私、目が覚めたんだ。
アイビーを呼ぶため呼び鈴を鳴らそうと腕を上げ、驚いた。自分の腕が、骨と皮しかないんじゃないか、というぐらい細かったからだ。
試しに顔に手をやると、頬骨が浮き出ていた。脚を見ると、太ももとふくらはぎの太さが変わらないほど細くなっていた。
一体どのくらい寝ていたのだろうか。少し恐怖を感じながら呼び鈴を鳴らした。
アイビーはすぐに飛んできた。ドアが壊す勢いで開く。アイビーの顔に浮かんだのは、呆然、驚き、そして、今までにないほどの喜びと安堵だった。
「お嬢様っ……。よかった、です。お目覚めになられて……」
そしてアイビーは何度か目尻を拭った。
「アイビー、私は……、どれくらい寝ていたの……?」
声が掠れて、息のノイズめいた音が聞こえた。上手く声が出せない。
「……一ヶ月でごさいます。水分は摂取しないと命に関わるので、何とか飲ませておりましたが、お食事は……」
アイビーが目を伏せて答える。
理解するのに時間がかかる。それがじわじわと染み込むにつれて、さらに信じられない思いが増して、思わず私は囁いた。
「1ヶ月……ッ?」
「左様です」
アイビーの冗談だと思いたかったが、アイビーの表情は茶化すような表情ではない。
一週間ずっと寝ている、というのだけでも尋常ではないのは分かる。だが一ヶ月となると、むしろ、目を覚ました方が奇跡に近いくらいの異常さだろう。
少しずつ寝ている時間が増えて、一週間になり、そして一ヶ月になり……。次寝たら最後だ。ふとそう思った。
だって、一ヶ月ずっと寝ているのでも、生死の境を何度も彷徨うほどにぎりぎりだろう。次は間違いなく最後だ。
「……ねえ?アイビー、私の病気ってどういう病気なの……?」
私は何とか起き上がり、ベッドに腰掛けて、アイビーに恐る恐る問いかけた。

アイビーは、何度も逡巡するように口の開閉を繰り返したが、諦めたか、ふーっと長い息を吐いてから答えた。
「…………『灰病』と言うものです。これに罹った人は、緩やかな速度で体調が悪くなって行くそうです。最初は風邪に似た症状で、それが慢性化してきた頃に、異常な眠気が現れるそうです。そして眠りの延長のように絶命するといいます。
これには、特徴が四つあります。一つは、生まれつきの病であること。それと感染力があること。絶命時に体が灰のようになること。そして、治療法が存在しないことです」