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Re: なるやん、時々へたつん。 ( No.4 )
日時: 2015/02/15 00:00
名前: 彼方 (ID: SrUKMM4y)

俺の席は一番前のドア側。望は俺の後ろだ。だから、誰かが入ってきたらすぐに気付く。今のように。
同じクラスの女子__日直だろうか、やけにたくさんのプリント類を一人で持っている__が入ってきた。
「よし、荷物持ってあげよ」
と呟いて望がその女子に声をかけに行く。
「大丈夫?オレも持つよ」
するとその女子は慌てて首を振った。
「い、いいよいいよあとちょっと何だし__あ、」
首を振った衝撃だろうか、その女子はプリントを、バサバサバサッと音を立てて落としてしまった。それをすかさず俺が拾いに行く。望だけにいい顔させてたまるか。モテないやつはモテないなりにせいぜい足掻いてやる。
「よ、吉岡くんっ。ごめんね、ありがとうっ」
驚いたようにその女子が言う。どうだ望見たか、モテない残念なやつでも女子に感謝されることがあるんだぞ!……モテない、残念な、やつ……。うっ……。
「ど、どうしたの、吉岡くんっ?人生に絶望したような顔して」
神様って不公平だよな……。
「いや。何でもないよ……。はい、プリント」
俺は言いながらプリントを全て拾い上げ、教卓の上に置いた。

すると望が俺の近くに来て、ぼそっと呟く。
「これ、お前しかかっこよくねーじゃん。お前ばっかにいい顔させてたまるかよっ」
いやいや、それはこっちの台詞だよ。
「ねーねー、小坂。これ日直が配るプリントだよね?」
「え?うん、そうだけど……」
その女子____小坂は怪訝そうな顔をして首を傾げた。望は一体なにを企んでいるんだ。
「じゃーオレ配るよ!一人じゃこんな量無理でしょ?」
あーそういうことか。小坂は断るために手を振って、遠慮がちに笑った。
「え、いいよいいよ。私一人で出来るし」
「いやいや、オレ暇だしいいよ!」
そう言って爽やかに望はプリントを配り始める。腹ん中じゃ、「ああ、人助けするオレかっこいい……っ」とか思ってるだろうことを、微塵も感じさせない爽やかさだ。

こいつだけにいい顔させて、後で「オレ、お前と違って人助けするしー?女子に感謝されまくりだしー?あーやっぱ俺かっこいい!!」とか言われるのはしゃくだ。
「俺も配るわ」
そう言って望の持っているプリントの半分を無理やりぶんどる。そして有無を言わさずに配り始めた。
「あ、てめっ、オレの手柄横取りする気だな!折角オレ様が『ありがとう、三澤くんっ……!!やっぱり三澤くんイケメン!!』とか言われるとこだったのに邪魔するなよっ!」
一瞬呆気にとられた望だったが、すぐに小声で抗議してきた。俺は眉をひそめて言い放った。
「それをさせないがために邪魔してんだろうが」
「やっぱ友哉ひどい!!優しさが全身から溢れ出てるオレと違ってひどい!!」
何を言ってんだか。
「優しさじゃなくて自己愛の間違いだろボケ」
「だって、こんなにイケメンで優しくて運動得意で欠点なしの最高なオレ様を愛さない訳にはいかないだろ!?」
「そう言ってる時点で欠点だらけだわアホ」
「え、どこが!?オレのどこに欠点あるの!?」
「まずお前はその自己愛を何とかしろ。話はそれからだ」
「だからーっ、こんなオレ様を愛さない方がおかしいんだって!!」

そんな不毛な言い争いを小声でしながら、俺達はプリントを配り終えた。
「あ、ごめんね、ありがとう、三澤くん、吉岡くんっ!」
その女子は俺達にお礼を言うと、女子の輪へ戻って行った。
「……何かさーあ、今の子、友哉に気があるっぽいよね〜。『吉岡くん』の方が熱込もってた、くそっ!」
「……いや、そんなことはあり得ないし、今問題なのはそのことじゃない」
何で____、
「え?じゃー何?クラス中の視線がオレらに集まってること?」
「それに決まってんだろ……っ!?」
何で、何でプリントを代わりに配ってあげただけでこんなに視線が集まるんだ……!
望は上機嫌そうに女子に微笑みかけたりしている。お前のメンタルの強さ半分でいいから寄越せ。というか下さい。
待て、俺、もしかして……?
「……そんなにキモかったか……!?」
 ああどうしよう。プリント代わりに配ってあげる、なんて望みたいなイケメンがやるから様になるんだ。俺みたいなブサイクなやつがやったってただキモいだけじゃねえか……!!
「友哉、この教室よーく見て。そしたらどこから『友哉が死ぬほどキモいから皆が注目してる』なんて結論出て来ないから」 
よく見ると、皆は俺らを見て何かひそひそ言っている。やっぱ俺キモかったかな。
「つか聞け。クラスメイトが言ってることを」
言ってること?
「やっぱ三澤くんイケメンだよねー!日直のプリント持ってあげて配ってあげるなんて」
あーそういうことか。『望かっこいい』というような内容を皆が言ってるのか。くそ、望の思い通りになっちまったじゃねえか。
「え、でも吉岡くんもかっこよくない?落としたプリント何も言わずに拾ったしー、プリント一緒に配ったしー、うち吉岡くん派だなー」
……あれ、おかしいな。幻聴が聞こえる。
「あの二人マジ何なんだよ。顔も性格もいいし、運動神経いいし」
「これじゃあモテるのも納得できるよなー」
「ほんっと、神様って不公平だよなー」
……男子の方からも幻聴が聞こえてくる。

「ほんと菜々架ってすごいよねえ」
そんなことを言いながら、俺の隣の席である、代々木桃音と、望の彼女である渡口菜々架が教室に入ってきた。
桃音と菜々架は、俺達にクラス中の視線が集まっている状況を見て、固まった。正しくは、菜々架は分かっていたかのように微笑んでいたが。
「…………え?……何この状況」