コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: なるやん、時々へたつん。 ( No.5 )
- 日時: 2015/12/31 00:14
- 名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)
プロローグ2「やんつん」
あたしは代々木桃音。恋愛運が無さ過ぎるのが悩みだ。初恋は、気付いたら相手が彼女持ちになっていて終わった。その後も、目の前で好きな人が友達に告ってるのを見かけて失恋したり、勇気を出して告ったら相手がホモだったり、もう散々だ。いい加減嫌になる。
今の恋は、それらに比べればマシなんだろうけど、相手が鈍感過ぎて困る。
まあ、恋が叶わないのは、あたしがなかなか素直になれないのも原因だろう。でもこればっかはどうしようもない。
あたしの友達に、あたしとは正反対で、すごく素直に想いの全てを伝えられる子がいる。すごく羨ましい……正直、ああはなりたくはないけど。
「桃音、おはよう。今日は遅いのね」
この子がそのあたしの友達。名前は渡口菜々架。……ただ、素直に全て伝えるっていっても限度があるんじゃないかな、とは思う。
「今日ちょっと寝坊しちゃってさー。菜々架っていっつも来るの遅くない?何で?」
すると菜々架は、少し寂しそうな顔をする。
「私も早く来たいのだけどね……。お気に入りの写真を眺めながら声を聞いていると、どうしても時間を忘れてしまって……」
「……何の写真で何の声?」
聞くのがすごく怖い。何故なら、あたしは知ってるから。
清楚なお嬢様として、男子の人気は高く、女子は羨む彼女の本性を。
「それは勿論、望の写真と望に仕掛けた盗聴器から聞こえる声よ」
菜々架が言葉にそぐわない、ふんわりとした上品な笑みを浮かべる。
菜々架は彼氏がいる。それも相手はクラスで一二を争うほどモテる三澤望だ。
菜々架は三澤を溺愛している。……はたから見ているこっちまで鳥肌が立つほど、恐ろしい溺愛ぶりだが。
彼女の本性を知っているのは、あたしと三澤ともう一人しかいない。
菜々架にとっては、こんなこと日常茶飯事だ。というより、写真(恐らく盗撮)と盗聴はまだマシな方とも言える。
昇降口まで適当な会話をしながら歩いていると、突然菜々架が笑みを溢して、
「あぁ、流石望。格好いいわ……っ」
と呟き出した。え、何怖っ。
……よく見ると、菜々架は片耳にイヤホンを付けている。長い髪に隠れて見えにくいが。あー盗聴してんのね、そういうことか。この執着ぶりはすごいよ、ほんとに、とあたしはため息を吐く。
「あぁ、出来ることなら私が彼女に成り代わりたい……っ」
心底悔しそうに菜々架が言う。彼女って誰だ。てか何が起こってるんだ。
「望っ出来ることなら今すぐにでも抱きついてその香りを嗅ぎたいわあぁ望愛してる誰より愛してる貴方は私だけのものだからね……」
これには最早慣れた。これを本人にも平然という菜々架の精神構造がどうなってるのか切実に知りたい。
「ほんと菜々架ってすごいよねえ」
もうそれしか言えない。そう言いながら教室に入る。
今日も一日が始まる。まずは、あたしの席の隣にいて、三澤とくっちゃべってるだろう吉岡に「おはよ」って挨拶するんだ。吉岡はあたしの密かな片思いしてるやつだ。大丈夫、ちゃんと普通に言える、大丈夫、大丈夫、だいじょ__!?
「…………え?……何この状況」
教室の中が普通じゃなかった。
教卓の辺りにいる三澤と吉岡に、教室の視線が集まっていた。
「やっぱ三澤くんかっこいいよねえ」
「吉岡もかっこよくない?」
そして漏れ聞こえる女子達の声。……一体全体どういうことだ。
さすがにこの状況で吉岡か三澤を締め上げて「何?これどーゆー状況!?説明して!?」と言えるほど命しらずじゃない。そんな事したら、たくさんの女子から
「え、何してんの桃音ちゃんマジ意味わかんないんだけど」
と影口を叩かれること間違いなし。あたしはまだ命が惜しい。
後で聞こ。ちょうど担任の先生来たからホームルーム始まるし。疑問を抱えてもやもやしたままあたしは席に着いた。