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Re: なるやん、時々へたつん。【オリキャラ募集!!】 ( No.47 )
日時: 2015/11/13 18:06
名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)

作戦開始、とは言っても、なかなか上手くはいかないだろうなとは思っていた。ことりんはずっと望一筋だったから。

「……そうなの?うわぁ、一緒に行ってみたいなぁ……!」
「それボクも思っとったっ!ようたん、今度一緒に行かん?」
「いいのっ?えへへ、嬉しい」
「____一体ことりんに何があったんだ……!?」

……いきなり上手くいき過ぎだろ。
ことりんと陽太は今度一緒にスイーツ店に行くという。____まだことりんと陽太をくっつけようって言い出してから1週間も経ってないんだけどな!?
「……絶対何かあったわよね、ことりん。だっていきなり『のんのん!』って言うのやめたもんね」
「……いいんだけど、何があったかすげぇ気になるよな……」
「ね……」
俺と桃音はそう顔を見合わせた。望は特に驚いておらず、当然のように振る舞っていた。……絶対何かあっただろ。
「……とりあえず、今日望問い詰めてみるわ」
「うんそうして?このまんまじゃ訳分かんないしね」

「…………んで?お前ことりんと何かあったの?」
帰り道そう望に聞くと、望は「うーん、まあ」と眉をひそめた。「んだよ、言えよ」と急かすと、渋々といった感じで口を開いた。
「全部話すと長くなるんだけどなぁー……、仕方ない、話すよ」
そう言って始めた望の話は、「何で今まで話さなかったんだよ!」というような内容だった。



「……ことりんっ!ことりんが来てくれたの分かったから、がんばろって思えたんだっ!ことりんがいなかったらあのサーブ、決まってなかったかもしんないっ!ありがとねーっ!」
中二の時。強豪校との試合終了後、そうことりんに声をかけたのを覚えている。
オレはいつもよりずっと好調だった。顧問にも「お前今日どうした」と聞かれるほど。
何でだかは自分でも分かっていた。ことりんが初めて試合を見に来てくれたのだ。それが嬉しくて仕方なくて、いいところを何が何でも見せないといけないと思っていたから。
嬉しかった理由なら分かってる。____オレはその時、ことりんが好きだったから。

きっかけは、ことりんが屋上で1人叫んでいたのを見た時だ。ことりんは自分が嫌われてる、と思っていたようで、それで悩んでいたらしい。
実際ことりんには言わなかったことだが、ことりん嫌われてたんじゃない。
可愛くて性格も良くてうざったくない天然で……と色々いいところが揃い、転校初日すぐに人気者になったことりんを妬んでいたのだ。
それで、何とか悪い噂を流してことりんを孤立させようとしていた。しかし、ことりんが孤立しかけたのはほんの1、2週間ほど。
ことりんの天然が計算じゃないことに皆気付き、今度は孤立させようとしていた子たちが孤立していった。
でもことりんは絶対に、自分を孤立させようとした子たちを恨まなかった。なんで恨まないのか、とオレが聞くと、
「Why?今は一人ぼっちやないんやし、わざわざ恨む必要ないやん」
と言ってのけた。

仲良くなればなるほど、いいところばかり見つかっていった。底抜けに明るくて、天然で、時々馬鹿で。何より向日葵みたいな笑顔が好きだった。
でも、ことりんに告白するのはすごく難しいことだってことは分かっていた。だって、オレには菜々架がいたから。
オレが中学生の頃は菜々架と付き合っていた記憶はないが、菜々架の中では付き合っていることになっていたらしい。なので、理不尽だが束縛が酷かった。
もしオレが好きなんて言ったら、菜々架はどんな手を使ってでもことりんを潰しにかかるだろう。ことりんにそんな迷惑はかけたくないから、好きなんて言えなかった。
オレがことりんを好きなのと同様、ことりんもオレを好きなのは知っていた。また、オレがことりんを好きなのをことりんも知っていた。

オレがことりんと結ばれなかったのは、間違いなく菜々架のせいだ。
菜々架がいなかったらもしかすると、イギリスへことりんが帰った後も遠距離恋愛をしていたかもしれない。
今は菜々架のことは苦手ではなく、むしろ付き合ってるぐらいだ、愛してもいる。でも、この頃はどうにも菜々架が苦手だった。
菜々架は自分の恋敵、つまりオレのことを好きな人を徹底的に潰していっていた。おかげで中学の頃、オレに告白してくる人は本当に少なかった。
それもあり、ことりんのことを嫌っているのもあり、何より束縛が酷過ぎたのもあり、とにかく菜々架が怖かった。
オレのメールや電話はもちろん、いつどこで何をしたかを全て知られている、と知った時はとにかく恐怖しか感じなかった。

一度、ことりんにそのことを打ち明けたことがある。ことりんがイギリスへ帰る直前の日だ。
その話を、ことりんは神妙な顔をして聞いてくれた。そして、しばらく間を空けて真剣な声色で言った。
「Mmm, it's scary.
____のんのん、ボクに好いとうって一回も言ってくれたことないやん?それってこういうreasonがあったんやんなぁ。きっと、ボクだけがのんのんを好いとるんやろうな、って思っとったときもあったんよ?
でも、これでボク分かった。……やけん、一回も好いとうって言わんでええから、ボクと付き合ってくれん?もちろん、遠距離にはなるけん、大変なんは分かっとる。でも付き合いたいんよ。
____って思ったんやけど、impossibleやんな。きっと隠れて付き合っとっても、バレるやろうし。やけん、ボクがそう思っとることだけ覚えててくれん?」
そう言ってことりんは、にこっと笑って小指を出した。オレが小指を絡めると、ことりんは「ゆっびきりげんまーんっ」と歌いながら手を揺らした。


そんな会話がイギリスへ帰る直前だったから、ことりんの中でのオレと菜々架の関係の認識は、そこで止まっていた。つまり、今もオレが菜々架のことを苦手だ、と思っていたのだ。
でもある日、というかちょうどことりんと陽太をくっつけよう、という話をしていた日にことりんと帰り道が一緒になった。

「……のんのん。今は菜々架のこと、どう思っとる?」
ことりんのいつもの笑顔はなりを潜め、真剣な色が浮かんでいた。
「…………今は好きだよ、菜々架のこと」
オレも真剣に返した。

昔は苦手だったけど、今は菜々架のことが好きだ。怖いくらいの執着心と束縛も、それだけオレが好きだってことだろうし。
それに、考えてみれば今まで辛いことを一緒に背負ってくれたのは、いつも菜々架だった。ことりんがいなくなって、菜々架のことを真剣に考えてみて初めて、気付いたことだった。
考えてみれば、オレのこの溢れんばかりの自己愛を全て受け止め、そして肯定してくれるのは菜々架くらいかもしれない。
それにあんな性格してるけどいつの間にか、いないと駄目な存在になっていた。

「……心の底から、そう思っとる?」
「思ってる。前は苦手だったけどね。今は菜々架がいないと駄目だなぁ」
悩まずにそう言うと、ことりんはしばらく俯いて黙った。そして、不意に顔を上げて言った。
「OK____ボク、このquestionでのんのんがどう答えるか聞いて、それで言うこと変えようと思っとったん。
____のんのん、今幸せやんな?やけんボク、のんのんのことは今、好いとる訳やないよ、好いとっただけ。……Thanks, 好いとったよ、のんのん」
花開くような笑顔をオレに見せ、ことりんは走り去っていった。