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Re: なるやん、時々へたつん。【オリキャラ募集!!】 ( No.50 )
日時: 2015/12/28 12:44
名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)

「…………だ、そうだ」
次の日の朝、登校する途中に一緒になった桃音にそう告げた。すると、桃音は「はあー……」と驚いたような顔をした。
「望にも、菜々架以外のことが好きだった時期ってあったのねー……。中学生の頃から一緒だったから、菜々架しかいないと思ってたわ」
「ったくあいつ、俺にぐらい言ってくれてもいいのに。あれ絶対、俺が言わなかったらずっと黙ってるつもりだっただろ」
一度舌打ちをすると、桃音は苦笑しながら言った。
「それだけ菜々架にバレるのが怖かったんじゃない?……でも何か、お互い好き同士なのに『好き』の一言も言えないのって、切ないわね」
「切ない、か。……俺には縁のない話だけど」
そう呟くと、「どういう意味っ!?」とやけに桃音が食いついてきた。

俺はその迫力に押されつつ、答えた。
「え、いや……俺、女子好きになりたくねえし」
「…………え……、友哉そういう人……?ごめん、距離置いてもいい……?」
その言葉を聞いてようやく、自分がとんでもないことを口走ったことに気が付いた。
「……あ!?ち、違う違う!男はもちろん論外!じゃなくて!」
「……じゃなくて?」
「人に恋したくねえなって。モテたいけど」
「……物に恋心抱いちゃう性癖…………?」
「何でそっちに繋げんのっ!?じゃねえよ、普通に恋したくねえの!それに、俺みたいなクズを好きになる奴もいねえだろうし。ってなると当然縁のない話だろ?」
恋はしたくない。だって、また同じことを繰り返したくないから。

すると桃音は非常に複雑そうな顔で黙り込んだ。
なんで黙ったのか顔色を伺っていると、桃音はぽつりと呟いた。
「…………唯ちゃん、は?」
「唯は俺とは釣り合わなさすぎるし、これ以上一緒にいると好きになっちゃいそうだからOKはしない」
「す、好きになっちゃいそうって何よ…………。ってことは、恋が『できない』んじゃなくて、『したくない』の?」
「まあ、な」

すると、桃音は苦い顔でまた、黙り込んだ。そしてしばらくして、桃音は微かな声で問うた。
「……何で……だかは聞かない方がいいの?」
「…………そうしてくれ」
正直、聞かれなくてよかったと思った。
何せ、恋がしたくなくなった理由は、思い出すだけで軽く鬱になるようなことだ。極力見ないふりをしていたい。
しかし、見ないふりを決め込みながら癒えるのを待っているが、どうも癒える気配がない。
そりゃ、傷ついたばかりのときよりはマシになった。でも例えるならば、血は止まったが一向に瘡蓋ができない感じだ。当然傷口はグロテスクなまま。
「…………何か、ごめん。聞いちゃって」
「…………いや」
桃音は重い雰囲気に責任を感じたのか、低い声で呟いた。
俺は、開きかけた記憶の扉を閉めることに必死で、ただ首を振ることしかできなかった。


「と、友哉くんっ!おはようございますっ!」
何となく重苦しくなった雰囲気を吹き飛ばしたのは、後ろから駆けてきた唯だった。
「おう、おはよ」
俺は、正直助かったと思った。こんな気まずい雰囲気、気が滅入る。
桃音もほっとしたようで笑顔を浮かべたが、すぐに「イライラしてます」という表情になった。
「あのっ、友哉くんっていつも購買でパン買ってますよね?栄養バランス偏っちゃうと思うので、よかったらこれどうぞっ!」
唯はそう言いながら、両手で小さなカバンのようなものに入った弁当を差し出してきた。
うっわ、女子からの手作り弁当とか初めて____いやいや、調子に乗るな、俺。
こんないいことがあったんだ、今月いっぱいは不幸しかないだろう。だって、今日ので今月分の幸福を使い切ってしまったはずだ。もしくは夢か幻か。

「……迷惑、でしたか……?」
俺が喜ばないのを見て、唯は心配になったらしい。俺は慌ててかぶりを振った。
「あぁいやいや!迷惑なんかじゃねえよっ?むしろすげえ嬉しい。ただ____これで俺の今月分の幸福使い切っちまったんじゃねえかって思って。それか夢か幻か」
すると唯は当然のように言った。
「な、何ですか、それっ?これぐらいでそんなこと言わないでくださいよ!お弁当くらい、いつでも作りますよ?」
「……ちょっと待て、お前仕事忙しいんじゃねえの?俺みたいなゴミのために無理すんなよっ?そんなことされたら俺、申し訳なさ過ぎて泣ける」
そういえば今思い出したけど、唯ってアイドルじゃん。結構学校早退とか欠席とかしてるし。お弁当作る暇なんてないはずなのに。

「…………時々思うんですけど、友哉くんは自己評価が低過ぎますっ!もっと自信持ってくださいよ!あと、お弁当はわたしが作りたくて勝手に作ってるんです、気にしないでくださいっ!」
そう言いながら俺の手をうるうるとした瞳で見つめる唯。その表情があまりにも天使過ぎて、直視できなかった。
俺は妙に慌ててしまって、目を逸らしながら言った。
「…………お、おう」
唯は花が綻ぶような笑みを浮かべ、「では、日直なのでお先にっ!」と走っていった。

「弁当って……あいつ忙しいはずなのに申し訳ねえなぁ……」
何だか気恥ずかしくなり頭の後ろを掻くと、桃音がやけにむすっとしているのが視界に入った。
「……桃音、何か怒ってる?」
「……は?別に怒ってないんだけど」
____間違いなく怒ってますね、はい。そういえば会話に一度も口を挟まなかったし。まさか……、

「……桃音可愛いな」
「……はぁっ!?な、な、な、何よいきなりっ!?」
桃音は途端に顔を真っ赤にして目を剥いた。
「い、言ってくけど怒ってる理由はそういうんじゃないからねっ!?変な風に思ったりしないでよっ?」
「あーあー分かってる分かってる」
「ほ、ホントにそういうんじゃなくて……っ!別に唯ちゃん何で来たかな、とか早くいなくなんないかな、とか邪魔しないでほしいな、とか思ってないしっ!?」
「分かってるって、あれだろ?一人だけなかなか会話に入れなかったから拗ねちゃったみたいな」
そう言うと、桃音は途端に凍りついた。やがて深々と諦めたようなため息を吐き、無言で歩き去ろうとしていた。

「ま、待てって、ごめんって」
「……何が悪いか分かってないでしょ、この鈍感馬鹿野郎っ!」
桃音は鼻を鳴らすと、ローファーのかかとを鳴らしてどんどんと歩いて行った。
「な、何で鈍感馬鹿野郎なんだよっ?つーか、そんなに怒んなくっても……ごめんって!」
「もう友哉なんか知らないっ!」
「え、ええぇっ!?ちょ、ごめんって、桃音と話せないとすげえ悲しいから勘弁して!?」
「……友哉のそういうところが嫌なのっ!少しは自覚しろ、この天然馬鹿っ!」
「えぇぇ……?天然って、違うけどなぁ……あれ、天然って何だっけ」
「この阿保っ!あたしもう知らないっ!」
「何かよく分かんねえけど、とりあえずごめんってっ!」
結局、桃音の機嫌が直ったのは二時間目の終わり頃だった。