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Re: なるやん、時々へたつん。【オリキャラ募集!!】 ( No.54 )
日時: 2015/12/28 12:46
名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)

「…………ない……!?」
何がって、定期入れ(を模したつっくーの写真入れ)が、だ。全く、あの写真高かったのに。
あの写真はいわばお守りだ。辛くなった時や疲れた時にあれを見ただけで疲れが吹っ飛ぶから、ないとやっていけない。
もし本当になければまた買ってもいいが、一人暮らしをしているため、無駄遣いはできない。それに、仕送りがとても少ないのだ。

何故なら、この高校に決める時に親と話し合った際、僕は
「田舎じゃBlue Nightのライブはやらないですが、都会に出てくれば行き放題です。最初から都会に住めば、交通費は安く済みます。
それにつっくーはどうやらこの街の高校へ行くらしいので、この街の高校へ是非行きたいです。一人暮らしをしてでもこの街の高校へ行かせてください」
と正直に言ったからだ。
両親には大反対されたが、結局「仕送りは最低限しか送らない。後は自分で稼げ」という条件付きで了承された。
そのため、仕送りがとても少ない。一ヶ月分の家賃にギリギリなるかならないかだ。立地も悪ければ日当たりも悪い、古くて狭いアパートだというのに。最低限すら送らないのか、うちの親は。

まぁとにかく、あれがないと困る。なので一度家に戻ったが、探すために僕は学校へ舞い戻った。


「……参ったな……」
家を飛び出してきて、通学路を全速力で駆け抜け、昇降口の前に立ったところであることに気がついた。
あまりにも急いでいたためか、とんでもない格好になっていたのだ。

黒いTシャツの上からシャツを着、ボタンも第三まで開け、シャツを出していたので、すごくチャラく見える。
まさか自分が、服の上からシャツを着てしまったとは思わなかった。どれだけ焦ってたかこれで分かる。
さらに、家でゴロゴロしていた時の寝癖が逆に、そういうセットに見える。慌てて撫でつけても全く直りゃしない。
いつもしている黒縁眼鏡をかけていないことも相まって、「誰だこのチャラ男」状態だ。
せめてシャツを閉まってボタンを閉めるか、と思ったが、焼け石に水な気がする。
来る途中で同級生に一切気付かれなかったが、こういうことか。自分でもびっくりするほどに印象が違う。

どうするか、と悩んだが、ここで戻るという選択肢は存在しない。早く僕のつっくー(ただし写真)を取り戻したい。取り戻して早くキスをしたい(ただし写真に)。
ままよ、とそのまま上履きを履きつ潰して急いで教室へと駆けた。


つっくー(ただし写真)は無事に机の中に入っていたが、帰る時が問題だった。
「……やっぱり、どうしてもダメなんですか、友哉くん?」
昇降口から声が聞こえた。この優しい声は考えずとも分かる。つっくー(ただし本人)だ。
友哉くん、ということは吉岡さんと喧嘩でもしたんだろうか。
とにかく隠れて様子を伺おう。そして、話の内容によっては吉岡さんを叩きのめしてやろう。つっくーファンはいつでもつっくーの味方だ。

「…………考えたけどやっぱ____俺じゃ無理だ」
何が無理なんだ一体。僕は昇降口のロッカーの陰に身を隠しながら、盗み聞きをしていた。
「……何でですかっ?かっこいいし、優しいし、気遣いができるし、スポーツ万能だし、それに____」
「ちょ、ストップストップ。お前絶対催眠術にかかってんだろ。何度も言ってるけど、そんな王子様かってくらいのイケメンじゃねえし」
「王子様ですよっ!わたしにとっては」
「だからそれがおかしいっつってんだろ!どこをどう見ればこのクズが王子様に見えるってんだよ」
「クズじゃないですっ!王子様ですっ!」
「……お前一回精神科行ってこい。こんな、ブサイクだしキモいし運動も勉強も全然できねえし性格最悪だしそれに____」
「友哉くんこそ催眠術にかかってますっ!何でそんなに自分を卑下するんですかっ?」
____どうやら、喧嘩は喧嘩でも「友哉くん大好きです」「何でこんなクズなんだよおかしいだろ」というような言い争いらしい。卑屈だという噂は本当だったか。
っていうか、付き合ってるなら今更そんなこと言わなくても。

「何でって。俺がどうしようもないクズだからだよ、決まってんだろ」
「クズじゃないですっ!もっと自信を持ってくださいっ!」
「持てるかよ。俺がクズなのは間違いないだろ。つーか、お前いい加減目覚ませよ。俺なんかじゃ唯の黒歴史になるだけだっつの」
____どうやらこれは、相当根深い卑屈さだ。
よくある、「私ブサイクだから〜」と言いながら自撮りアップして「ブサイクじゃないじゃん」「可愛いじゃん」待ちの人とは訳が違う。
吉岡さんは心の底から自分をどうしようもないクズ野郎だと思っているらしい。どこをどう解釈すればそうなるんだか。

「____もしかして、わたしと付き合えないのって他の理由ありますか?」
____ん?付き合えないのって他の理由ありますか、って……付き合ってないんですか!?
「他の理由?何だよ」
「それは____」
しばらく声が途切れ、やがてぽつりと呟くような声がした。
「____他に、好きな人がいるとか。桃音ちゃんとか」
「…………桃音?何でまた」
桃音____あぁそうか、代々木さんか。
「だって友哉くん、桃音ちゃんには遠慮がない気がするんですもん。あと、友哉くんが使っているエナメル、桃音ちゃんからのプレゼントですよね?きっとわたしがあげても、遠慮して受け取らなかったんじゃないんかな、って思って」
「それは____桃音が……」
自分でも訳が分からないようにどもる吉岡さんの声が聞こえた。

不意にあははっ、とつっくーが笑うような声がした。涙混じりにも聞こえる湿った声だった。
「やっぱり、ですか。わたしに遠慮して、変な断り方しないでいいんですよっ?桃音ちゃんが好きだから唯とは付き合えない、ってはっきり言ってくださいよっ!
____ホントの理由聞けて、よかったですっ。そうじゃないかなとは思ってたんです。……これでようやく、諦めつきました。今まで、ありがとうございましたっ!」
そして、駆けていくような足音がし、だんだん小さくなっていった。
その音がしなくなった頃、「…………どうすりゃいいんだ、俺」という吉岡さんの呆然としたような声がした。

僕は考える間もなく、吉岡さんに近付いていた。
「つっく____じゃなかった、月詠さんを追いかけないの?吉岡さんはそれでいいの?」
「いやその……。つか、誰だお前」
怪訝そうな顔で吉岡さんにが言う。
「え?僕は中嶋だよ。中嶋優人」
「…………うっそ!?」