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Re: なるやん、時々へたつん。【オリキャラ募集!!】 ( No.55 )
日時: 2015/11/17 16:59
名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)

「え、だって中嶋 優人って____ゆうさんっ?お前あのゆうさんなのっ!?」
「うん、そのゆうさん」
そこで僕は思い出した。そっか、今すごい格好してるんだっけ。
「……ゆうさん、そんなチャラい格好する奴だっけ」
「急いで再登校したからTシャツの上からシャツ着たのに気付かなかっただけ」
「……髪型は」
「寝癖。家でゴロゴロしてたから」
「……眼鏡は」
「かけ忘れた。元々そんなに度強くないしね」
「はあー……。これはまた、随分と印象違うな……」
感心したように呟く吉岡さん。
「髪、それくらい跳ねてる方が逆に似合ってると思うわ。それと、度強くないんだったらかけないことをお勧めする」
そして苦笑いしながら「ただ、Tシャツ中に着て第三まで開けるのはやめといた方が無難だな」と吉岡さんは言った。
「そっか、じゃあ考えとく」
僕はそう頷いた。____あれ?何の目的があったんだっけ。

____そうだ。
「……じゃなくて!月詠さん追いかけなくていいの?このままじゃ月詠さん、振られたと思っちゃうよ?」
吉岡さんは視線を落として考え込んだ。
「………………いいんだ、それで」
そして、徐に呟いた。
「何で!?付き合ってるんじゃないの?」
「は!?そういう噂でも流れてんの!?」
酷く驚いたように吉岡さんは顔を上げた。
「噂というか……皆そう思ってるよ?」
「うっそだろ……っ!?うっわー、唯に悪いことした……」

ぶつぶつと呟く吉岡さんに僕は疑問を投げかけた。
「……何で、月詠さんと付き合わないの?月詠さんの何が不満?」
すると吉岡さんは焦って手を振った。
「い、いやいやいやっ、不満なとこなんてひとっつもねえよっ?可愛いし、性格いいし、料理上手いし、挙げ句の果てには人気アイドルだし。だから俺なんかじゃ付き合えねえんだよ」
「……告られてるのに?」
「告られてるからこそ、だよ。早くあいつは目を覚ますべきだったんだ」
「……卑屈過ぎない?」
「そうか?皆思ってるだろうことを言ってるだけなんだけど」
「……そ、そっか」
……駄目だこれ。手の施しようのないネガティブだ。しかも、あっけらかんとしたネガティブだからさらにたちが悪い。
「……俺なんてどうせ……どうせ……」みたいないじましい奴じゃなく、「え?俺クズだろ?」みたいな、それを事実として平然と受け止めちゃってる感じがする。

「……代々木さんは?」
そう訊くと、途端に吉岡さんは黙りこくった。やっぱり、好きなのかな。
「………………恋なんて、したくないんだけどな…………一体何なんだよこれ…………」
そう口の中でもごもご言ったかと思うと、「……あー!」といきなり叫んだ。
「わっかんねえわ!自分でも何が何だかっ!だから保留っ!」
「そっか、じゃあ聞かない」
「おう、そうしてくれ」

「……じゃ、月詠さんは追いかけないんだね?」
「付き合わねえし。なのに追いかけんのはおかしいだろ?」
「……そっか」
僕はそう返事すると、靴に履き替え始めた。
「……ゆうさん、もしかして」
「うん、僕が追いかけて慰めに行く」
毅然として僕が告げると、「ま、待った!」と何故か慌てて吉岡さんが声をかけてくる。
首を傾げると、吉岡さんは僕の胸元あたりを指差した。
「下に着てるTシャツ、脱いだ方がいいぞ。いきなりそんなチャラい格好のやつに話しかけられたら、ちょっとひくと思うし」
「そんなチャラく見えるかー……うん、分かった」
そう言いながら僕はその場で着替え始めた。
「おまっ、ここで……まぁいいか。誰も通らないだろうし」
吉岡さんは焦ったように目を剥いたが、すぐ諦めたようにため息をついた。

「じゃあ僕行くから」と言って走り出すと、後ろから吉岡さんの声が降ってきた。
「ゆうさーんっ!絶対お前の方が唯と似合ってると思うぞーっ!」
____どうやら吉岡さんは、僕がつっくーのことを好きだと勘違いしたようだ。そしてお世辞まで言ってきた。
嫌だなぁ、僕はしがないドルオタなのに。


____つっくーは、帰り道の途中にある小さな公園のベンチに座っていた。座ったまま、顔を隠すように太ももに顔を突っ伏していた。
近くまで寄ると、微かに鼻をすする音としゃくり上げる声がした。
追いかけてきたはいいものの、どうすればいいんだろう、と僕は今更ながら悩んだ。何も考えずに追いかけてきてしまった。

しばらくその場で固まってごちゃごちゃ考えたが、普通に慰めればいいか、という結論に達した。
僕はベンチの空いたスペース、つまりつっくーの隣に座り、ポケットからハンカチを取り出して肩を叩いた。

ハンカチやティッシュや絆創膏などを持ち歩く人は、男子はもちろん女子でも少ないという事実を最近知った。
一体皆は親にしつけられなかったのか。トイレの後には手を洗う、くらいに普通なことだと思っていたが。そのせいで「女子力高い」「おかん」なんて不本意極まりないことを言われるが____って、今はそんなの関係ないか。

不思議そうな色を浮かべ、つっくーは顔を上げた。その瞳は赤く潤んでいた。
その顔に一瞬理性が吹っ飛びかけたが、何とか持ち堪え、ハンカチを差し出した。
「泣いてたから気になって。月詠さんは笑ってる方がいいよ」
つっくーはハンカチをおずおずと受け取ってから、湿った声で尋ねた。
「……誰、ですか……?」
困ったな、そんなに分からないものかな。髪型と眼鏡を変えただけで、こうも変わるものか。

「えっと、中嶋 優人って言って分かる?」
一応一緒のクラスだが、これで「……えぇっと、誰ですか?」なんて聞かれたら立ち直れないかもしれない。でも、接点ほぼないけど、分かるかなぁ。
「……えっ?もしかして、あのゆうさんですかっ!?」
よかった、分かってくれて。
「うん、そのゆうさんです」
「全然違いますね……。分からなかったですっ……」
驚いたように言うつっくー。そんな顔もびっくりするほどに可愛くて、つっくー天使説の信憑性がさらに高くなった。

「何があったのかは分からないし、話したくなかったら話さなくてもいいから、せめて涙は拭いてよ」
何があったのか分からない、って嘘ぐらい許されるよね、うん。
「あ、ありがとうございます……何で」
「何で、って。そりゃ、月詠さんの笑顔が好きだからだよ」
思わずそう言ってから、しまったと思った。なんだこの気障な台詞。僕が言ったらサムいだけだって。
すると、つっくーはびっくりしたように目を開き、笑った。
「ゆうさんもそんなこと言うんですねっ、何か意外ですっ!それに、いつもと全然印象が違いますし」
あ、笑った。画面越しでも遠くからでも可愛いが、近くで見るつっくーの笑顔は格別だ。しっかり胸に刻みつけておこう。

「……とにかく、もし悩みとか聞いて欲しかったら今聞くし、邪魔です消えてくださいって言うんならすぐ消えるよ?」
するとつっくーは
「邪魔なんてそんなっ。声かけてもらえて、嬉しかったですっ!」
と少し涙声で言った。うん、天使だ。
「……あの、一つ聞きたいことがあるんです」
「何?何でも聞くよ?」
すると、つっくーは迷ったように口ごもり、やがておずおずと言葉を紡ぎ出した。
「………………し、失恋って、どう立ち直ればいいんでしょう……?」