コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: なるやん、時々へたつん。【オリキャラ募集!!】 ( No.62 )
日時: 2016/01/01 16:36
名前: 彼方 (ID: mvR3Twya)

「桃音、おはよーっ!」
後ろから背中を押されて、誰かと思って振り向くと望だった。あたしは「おはよ」と返しながら辺りを見回した。
「どしたの、桃音?」
望が疑問顔で一緒に辺りを見回す。
「……いや、あんた友哉とは一緒じゃないの?」
そう、望は大体友哉と来ているのに、今日に限って一人だったのだ。
「友哉なら今日休みだよ?今朝電話かかってきて『俺今日休むから、担任にそう言っといて』って」
「そう……、なら、いいけど」

あたしは望が一人でいるのを見て初めて、昨日の友哉の意味深な質問を思い出し、不安になってきたのだ。
いや、ちゃんと休みって連絡してるんだ、大丈夫、大丈夫。
それでも胸騒ぎは収まらず、真綿でじわじわと首を絞められているような息苦しさを感じた。

「おはよう、望、桃音」
後ろから菜々架が歩いてきた。
「あぁ菜々架、おはよ……」
菜々架は不思議そうにあたしを見た。
「どうしたの、桃音?元気がなさそうじゃない」
「う、ううん、何でもない。ただね、ちょっと友哉が気になって。昨日、何か様子がおかしかったから」
あたしはそう言いつつも、「でもホントに何でもないのよっ?でさ?」と話題を変えようとした。

しかし望と菜々架は、先程までとはうってかわって厳しい表情をしていた。
「桃音。様子がおかしかった、って、友哉、どんな感じだったの?」
固い声で望が尋ねる。
「何かね、元気がなかったのはなかったんだけど、いきなりおかしなこと言い出して」
「おかしなこと、って?」
菜々架も神妙な声色で訊く。
「えっとね、確か、『俺さ、生きてていいんだと思う?』って__」
その言葉を聞くや否や、望は走り出した。菜々架もそれに続いて駆け出した。
「え!?ちょ、ちょっと!いきなりどうしたのよっ?」
いきなりのことに一瞬怯んだが、あたしはすぐさま2人を追いかけた。

「ねぇ菜々架、どうし「後で説明するわっ!」
走りながら菜々架に問いかけると、菜々架は焦ったように叫んだ。
____初めて見た、菜々架の焦っている姿。菜々架はいつも柔らかく笑いながら物事をこなすのに。
菜々架はきっと望が浮気したとしても「ふふ、三澤くーん?」なんて笑いながら望を引きずっていくだろうに。
何でこんなに焦ってるの?

しかし菜々架は運動がとても不得意、バレー部の望とあたしについていける訳もなく、すぐに途中で咳き込みながらお腹を抱えて立ち止まった。
あたしが走りながら振り向くと、菜々架は横腹を押さえつつもそれでもまた、走り出した。
そんなに無理しなきゃいけないほど、切羽詰まった状況なんだろうか。


望は一つのアパートに着くと、階段を駆け上がり、『四〇五』と書かれたドアの前で立ち止まった。
あたしもそれに続いて立ち止まった。
ここが友哉の家だ。
「友哉?……友哉!ねぇ開けてよ友哉っ!具合悪くても玄関にくらい出られるでしょ?……ねぇってばっ!」
望は、がんがんとドアを叩きながら叫んだ。

あたしは荒い息を吐きながら望に問う。
「いきなりどうしたのよ……、ていうか、友哉の両親は?お母さんとかにドアを開けて____」
「いないんだ!友哉のお母さんはシングルマザーで働いてるからっ!兄弟だっていない一人っ子だから、家には友哉一人なんだッ」
焦燥感を瞳に写して望が吐き捨てる。
____知らなかった。友哉のことを、あたしは何にも。
望のその言葉で、そのことを改めて思い知らされた。

菜々架がげほげほと咳き込みながら追いついてきた。
「ちょ、ちょっと菜々架大丈夫っ?無理しなくても____」
「私はいいからっ、友哉はッ?」
地面に蹲りながらそれでも、菜々架はドアを見上げた。

「なっ、何でそんなに焦ってんのよっ?友哉が昨日変なこと言ったくらいで」
そうあたしが言うと、しばらく悩むように、望と菜々架は視線を下に落とした。やがて視線を交わすと、菜々架が呟いた。
「…………後でちゃんと、全部話すわ。でも、今は友哉が……っ」
「…………うん、分かった」
腑に落ちないながらも、納得するしかないと思い、頷いた。

しばらくがちゃがちゃとドアノブを鳴らしていた望だったが、痺れを切らしたように「あーもう!」と舌打ちをした。
「もうオレ管理人さんに鍵もらってくるっ!待っててっ!」
望はそのまますぐ、崩れ落ちるような勢いで階段を駆け下った。

1、2分後、管理人らしきおじさんを連れて望が駆けてきた。
「どうしたの一体。もう、せっかく掃除してたんだけどなぁおじさん」
望と菜々架とは対照的に、欠伸をしながらおじさんは、鍵の束の中からもたもたと1つの鍵を取り出し、差し込んだ。

がちゃ、と音を立てておじさんがドアを開けるや否や、望と菜々架がその中に駆け込んだ。
靴を脱ぐ動作すらもどかしい、と言わんばかりに脱ぎ捨て、2人は走っていった。
「…………何なんだい」
2人の必死さに唖然としているおじさんに、「あ、ありがとうございます!」と頭を下げて、あたしもついていった。


2人の姿は、奥にある友哉の部屋の中にあった。
菜々架と望は、部屋の入り口で立ち尽くしていた。
何事だと思って視線の先を見ると、
「…………嘘、でしょ…………ッ?」
あたしの掠れた声だけが反響する。
ぐにゃりと全てが歪んで見えた。悪趣味なドラマを見ているようだ。

だって、そこにいたのは____

まるでテレビを通して見てるかのように、現実味が全くなかった。「何で」の文字だけがうるさいくらいにぐるぐると巡る。
あたしは全身の力が抜けて、へたり込んでしまった。だが視線だけは、固定されてしまったかのように友哉の『その姿』から離せない。

やがて菜々架が夢遊病者みたいに部屋から出て行き、リビングに置かれている固定電話から電話をかける姿が見えた。
「…………ええと、救急ですかッ?……あ、あの、友人が自宅で首を吊って意識不明なんです、救急車をお願いしますッ!……住所、ですか。ええと____」
菜々架の焦ったような掠れた声が聞こえる。

それを見た望は、我に返ったように友哉の元へ走り寄った。
そして近くに転がっていた椅子に登り、友哉の首に吊るされた縄を引きちぎるように解いた。
宙に少しだけ足が浮いていた友哉は、支えが無くなったことで崩れ落ちる。

望はすぐさま友哉の隣に駆け寄り、肩を何度もなんども揺さぶった。現実を受け入れたくないのか、薄く笑みを浮かべていた。
「……ねぇ。……ねぇ、友哉。……嘘だよね?違うよね?ね?……友哉、そろそろ目開けてくれないとオレ怒るよ?ねぇってば、友哉」
しかし友哉はぴくりとも動かなかった。望の顔から笑みが抜けていく。
「……友哉?…………友哉っ!起きてよ友哉、起きてよッ……嘘だって言ってよ、ねぇってばッ!」

友哉、友哉、と必死に名前を連呼する望の横で、あたしは何もできなかった。ただへたり込んで、過呼吸になっていた。
何で、と言おうとしても、息がすーっと出る音がするだけ。声すら出なかった。


それからのことはよく覚えていない。
望と菜々架と一緒に救急車に乗った気がしなくもないが、記憶がない。
食事を無理やりとったのか、それとも何も食べないままなのか、それすら定かじゃない。


気付いたら、病室の白いベッドに横たわる友哉の隣に座っていた。