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Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.63 )
日時: 2016/01/02 14:37
名前: 彼方 (ID: z5Z4HjE0)

今日初めて外を見て、驚く。もうとっくに日は暮れていた。
あたしの隣には望と菜々架もいて、気付けば友哉のお母さんも座っていた。
お母さんは友哉の手を握り、「神様……」と囁きながら祈っていた。
「……何で…………?」
あれから初めて、あたしは声を出した。およそ声とも言えないほど、息が多く混ざった声だったけど。

そこでようやく、思い出す。
望も菜々架も、まるでこのことを分かっているかのような勢いで焦っていたことを。
「…………菜々架」
あたしが呼びかけると、赤くなった目で菜々架が振り向く。
「…………後でちゃんと、全部話す、って菜々架言ってたでしょ?…………何で、友哉は……」
菜々架は、はっとした顔になり望としばらく視線を交わした。
望は、魂をどこかに置いてきたような顔で、徐に頷いた。

「………そうね、全部話しましょうか。桃音、私と望と友哉は幼なじみでしょう?」
「そう、だけど……」
今更それがどうしたっていうのか。
「あのね。実は幼なじみって________もう一人、いたの」
「……もう一人、いた……?何で過去形、なの?」
過去形、なんて。それじゃまるでその人が____
菜々架は頷いて、言った。
「…………その子____日下部 雛って言うんだけど____」
「……言うん、だけど?」
菜々架は一度大きく息を吸った。ふーっと口で長く吐いてから、あたしの目を見て告げた。

「………………死んだの。5年前、小6の時に。それで、雛の命日はちょうど今日なの。
元々、重い病気に罹ってたのよ、雛。でも、病気で死んだ訳ではないの。
________雛、自分がもう永くないって悟って、親に迷惑がかかるって思ったのでしょうね。…………自殺したわ。それも、病室で首を吊って」

頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。自殺した、それも首吊り、ってそんなの。
「………………でも、幼なじみが亡くなったのは、菜々架も望も一緒でしょ?何で友哉は____」
菜々架も望も、そんなに自殺するほど参ってるようには見えなかった。
むしろ、参っている友哉を支えているような、そんな感じだった。

菜々架は「それはね____」とまた口を開いた。
「実際に首を吊った雛を見たのは、友哉だけなの。雛の親ですら、見ていないわ。
それと、友哉は雛のことが好きだったの。雛も友哉のことが好きだったわ。雛ったら、私が友哉に嫉妬してしまうくらい、仲が良かったもの。
それと何より____、友哉、雛が首を吊る数分前に、雛と話していたから。それで、友哉が一旦病室に忘れ物をして戻ったらしいのだけど、その時には、もう____」
菜々架がそう言いながら目を伏せる。
「きっと友哉は、雛が自殺したのは自分のせいだって責めてるのよ。自分が気付いて止められていたら、自分が雛が首を吊る前に病室に戻ってきたら____って」

自分のせいで幼なじみ、それも好きな人が自殺したなんて、とても想像がつかないほどに辛いことだろう。
『恋はしたくない』____友哉はそう言っていた。
それはきっと、『好きな人をまた助けられないんじゃないか』なんていう、トラウマから来る思い込みによるんじゃないかな。

「…………オレ達は3人だけど、友哉はこれを、1人で何年も抱え込んでたんだよね。
……オレも菜々架も、しばらく雛が自殺だってこと知らなかったんだ。病気で死んだんだと思ってた。友哉が言わなかったら、きっと一生知らないままだった」
後悔するように、静かに望が呟く。
「………………友哉、前にも一回自殺を図ったことがあったんだ。中3の時、アパートの屋上から飛び降りて」
中3の時、と言われて思い出す。
友哉は中3の同じ時期、しばらく休んでいたことを。それで、ようやく来たかと思ったら、足を骨折していて。
「…………じゃあ、中3の時、足骨折してたのは……?」
「…………奇跡的だったんだ。落ち方が悪かったら即死だった」
望が婉曲的に肯定する。

「……信じられない。……だって友哉、いつも普通に笑って、とても病んでるようになんて見えなくて……ッ」
あたしがそう涙を滲ませると、望がゆるゆると首を振りながら言う。
「…………きっとそれは、お母さんとオレと菜々架に心配かけないため、だったんだ。だってオレ、今日見つけちゃったから」
「……何を……?」
あたしがそう言うと、「……桃音は見なかった?」と望が重い声色で問う。

「部屋の隅に山積みになった、睡眠薬」
「……睡眠薬、がどうかしたの?」
睡眠薬なんて、ただ単に、眠れないだけじゃないんだろうか。
しかし望は重たい表情で言う。
「____聞いたことない?『オーバードーズ』って」
「……薬の過剰摂取のこと、だったかしら?」
菜々架の呟きに、望が頷く。過剰摂取なんて、明らかに体に害がある。下手すれば、死んでしまうんじゃ____
「あれは明らかにそれを狙ってる量だったよ。だって睡眠薬2、3箱なら分かるけど……10箱以上あったのは間違いなかった。20箱くらいはあったかもしれない」
「…………そんな……」
信じられない、それしか言えない。


____どうしてあたし、気が付かなかったんだろう。
きっと友哉はとうに限界を超えていて、それでも皆とふざけてみせていたんだろう。誰にも心配をかけないために。
そうだ、そもそも、昨日あんな質問をしてきた時点で気付くべきだった。
あたしはただただ両手を組み合わせて祈った。
お願い、目を開けて。

「…………友哉ごめんね、気付けなくて……ッ」
あたしが昨日気付いていれば、友哉は首なんて吊らなかったかもしれない。
あたしのせいだ。
ここで友哉に死なれたりなんかしたら、あたしはどうすればいい?
自責の念と後悔で押し潰されて死んでしまいそうだ。
こんな苦しい気持ちを、友哉は5年間、たった1人で抱え込んでいたんだ。誰にも迷惑をかけないように、何でもないふりをしながら。

「……桃音のせいじゃないよ。オレも菜々架も、気付けなかったんだから。むしろ、オレ達こそ気付いて然るべきだった」
望はあたしを気遣うように呟いた。両手でズボンを握りしめて、後悔に暮れるように俯いていた。
余程強く握りしめているんだろう、その握った手は、細かく震えていた。
幼なじみを2度も自殺で喪うかもしれない、そんな恐怖がどれほどのものか、あたしには想像もつかない。

「…………友哉の馬鹿……ッ」
菜々架はそう零した。頬には雫が伝っていた。
怒り以外の彼女のネガティブな姿を、この時あたしは初めて見た。
いつも望さえいればそれでいい、そんな態度ばかり取っている菜々架だが、本当は友哉も大切なんだな、なんて当たり前のことを思い知らされた。
隣に座る友哉のお母さんは、固く目を閉じて祈っていた。あたしよりも、ずっとずっと強く。


あんたにはこんなに真剣に心配してくれる人がいるのに、何で。
そんなに自分を責めなくても、悩みを聞いてくれる人はいるのに。自殺に至るまで、思い詰める前に何で相談しなかったの、友哉?
「…………馬鹿ぁ……ッ」
あたしはそう吐き捨てながら、眠ってるようにも見える友哉の顔を睨みつけた。