コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.64 )
- 日時: 2016/01/01 21:16
- 名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)
「…………なぁ望、俺なんかが生きてていいのかな。幼なじみを助けられなかったのに」
ちょうど2年前、中3の時のこと。
一緒に学校に行こうと友哉の家に行った時、友哉はドアを開けるなりそうオレに問いかけた。
雛のことはもうすっかり乗り越えたんだろうな、と安堵していた矢先だったから、オレはなんて答えればいいか分からずに狼狽えた。
友哉はそんなオレを見て哀しげに笑うと、オレを押し退けて階段へと向かった。
「……え、ちょ、待てよ友哉っ!」
オレの制止も振り切って、友哉は無心に階段を駆け上がった。
訳も分からない恐怖が込み上げ、オレも慌てて友哉を追った。
友哉が向かった先は、アパートの屋上だった。何でこんなところに、と何気なく前を見ると
「友哉ッ!?」
友哉は持ち前の運動能力を発揮し、腕の力とジャンプ力で高いフェンスを乗り越えていた。
そして、フェンスの先にあるほんの少しのスペースに前を向くように立った。
「何でッ……友哉、そんなとこいたら落ちるでしょ!?」
当たり前のことを叫びながら駆け寄ると、「だな」と平然と返す友哉。
「友哉、何でそんなとこいるのさっ!早まるなよっ!?やっぱり雛のことでッ?」
友哉は少しの間も開けずに首肯した。
直感でこれはやばいと感じ、血の気が引いた。
「確かに!雛が死んだのは不幸だったっ!でも、あいつが死んだのってしょうがないじゃん、病気だったんだしっ!どこにも友哉の責任なんてないよねッ!?だから、友哉が死ぬ理由なんてどこにもないよッ?」
何とか思い留まらせようとフェンスのこちら側から喚く。
フェンスの向こう側から返ってきた声は、意外にも感情の薄い声だった。
「…………望、今まで黙ってたこと言ってもいいか?」
「いいよ!いくらでも言っていいから!自殺するのだけは絶対やめろ馬鹿野郎っ!」
オレが食い気味に言うと、友哉は「あのな」と驚くようなことを話し出した。
「…………雛の死因って、病気じゃねえんだ。自殺なんだよ。病室で首を吊ってたんだ」
「…………自殺……?」
呆然と呟くオレに構わず、友哉は静かに続けた。
「____俺さ、雛が死ぬ数分前まで話してたんだ。その時雛は俺に言ったんだよ。
『友哉、ひな、生きてると迷惑だよね?だって、ひな、どうせ死んじゃうのにお金と薬をムダ遣いしてるんだもん』
って。俺さ、
『そんなこと言うなよ、雛は死なねえって』
としか言えなくてさ。雛の病気は治んねえって知ってたのに」
友哉は空を仰いだ。
「……あいつのこと、直接的じゃなくても、間接的に殺したのは俺なんだよ。俺は何だってできるって過信してたくせに、好きな奴1人助けらんねえ。俺、しばらく考えたけど、やっぱこんなクソ野郎が生きてていい訳ねえんだよ」
友哉は、雛が死んでから性格が酷く変わった。
前はオレに負けず劣らずの自信家で、自信過剰さと気の強さが一番の取り柄みたいな奴だった。
そして自信を持つに値するだけの、腕っ節も頭の良さも人気もあった。
例えるなら、ガキ大将みたいな奴だった。今もだが、オレはこの頃から友哉に敵わなかった。
今の友哉しか知らない人からすれば、とても信じられない話だろうが。
今の友哉は、雛が死んだことを自分のせいだと責め、どんな奴より自信のない、卑屈な奴になってしまった。
きっと友哉は、自分が何より嫌いになってしまったんだろう。
友哉はしばらく言葉を切り、やがて続けた。
「俺時々、夢見るんだ。
『友哉は幸せそうで良いよね。ひな、皆のために死んだけど、まだ生きたかったな』
なんて、にこにこしながら雛が俺に言うんだよ。まるで責めるみたいに。で、後ろは病室で、首を吊った雛が俺を見てるんだよ。何も言わずに俺を責めてんだ」
友哉が、はは、と笑う気配がした。乾いた笑いだった。
「知ってるか、望。首吊り死体ってすげえ綺麗なんだぜ。白目剥いてること以外は、とても死んでるように見えねえくらい。でも、舌がだらんと出てるんだぜ。あっかんべをしてるみたいに。
怖えとか不気味っつーより、おかしいんだ。これが死体か、って言いたくなる感じでさ。でも思い出すと、鳥肌立つんだわ。全然怖くねえのに死ぬほど怖えんだよ。
雛の夢見る度にそれが頭っから離れなくて、毎回食ったもん全部戻しちまって。もう無理なんだわ俺。この先生きていける気がしねえ」
そこで友哉が初めて、オレの方を振り向いた。
友哉は、声を出さずに涙を流しながら、自嘲気味な笑みを浮かべていた。
情けないことにオレは、息を呑むことしかできなかった。
「なぁ望。1つ頼みがある。母さんに、今までごめんって謝っといてくれ」
そして友哉は前を向いた。そして、一歩足を踏み出すように何気なく、飛び降りた。
「…………友哉ッ!?……友哉ぁッ!」
オレは下を見て、ただ友哉の名前を叫んだ。
オレは何もできなかったんだ。この時も、さっき友哉が首を吊った時でさえも。
友哉の言う通り、首を吊った後の人間は、すごく綺麗だった。とても死んでるように見えないくらい。
でも、オレは友哉を見た瞬間、あることに気が付いた。舌が出てなかったのだ。
それは友哉を降ろした後、すぐに分かった。友哉は口の中にティッシュを詰め込んでいたのだ。
きっとこれは、実際に首吊り死体を見たからこその、友哉なりの気遣いだ。
馬鹿野郎、こんなとこで気を遣うくらいなら、最初から死ぬなよ。
きっと雛は首を吊って、母親やオレ達を救うつもりだったんだろう。
そんな雛が、死んだ後に友哉を責める訳がない。むしろ、友哉を道連れに死んでいったことを後悔してるんじゃないか。
きっと友哉は首を吊って、雛を救うつもりだったんだろう。
自分のせいで雛は死んだ。なら、その自分が死ねば、雛は救われるはずだ、って。
馬鹿野郎。どっちも大馬鹿野郎だ。
首吊りなんかじゃ誰も救われないってのに。