コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.66 )
- 日時: 2016/01/04 10:41
- 名前: 彼方 (ID: XM3a0L/1)
さて、シリアス編長くなる、と言っておきながら案外短いなと思いませんでしたか?
実はですね、まだもう1話、全て友哉視点でお送りさせていただきます←
まぁ予想はつくと思いますが、友哉視点ですから、7話より鬱っぽくなる可能性あります、ご注意ください←
第8話「あっかんべをあの日のように」
「友哉!見て見て!ひな、また絵描いたの!」
手足を管に繋がれてさえいなければ、飛び跳ねそうな勢いで雛が絵を差し出す。
何度も入退院を繰り返して、その度に管に身体中繋がれて、ベッドに縛り付けられるというのに。雛はいつでも無邪気だった。
「絵?どれ____うっわ」
雛の特技は絵を描くことだった。それも風景画。雛は色鉛筆だけで、色々な世界を写し出す。
空を見ながら描いたのか、それとも想像で描いたのか。とにかくそれは、突き抜けるような青空の絵だった。
絵の端の方には、窓枠らしきものも描いてあった。なら見ながらか、と思ったが、すぐにその考えを打ち消す。
最近は曇ってばかりだった。晴れの日よりも雨の日の方が多いくらいに。
「ねーえー友哉ー、黙ってないで感想言ってよ〜」
気付くと、ハリセンボンみたいにぷくっと頬を膨らまして雛が見ていた。
正直に言って、かなり上手いと思った。雛の絵の中でも、傑作なんじゃないだろうか。
でも褒めるのは癪だったので、
「まあまあじゃねえの?」
なんて、見下すような笑みとともに言ってやった。俺は絵が下手くそだというのに。
「友哉、自分よりひなの方が絵が上手いの、認めたくなくて意地はってんだぁー!」
べっと舌を出して雛が言う。図星を指され、俺は言葉に詰まった。
「うっ……うっせチビ!」
「チビじゃないもん!背が低いだけだもん!」
「それをチビって言うんだよバーカ!」
「うるさいデカブツ!」
「デカブツじゃねえよ!背が高いだけだし!」
「それをデカブツって言うんだよバーカ!お返しだ!」
しばらく馬鹿みたいに睨み合う。
そして先に噴き出したのは雛だった。俺もつられて笑い出した。
雛とはいつもこうだった。
くっだらないことで喧嘩が始まり、それがチビとデカブツの言い合いになり、終いには両方笑ってうやむやになる。
雛はかなり背が低かった。それは病気のせいではなく、ただ単に遺伝だ。俺は対照的に、この頃から背が高かった。
雛のことがいつから好きだったのか。それは曖昧で、覚えていない。
そもそも本当に恋だったのか。そんなことを聞かれたら、きっと俺は答えられないだろう。
もしかしたら友愛だったのかもしれないし、親愛だったのかもしれない。
だがどちらでも構わない。俺が雛を好きだったのは、そして雛も俺を好きだったのは事実だ。
そんな雛の笑顔が曇り出したのは、いつ頃からだったろうか。
「……雛?」
「…………あ、ごめん。何でもないよ?」
雛は時々、思い詰めたような表情で黙り込むことが多くなった。
なんだと問い詰めても、返ってくる答えはいつも、「何でもないよ」。
その理由は少し後、雛のお母さんからの話で悟った。
「…………友哉くん、望くん、菜々架ちゃん。…………落ち着いて聞いてちょうだい」
ある日、俺と望と菜々架は、雛のお母さん____おばさんの家に呼び止められた。
ただならぬ空気を察し、俺たちは雛の家のリビングで、押し黙った。
おばさんは、逡巡したように視線を彷徨わせたが、やがて口を開いた。
「雛の病気、あるでしょう?」
雛は、心臓が悪いそうだ。
それで激しい運動もできず、すぐに心臓発作を起こしては、入退院を繰り返しているという。
「…………あの病気ね?………………治らないらしいのよ。もって余命半年だと」
風景が全て遠退くのを感じた。
ナオラナイ。
ヨメイハントシ。
理解できない。
理解したくない。
いつまでもこの日々が続いていくんだと思っていた。
いつまでも、雛が入退院を繰り返して、それでもやっぱり中学も高校も一緒に通えるものだと。
『うっ……うっせチビ!』
『チビじゃないもん!背が低いだけだもん! 』
『それをチビって言うんだよバーカ!』
『うるさいデカブツ!』
『デカブツじゃねえよ!背が高いだけだし!』
『それをデカブツって言うんだよバーカ!お返しだ!』
こんな馬鹿みたいなやり取りを、中学でも、高校でも、続けていられるものだと思ってた。
「嘘……」
菜々架の声が聞こえる。望は驚いて、声も出ないようだった。
「………………嘘だよなっ!?なぁおばさん!嘘だって言えよッ!」
俺が怒鳴っても、おばさんは哀しい色を浮かべ、首を振る。
「…………やだよ、そんなの……っ。雛が、死んじゃうなんて、やだ……っ」
望がぼろぼろと涙を零す。
「…………雛っ」
俺は気付けば、家を飛び出していた。
「友哉っ!?」
驚いたような望の声が背中に飛んでくるが、無視して俺は走った。
気付けば、俺は雛の病室の前にいた。
雛に会って、俺はどうするつもりなんだろうか。まさか、「お前もうすぐ死ぬんだってよ」なんて言える訳もない。
しばらく俺は悩んだ。
その悩みを断ち切ったのは、雛の声だった。
「…………誰か、ドアの外にいる?」
俺は思わずドアを開けた。雛はほっとしたような笑みを浮かべる。
「なぁんだ、友哉か。どしたの?」
俺はなんて言っていいか分からず、ただ雛を見つめた。
ただ雛の顔が見たかっただけ、なんて恥ずかしいこと、言える訳もない。
結局俺は、
「…………お前の絵、見たくなったから見せろ」
なんて頓珍漢なことを言った。
雛は驚いたように目を丸くし、やがて、にへらっと笑った。
「ふっふーん。友哉、ひなの絵のファンだもんねー?」
「ちっ、ちっげぇよ!お前のへったくそな絵がたまには見たくなっただけだし。だって絵なら俺の方が上手いじゃん」
「まったまたー、強がらなくていいんだよー?ひなはちゃーんと分かってますからぁ。ていうか友哉、絵苦手でしょ?」
「あぁ苦手だよ、それでも俺の方が上手く描けるし?俺何でもできちゃう天才だから」
「あーあーまた始まった、友哉の自慢癖」
雛はぷくっと頬を膨らませつつも、絵を取り出してくれた。
その絵は、夏祭りの絵だった。
青い甚平を着た黒髪の少年が、自慢するように、袋に入った金魚を持った手を突き出している。……というかこれ、
「……俺?」
雛は途端に顔をぱっと輝かせた。
「あったりぃ!ね、どう?友哉に見える?」
「いや、俺もっとかっこいい」
なんて言ったが正直、とても似てると思った。ただ認めるのが癪だっただけで。
「はいはいそうだねぇ。でも、似てるでしょっ?だって友哉、『俺?』って言ったもんねー!」
何だ、と思った。当然の如く、雛はいつも通りだった。
余命半年なんてアテにならない。だってテレビの中じゃ、余命を乗り越えて長生きをしている人ばかりだ。
途端に、悩んでいることが馬鹿らしくなった。
ずっとこの日々が続くはずだ。俺はそう思った。
____この言葉を聞くまでは。
「ねぇ友哉。ひな、また友哉の甚平姿見たかったな」