コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.17 )
- 日時: 2015/04/14 22:31
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
【第2話・僕等の名はお助けマン】
4人の視線は、ある人物へと集中していた。そう——旭へと。
旭はその視線に、思わず身体を揺らし、少々戸惑った様な表情をして、片手をゆっくりと上げた。
「わ、私の能力……というか。その、力は、そんな凄いものじゃ無いと思いますけど……」
問い掛けから何泊も空いてしまったので、実は物凄い能力でも持っているのでは無いかという期待が旭への視線にしっかりと表れていた。
その視線に耐え切れなくなったのか、そういった後、上目遣いで様子を窺っているのだが、彼等の表情は先程から一切変わりは無い。それが余計に、旭を焦らせているのだった。
冷えた汗が首筋を伝っている中、旭は精一杯力を振り絞って、言葉を発した。
「あの、す、すみません。凄い感じの方が……良かったですよね」
相も変わらず自分に注がれる視線に、もうそろそろ、狂い死にそうなのだが、誰もこの沈黙を破ろうとはしてくれなかった。
現に彼女は、今。軽い頭痛が頭を襲い、視界が歪む様なめまいがし始めていて、狂い死ぬ前に、窒息死しそうな状況に陥っていた。
心の中で、一生懸命助けを呼んではいるのだが、未だ旭を助けてくれるヒーローは現れない。
「いや、こっちは別に凄くなくたって良い。今は……お前の能力について、聞かせてくれないか? 凄いのかどうかはまた別として、な」
旭に再び問い掛けたのは、最年長である伶だった。
時間にすると数秒程度の沈黙が、旭にとっては今までどの沈黙よりも苦しかった。漸く息を吸えた瞬間だった。
それ程までに苦しかったのか、旭は満面の笑みで「はい!」と答えた。
——と、その時。
「おーい。そこ、まだ誰かいるのかー?」
突如、遠くの方から声が響いた。
この教室の中からでは無い、外だ。教室の外、つまり廊下から声がした。しかも、かなり遠くの方からの様だ。
旭はまた、その声に身体を揺らしたが、他の4人は一瞬だけ驚くと、溜息を吐いて席を立った。
「今日、ちょっと早くない? もう時間? 後ちょっとで聞ける所だったのにさー。タイミング悪っ」
「まぁ、今日は短縮授業だったしね。もう見回りに来たって、当然といえば当然なのかも」
遼と佑里が溜息を吐きながら、何かを言っているのを聞いて、旭は思わず伶を見た。
しかし、彼等は慣れている様で、手短に自分の上着等を羽織り、帰る身支度を始める。
その様子をただただ見ている旭に、伶は「お前も準備しろ」といって、遙にドアのだと思われる鍵を渡した。
鍵のかかった音がすると、奥にある窓へと移動して行く。旭も現状を理解出来ていないが、何とか身支度を整え、後を追った。
「じゃ、下りるね」
遼はそういうと、窓に足をかけ、そのまま小柄な身体を宙に浮かせてみせる。そして無事、怪我無く着地した。見事に宙返りを成功させて。
幾ら2階だとはいえ、いとも簡単にジャンプで下に下りて行った遼を見て、唖然として口を開ける旭。
その後、遙や佑里が楽々と、全く怖がる様子も無く下りて行くのを見ながら、旭はまた窒息死しそうになった。
「まさか自分も?」と、そんな恐ろしい考えが頭を横切った。いや、幾ら何でもそれは無いだろう。旭は考えるのを止めた。考えてはいけない、恐ろし過ぎる。そう思った。
「俺も下りる。お前も早く下りて来い」
隣に残っていた伶がそう言って、窓に足をかけた時だった。——止めが入ったのは。
勢いよく首を横に向けると、伶に飛び付く様に下りるのを止めた。無理矢理止めさせた。
そして、止めさせられた本人は、何なんだと首を傾げているのだが。今はそれ所では無い。此方の方が先だ。
「こっ、此処から飛び下りるのは……私、無理ですっ。絶対に無理ですっ」
お化け屋敷のゾンビの様に、勢いよく飛び付いて来ては、伶の胸倉を掴み掛った。その姿に吃驚した伶は焦りながら「とりあえず、落ち着けっ」と旭に言う。
その声が耳に入ったのか、旭は我に返り、状況をもう1度良く見た。
飛び付いた勢いで、身体が倒れ込み、今では旭が伶に覆い被さる様な体形になっていた。目線を戻すと、長い前髪の隙間から現れた、綺麗な瞳とぶつかる。——これは世に言う床ドンというものだろう。そう、彼女の初相手は年上男子だった。
あまりの出来事に驚いて身体を元に戻そうとはするが、初めての体形に恥ずかしさで脳内がプチパニックを起こしてしまって、どうにもならない。
伶は、顔が完熟トマト化してしまった旭を何とか起こし、窓から下を見る。その先には、まだなのかと苛立っている少年と、その少年に溜息を吐いている2人の少年少女がいた。早く行かないと怒られそうだ。特に少年に。
「おい、もう大丈夫か? 下りれそうか?」
顔は完熟トマトのまま、身体がロボットの様に固まってしまった旭に問い掛けるが、答えは返って来ない。
すると伶は何を思い付いたのか、提げていたバッグを片手に通すと、その小さな身体で自分とあまり変わらない身長の旭を持ち上げた。
完熟トマト化の次はロボット化していた旭は、その一瞬の間に何があったのか、直ぐには理解出来なかったが、3秒後理解出来た。
いや、頭は理解するのに遅れたが、身体は何があったのかを頭よりも先に理解出来た様で、完熟トマトはさらに赤みが増した。
「あ……え? これってもしかし…………ふぇっ!?」
現状を把握出来た。そうだ。これは所謂、お姫様抱っこだ。良く結婚式とかに新郎がしている様な。だが、幸いなのか不幸なのか、旭は結婚式に出席した事は無い為、見た事は無かった。しかし、恋仲の男女がやる行為だという事は、知っていた。
でも、今の現状をもう1度見てみよう。どう考えても、自分と今日知り合った様な年上男子に恋というものは無い。無いのだ。
では何故、この様な状況になっているのか。それは簡単だ。2階から地面に飛び下りる為だ。そう。そんな事の為に、こんな事があって良いのか。——あってならない。お父さんが許さない。
「いっ、いやいやいや。じ、自分で下りれますよ、きっと! だ、だから大丈夫です、ありがとうございました!!」
「何を焦っているのかは知らないが。きっとなら、このままの方が断然良いだろ」
旭の頭は完全にパニックだ。
そもそも、先程の床ドンさえ初めてだというのに、お姫様抱っこ何て早過ぎはしないか。そんな声が頭に響く。しかしだからといって、この状況がどうにかなるという訳では無い。
辺りを見回していた旭の目に映ったのは、窓の近くに植わっていた背の高い木だった。背の高い割に、幹が太い訳でも無く、今にも枝が折れそうだった。
この細長く今にも息絶えそうな木をもし、もし、昨日の旭が見たとしよう。絶対にそんな方法思い付かなかったはずだ。思い付いたとしても絶対に自分ではしなかっただろう。だが、今は違う。何でも良い、何でも良いからこの状況を何とかしないと。そんな考えで一杯だった。
「こ、この木を使って、下まで下りて行きます! ほら、丁度窓から届く距離に植わってますし……大丈夫です!!」
そう旭が伶に笑いかけた瞬間、風が強かったのか、それとも旭の声が大き過ぎたからなのか、1番近くに生えていた、奇跡的に細くは無い部分の枝が折れた。そのまま折れた枝は、宙に無抵抗で落ちて行った。
その様子を窓越しに見ていた2人は、このままお姫様抱っこで下りる事を決めたのだった。