コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.20 )
- 日時: 2015/05/03 17:16
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
今まで生きて来た中で、「色々な意味で死にたくなったランキング」トップ3には入るだろう、昨日の出来事を思い浮かべると同時、旭は自分の机に顔を突っ伏した。
周りにいたクラスメイト達は、いきなり動いた旭に驚きの目を向けるが、今はそんな事気にしていない。いや、気にしているけど気にしていないのだ。
暫くしてクラスメイト達の視線が他の場所へと移されて行くと、旭は少し、目線を上げた。その頬は、ほんのり紅色に染まっていた。
「私…………どうしちゃったんだろ……」
溜息混じりにそう呟くと、顔をまた伏せた。その勢いでカチューシャにより整っていた髪の毛が乱れながら、染まった頬を隠す。
旭は、自分でも不思議だった。抑々、旭は人と関わり、仲を深めると言う事が上手な方では無い。これは旭も解っていた。だからこそ、昨日の自分の行為を理解出来なかった。初対面の人と話をする事なら未だしも、目が合うだけで耐えられない程、旭の対人恐怖症は重いものだった。
それが昨日。何故なのかは旭も解らないが、何時もより自然に話が出来、その上、傍に寄っても平然と過ごす事が出来た。やはり、あんなにも安心をして過ごせたのは——
「……この力を治してくれるって言ってくれたから、なのかなぁ」
ずっと机にいた所為か冷たくなっている両手を、まだ少し赤らんだ頬に当てて、熱を冷まそうとした。しかし、旭の頬よりも先に手の方が温まってしまい、熱を冷ます事は出来なかった。
*
放課後になり、教室を出て部活へと向かう者や、そのまま家へと向かう者とで教室にまだ残っている人は、数人しかいなくなった。
旭はジャケットを羽織りながら、机に両手を置いて顎を乗せていた。今日6度目となる溜息を吐くと、頭を左右に揺らして掛け時計を見る。授業が終わってから、まだ20分程しか経っていなかった。
果たして、あの人達は今日も来るのだろうか。そんな言葉が旭の頭を過っては、通り過ぎる。約束をした覚えは無いし、良く考えれば、自分は本当に必要とされているのだろうか、と旭は心の中で悩んでいた。
——そんな時、いきなり後ろの方から声が聞こえた。
「ねー、片峰さんってさ。此処の教室で合ってる? てか、いる?」
この女の子の様な可愛らしい声の割には、言葉遣いが荒い人物と言えば、旭の知る中で、思い当たるのは彼しかいない。
旭はその声を聞くと、勢いよく座っていた椅子から立ち上がり、バッグを片手に後ろのドアへと小走りで向かう。途中、他の人の椅子に足が引っ掛かり、転びそうになったが、今の旭は気に留めなかった。
その人物は、ドア付近でクラスメイトと何やら話し合っていた様だが、旭に気が付くと手を振って、旭の方へと歩いて来た。慌てて旭も、歩くスピードを速めたが、ドアに着く前に、その人物が自分の方へと来てしまった。旭は何だか、申し訳無い様な気持ちになり「すみません……」と謝った。しかし、相手は全然気にしていない様で「別に良いよ」と軽く笑った。
「何か、話があるって伶が言ってるんだけど、今からって大丈夫? 多分、10分位で終わると思うけど」
「暇過ぎて、本当にしょうがなかった位ですから、大丈夫です! 凄く!!」
昨日とは比べものにならない程、明るく生き生きと話す旭を見て、旭を呼んだ人物————遼は一瞬、吃驚した様だが、直ぐに笑って「じゃあ、良かった」と言い、旭の左手と自分の右手を繋いだ。いきなりの事で、驚きのあまり声の出ない旭に、お得意の小生意気な笑みを見せた。
「伶から聞いたんだけど、片峰さんって、直ぐ手を繋ぎたがるんでしょ? 俺のイメージと違ったわー」
「そ、そ、そんな事無いですっ。わっ、私は全然、そんな…………」
最初は勢いのあった声も、周りの目が繋がれた左手に集まっていると解ると、出て来なくなってしまった。頬を紅潮させて、俯き、繋がれていない右手で頬を触る。右手は直ぐに熱くなってしまい、同じ温度となった。
そんな旭に、遼は不敵な笑みを浮かべながら見下ろすと、今度は旭の頭を優しく撫でた。流石に耐え切れなくなったのか、旭は「や、止めて下さいっ」と力の限り叫んだ。すると、撫でるのを止め、あの可愛らしい声で「さぁ行こうか、片峰さん」とわざわざ周りのクラスメイトに、繋がれた右手を見せつける様にして教室を出た。勿論、旭も一緒に。
教室から出て数秒後、旭はやっと声が出せた様で、苦しそうに息をしながら遼に訊いた。
「あの、何で……っ、あんな事を……? もう、手、離して下さ——」
そこまで言うと、遼はぶつかりそうな程、顔を旭の耳元へと近付けた。遼の息が耳にかかって、旭はまた顔を赤らめる。が、遼はそれを予想していた様に口角を上げ、また息を吹きかける。今度ばかりは、自由な右手で小さく抵抗をした旭だが、力の強さが段違いな所為で、その抵抗は無駄に終わった。速まる心臓の音を聞きながら、旭は遼を横目で見ると——笑った。
「………………何、笑ってんの。そんなに変だった? 確かに素の伶には敵わないけどさぁ」
笑われたからか拗ね始めた遼に、また旭は笑ってしまった。口元を右手で押さえても、中々笑いは治まらないので、遼の機嫌をどうしても損ねてしまう。
「だって、可愛くて…………ふふっ……」
面白そうに笑う旭に「笑う所じゃ無いでしょ……」と文句を呟いている遼。そのまま2人は歩いていると、何時の間にか空き教室の前まで来ていた。まだ笑いが治まらない旭を見ながら、遼は何かを思い付いたのか口を開く。
「……このまま入ったらさぁ。誰かに勘違いされるかな? 伶にされて欲しいんだけど」
それまで笑っていた旭は、この言葉で笑いを止め、自分の左を見下ろした。旭の目には——固く握り締められている左手が見えた。遼の言いたい事が理解出来た旭は、ドアノブを回そうと手を伸ばす遼に急いで謝る。
「笑っちゃって、その、ごめんなさい! だから、手を離して欲しいです!!」
「えーどうしようかなぁ。俺、すっごい傷付いたんだけどなぁ。うーん。あ! こうしようよ」
ニヒルな笑みを浮かべた遼は、今、旭にとって、自分を玩具代わりに遊ぶ悪魔でしかなかった。旭は冷や汗をかきながらも、遼の口元が動く瞬間を見逃さなかった。
「————伶に抱きついて。今直ぐ」
そう言って絡めていた指を外すし、内開きのドアを片足で蹴り飛ばして、旭の背中を勢いよく押した。その衝動で旭は素っ転びそうになったが、何とか耐えた。しかし、中にいた3人の視線からは逃れられず、旭はただ、苦笑いをして手を振ったのだった。