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Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.27 )
日時: 2015/04/23 22:25
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

 時間を計ると約5秒程度。
 その短い時間の中、旭はずっと辱めを受けていた。ジャケットの下に着ている制服は、冷たい汗で水を被ったかの様に濡れ、変な感触がしていた。それでも旭は耐えていた。いや、耐えるしかなかった。何故ならば——自分の周りに瞳を輝かせた人間が3人もいたからである。

「凄い……旭ちゃん凄いよ! え、どうやって入って来たの!? あたしもしてみたい!!」
「本当にいきなり入って来たな。痛めてないか? それにしても……良かったぞ」
「いやぁ、最高。聞いた? 入ったと同時にお化け屋敷のゾンビに負けない位の叫び声! しかもポーズが……最高」

 思わぬ事態である。
 旭の脳内会議の結論では、苦笑いをされるか、心配や慰められたりされるかの2つだった。なのに、これは一体どういう事だ。寧ろ「凄い」やら「良かった」やら「最高」やらと褒められているではないか。驚く前に、身体が固まってしまった旭には、全く理解出来なかった。こんな事になるのなら、苦笑されていた方が良かった。何と返したら良いのかが解らない。
 旭の限界が来そうになったその時、少年はやって来た。

「あれー? 何か予想と随分違うんだけど、どうしたのさ。俺はてっきり、片峰さんが嘲笑されてると思ったのに」
 
 吃驚したと言っている割に、然程驚いている様子も無い喋り方をしているのは、旭をこんな目に遭わせた遼である。両手を後ろで組んで、首を傾げながら入って来る。その口元は笑っている様にも見えた。
 ドアの1番近くにいた遙は「あー」と言って、遼の額を握り拳で軽く押す。そして「コイツが押したんだってさ」と遼の背後から両手を首に回して、伶と佑里の前に連れて来ると、旭の方へ目を向ける。

「合ってるよね?」
「…………そ、ですね」

 3人の視線が逸れたからか、可笑しなポーズで固まっていた旭は、身体を元に戻すと顔を俯けつつ答えた。
 その旭の言葉を聞くと、真っ先に佑里が遼に怒っている様な顔で近付き、肩に手を置いて揺らしながら叫んだ。

「何でそんな事っ! 旭ちゃんが転んだらどうするのさぁ!!」
「そっちこそ、意味解んない。さっきまで『凄いよ!』とか言って褒めてた癖に、俺が押したって知ると怒るんだよ。バーカ」
 
 遼も遼で、外方を向くと佑里に文句を言って、反省しようともしない。当然だという顔付きだ。しかし、そんな遼の言っている事も一理ある。先程まで、旭を褒め称えていた彼女が、何故自分がしたのだと知ると怒るのだ。もっとも彼が悪いのだが。
 すると佑里は「そうだけど……でもさぁ!」とその場で両手両足を上下左右に振って動かす。身体全体を使って否定している様だ。解り難い表現の仕方に、遼は呆れ顔になって「ハイハイ、そうですねー」と適当に返事をし始める。それが良く無かったのか、佑里は顔を顰めると舌を出して、旭に駆け寄って行った。

「旭ちゃんも、遼くんが悪いと思うよね? あたし間違ってないよね?」
「え…………う、うん。間違っては無いかな?」

 突然の事で旭は答えながら、隣に立っている伶に答えを求める。その顔には「大丈夫って言って!」と旭の本音が表れていた。仕方なく伶は「あぁ、そうだな」と答えると、佑里は振り返って勝ち誇った表情をして、遼を見つめる。どうやら、2人が本心でそう言ったのではない事に気付いていない様だ。それで遼は頬を引き攣らせながら、遙に向かって笑顔を作る。
 
「遙は可笑しいと思うよね? 思うでしょ!?」
「あーうん、そうだね。そうそう、遼の方に1票ですね。僕は」

 喋りの途中で遼に脇腹を抓られた遙は、天井を突き破って何処か遠くの空を眺めながら答えた。これもまた、自分の答えではないだろう。だが、そんな事は彼等2人に関係無かった。というか、その答え方で良かったのである。彼等が今求めているのは、票だ。自分が正しいという票が相手よりも多ければ、それで良いのだ。どう思っているのか何て、別にどうでも良い。票を集めなければ——
 

 佑里と遼が睨み合っている直ぐ傍で、旭は呆れた口調で溜息を吐いている伶に訊いた。今の時間は、彼女が教室を出た時間から15分も経っていた。

「……あの、何時までコレ、続くんですかね?」
「さあな。ま、もう直ぐ終わるだろう。終わらなければ、放って置けば良い」