コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.33 )
- 日時: 2015/04/04 22:21
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
日の光が眩しい登校時間。旭は廊下を思い切り蹴って、あの空き教室へと何時もより速めに足を動かした。
昨日は呼ばれていなかったので行くか行かないか迷ったが、今回は伶にきちんと呼ばれているので何の躊躇いも無く向かっている様だ。
「あ、片峰さん来た! 遅いよぉ、遅刻遅刻!!」
ドアノブを回して中へ入ると、いきなり可愛らしい声が旭の耳に響く。そして直ぐに、思わず目を瞑ってしまう程の痛そうな音が鳴る。旭は恐る恐る奥の方を覗くと、遼のフードを被った頭に伶が鉄拳を振ってた。かなり痛かった様で、遼の瞳が少し潤んで見えた。その傍に、遙と佑里もいた。どうやら、今日は旭が1番遅かった様だ。
「ごめんなさいっ! 一生懸命走ったんですけど、足が遅くて。そっ、その痛いのは嫌……です」
4人の近くに行くと、涙ぐみながら物凄い速さで土下座をして謝った。何度も頭を下げる旭に、一瞬4人は何の事か解らず固まっていたが、それが遅れて来たからだと知ると、可笑しそうに笑い、遂にはお互い顔を合わせるだけで吹き出しかけていた。そんな彼等を見て「え? え?」と首を傾げている旭は、伶に訊いた。
「遅れて来たから……頭を殴られるんじゃないんですか? あれ?」
「いや、別にそういう事はしないが……どうしてそう思ったんだ?」
「だって……」と旭は遼に目を移し、先程伶がした様に片手を握り締め、自分の頭を軽く殴った。それを見た遙が面白そうにまた笑い出すと、後ろから遼にデコピンをしながら言った。
「コイツが昨日、散々時間を無駄にしたくせに、偉そうな事言ったからだよ。遅れて来たからじゃない」
「ハイハイ、解ってますよ。佑里が悪かった事何て」
拗ねているのか不機嫌そうに呟いた遼に「遼くんが!」と顔を赤くした佑里が、まるで野良猫に子鼠が対抗しているかの様に襲いかかろうとする所で、遙が間に手を伸ばして止めた。その手を越えようと身体を前へ倒そうとする佑里に、遙が眉を寄せて息がかかる距離まで近付き、耳元で囁いた。
「——それ以上、前へ行ったら……佑里にもお仕置きするよ?」
身体を強張らせて数回頷くと、元いた場所に戻って行った。彼女が深呼吸をしているのを見ると、口を押えながら声が漏れない様に笑う。そして、まだ不機嫌な遼を横目で映し、ゆっくりと口を開いた。
「其方のお美しいお方は、どんなご奉仕がお望みですかな」
優しい口調で訊いて来た王子に、笑みをこぼす女王は元から高い声をもっと高くして、彼の方に振り向くと両手を回す。
「あら、どんな事でもして頂けるのかしら。無理なら結構よ?」
「随分と面白そうだが、もうかなり疲れたのでね。お言葉に甘えて今回はこれで立ち去らせて頂こうかな」
「そう……残念ね。次の機会を楽しみにしているわ」
両手を離し前に身体を戻すと、背中合わせとなった王子が何かを思い出した様に「お忘れ物ですよ」と言って女王の服の襟を引っ張り、顔を横に向けた。その間、右手で深呼吸がやっと終わった少女を引き寄せて、背中を軽く押し1歩前に進ませる——
「何っ、す——!!」
「……っ!」
すると、女王の小さく柔らかな唇は、少女の荒れの無い滑らかな頬へと落ち、瞬間女王と少女の白肌は熟した林檎色に変わり、言葉も出ずにただ口を開いては、触れた部分を両手で押さえてしゃがみ込む。
それをずっと見ていた伶と旭は、驚きのあまりその場で固まっていたり、少々情けない声を出して、2人と同じ様に熱でもあるのではないかと心配になりそうな顔をしているが、仕掛けた本人は、悪巧みをしている悪戯坊主の笑みを貼り付け、上手く行ったと嬉しそうに燥いでいた。
*
漸く落ち着き始めた遼と佑里は、先ず遙に攻撃をした。
とはいえ、遼は力一杯の回し蹴り、佑里は頬を出来るだけ強めに抓るというレベルはかなり違うものだが。それでも彼等にとっては、自分の全部を注いだ技であり、気持ちは大して変わらなかった。爽やかで通っている遥でも、流石に攻撃が効いたのか苦痛で顔を歪めていた。
溜息を吐いた伶が、うつ伏せに倒れ込んだ彼を立たせ、少しの間説教をすると腕を離した。どうやら伶にも彼にも、精神的に言い合いをする気力が残っていない様だ。旭にも「も、もうやっちゃダメですよ」と言われたが、顔を赤らめて逃げる様にソファーの後ろへ隠れたので、説得力は皆無に近かった。
「……分かったよ、もうやらない。でも、もしやって欲しいのなら言ってね」
反省の色を見せない彼は、遼に小声で耳打ちして何時もの爽やかスマイルを見せた。耳打ちされた遼は「別に……頼まないし」と言って、彼から目を逸らす。——が、運が良いのか悪いのか、その視線の先にいた人物は旭だった。彼女は目が合うと「すみません……」と何故か謝り俯く。その様子を直ぐには理解出来なかったが、顔を赤らめているのと遙と自分を交互に見ているのとで、彼なりに理解した。そう、聞かれていたと。しかも、とんでもない間違いをして。
「ちょ! 違うっ、そういう意味じゃなくて……って、勘違いするな!!」
「か、勘違い何て……し、してないですよ! うん!」
否定はされたが、言葉を詰まらせている所を見ると、かなり逸れた勘違いをしているのだろう。遼からすれば、嫌というか迷惑な話であるが。どうにかして彼女の誤解を解きたいが、言えば言う程余計に勘違いしそうな状態であり、下手に動けない。そんな時、彼が思い付いたのは、誤解を解くのではなく、この勘違いを彼女に忘れてもらえば良いのではないか、というもの。方法が浮かべば、後は計るまでもなく動くのが遼である。
なるべく遙の事を考えないようにしながら、遼は笑顔を作り旭に近寄った。
「ねー、片峰さん。この間の約束、どうなったんだっけ」
「ふぁっ? や、約束?」
「うんうん、約束。ほら、昨日片峰さんを呼びに行った時、言ったじゃん」
「——伶に抱きついてって」
間抜けた顔をしている彼女を無理矢理立たせて、伶がいる方向へ強めに背中を押す。良し、これで忘れてくれるだろう。押している間に、安心して息を吐いていた遼だが、それはあくまで想定。そうなるかは、まだ誰にも解らないのである。
「うわぁ!?」
「あああああああっ! ごめんなさいごめんなさいぃ!!」
なんと、旭が倒れ込んだ先にいたのは、本棚から小説でも取ろうと伶と彼女の間を歩き始めていた——遙である。
これは押した犯人の遼も吃驚した事態である。まさか、相手(旭)が勝手に勘違いしているものに関係する遙が、倒れ込んだ矢先に通ろうとしていた何て、一体誰が予想出来るのであろうか。予想すらしていなかった光景に、遼の脳内はパニックを起こしていた。その数秒後、旭が言った「ごめんなさい」が誰に向けられているのか解ると、今直ぐ逃げるか溶けるかして消えてしまいたくなったという。