コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.34 )
- 日時: 2015/04/15 21:19
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
——痛い。
遼が1番最初に感じた言葉はそれだった。
*
「馬鹿じゃないの!? 俺を殴り殺す気!? 何回その鉄拳食らわされたか数えてみなよ!! ほら!!」
止まるという事を知らずに落ちて行く大粒の雫は、喧嘩の強さで名立たる少年の瞳から溢れ出て来る涙だった。嬉しさからでも、悲しさからでもない、身体中に響き渡る痛みからである。
元々華奢な身体付きではあるが、筋力は特に何もしていないのに付いていたし、小柄なので性質(たち)の悪い輩に絡まれる機会が多く、そこで喧嘩の技術を盗んでいたので、力勝負なら此処にいる4人に勝るだろう。
だがしかし、「勝負」ではなく「叱る」だった場合は話が別。何故なのかは本人ですら解らないが、彼の身体は「勝負」と認識しないとその絶対的強さが発動しないのだ。
「……10回くらいか?」
「少ないな、おい。もっと殴っただろ。まさか、無意識に殴ってんの?」
「それじゃあ、100回」
「いきなり10倍しましたけど、頭、大丈夫ですかぁ」
首を傾げながら記憶を一生懸命辿る伶は、途中で疲れて諦めたのか、それ相手血だらけだろ、などと思われる答えを述べ始める。そんな言葉に「お前優等生だろ、一応」と呟いた遼の頬には紅血が滲んでいた。遼自身は気付いていない様だが、佑里と廊下で楽しくお喋りをしていた旭が、救急箱を持って走って来た。どうやら手当をするつもりらしい。
「掠り傷だから良いよ。もう少しで止まると思うから」
「で、でも、痛そうですし、絆創膏しといた方が良いんじゃ……?」
見るからに力勝負、ましてや喧嘩なんてものした事のなさそうな彼女は、自分の言っている事が合っているのか解らない、そういう口振りで救急箱から絆創膏を取り出し、指に付いた血を舐めている遼に渡した。心配してもらっている身、此処は絆創膏を付けておいた方が良い、とまだ揺れる頭を回転させ受け取った。
胸を撫で下ろして救急箱を片付け様と歩き始めた旭に、遼は「待って」と言い彼女の右手——救急箱を指す。呼び止められたのを驚いたのか、口を半開きにして振り向いた旭を数秒見つめ、辺りを見回しながら訊いた。
「救急箱の場所ってさ、誰から聞いたの? もしかして自分で見つけた?」
「あの、教えてもらいましたけど……」
「だよね、見るからに探すの下手っぽいし。で——」
今、旭の心は大ダメージを受け、やや折れ曲がってしまっているのだが、この程度「普通」な遼には嫌味を言っている感覚が全然無いので、そのまま話を続行してしまう。彼女の瞳が数分前の自分と同じ様に、潤んでいるというのに。
「誰に教えてもらったの? 怜は此処にいたし、遙? 打っ倒れてるけど」
「鴇崎先輩じゃなくて、橘先輩からです。変な事でも……?」
質問の意図が分からない。そう言いたげな旭に「何でもない」と手を振り、彼女が片付けに行くのを確認すると、小声で「自分で言っといて……佑里」と笑った。
*
「では、これより。秘密会議を始める」
ゴミが山の様にある空き教室。
何処からか持ち込まれた沢山の家具。
瞳より少し長い艶のある黒髪を揺らして、鋭い眼光を浴びせながら少年は告げた。——自分達の『秘密』を話し合う為に。