コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.36 )
日時: 2015/05/05 15:41
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

参照1200回突破記念!!


 こ、こんな大きな数になるとは……思いませんでした! 読んでくださっている方、ありがとうございます!! 先に3話書いてみようかなー、とか調子に乗って思ったのですが、長引いてしまう事は解り切っているので止めました。シリーズもの? です。誰と誰が絡むかは(2人以上の場合もあります)、作者の気分次第。珍しいコンビにしたい。でも5人だから、あまりパターン無いかも。





【たとえば、君が本好きだと聞いたなら】


 貴方の心を満たしている人が、私ではなかったとしても——
 これからの未来、黒き影に紛れながら、貴方を思い続けています。


「この言葉が1番好きだなぁ……。他の台詞も良いけど」

 両手で少し大きめの本を持ち、細かく並べられた文字を読んでいる少女、旭の頬は何時もより赤みが差していた。どうやら、原因は本の中にある様だが、今この空き教室には旭以外いないので、何故三日月形に唇を綻ばせているのかは、誰も知らない。——はずだった。

「片峰さん、もう夕方なのに残ってたんだ。ん、何読んでるの?」

 声の主は遼——ではなく、遙である。一瞬「片峰さん」と呼ばれた事により、旭は勘違いしかけたが、良く考えてみると遼と遙では声の高さが全然違う。確かに遙も、というか空き教室に集まる少年全員、大して声変わりしていないのだが、その中でもずば抜けて遼が幼き頃のままなのだ。何人判断してみた所で、結果『女性』だと思われるだろう。
 だから旭は、相手が遙だと理解して振り向く事が出来た。まさか彼が。

「此処に置いてあった本をお借りし、うえぇっ!?」

 自分も読もうと、本棚に近付き手を伸ばしていたとは知らずに。
 背が平均よりも低い旭は、自分の力だけで本を取ろうとすると、範囲はかなり絞られる。頑張ったとしても、下から3段目くらいまでだろうか。しかし、彼女よりも10センチメートル程高い遙は、軽々と5段目から所々汚れていたり、破れていたりする古書を取れたりする。だが、旭は驚いているのはそこではない。そこではなく。

「ちっ、ちちちちち、近いっです!! 鴇崎先ぱ…………いぃ?」
 
 自分と彼の顔が、触れ合う距離になっている事である。いや、それは3秒前までだ。そう——遙が体勢を崩すまでは。厳密に言えば、遙自身の所為で崩した訳ではなく、旭が漏らした微かな悲鳴に似た声により、バランスを崩してしまったのだが。床に響き渡る音は、誰が聞いても思わず耳を塞いでしまう事だろう。

「いたたたた……せ、先輩。大丈夫ですか?」

 旭はそう呟く様に言い、瞼を開ける。その瞳に映る光景は、何とも不思議なものであった。倒れた先に固定されていない本棚が置かれていたからか、衝動で落下した沢山の本に埋もれていた。床に仰向けで横になっている旭からは、見上げると本棚の裏側が見える。目を擦ろうと片手を動かした時、勢い良く1冊本が落ちて来た。動かしていなければ、落ちて来なかったのかも知れないが、動かした位置が丁度顔だったのもあり、本は腕に当たった。出来る限り頭を振ると、上下左右、何処を見ても本で溢れている事に気付いた。どれだけあるんだ、と半ば呆れ気味に苦笑する。

「あのー? 鴇崎先輩、この本の山、退かせますか? 出来たら……お願いしたいんですけど」

 これ以上本を落とさない様に、と自由に動けない旭は、同じく本に埋もれているだろう先輩に問いかける。何度名を呼んでも返事をしないので、想像したくもない映像が流れ始めてしまう。まさか、ショックで気を失っているのだろうか、と脳内会議での結論に迷いが生じる。まだ痛む身体をゆっくりと動かして、横目で彼を探すと、本と本の隙間に男子生徒用の制服が見えた。掴もうとしたら、本に囲まれた制服が消えてしまう。何が起こったのか理解するのに、約6秒かかった。

「え、ちょ——」

 いきなり長い睫毛と、薄めの茶に染まった髪の毛が現れて吃驚しているというのに、分厚い本の数々な雪崩により回転スピードが倍近く遅くなった。その上、身体全体の感覚が鈍くなる様に設定されてしまう。脳の指示で。
 もう何が当たっても良いや、と諦めて遙の身体を揺らす。気を失っているのなら大変だからだ。遙独特の癖毛は動くものの、息を吸う口元は言葉を発しない。

「大丈夫、じゃないですよね。こういう時は、先ずどうしたら……? あああ、私、役に立たないぃ」

 上半身だけ起き上がり、ポケットに手を入れる。出て来たのは使い捨てのカイロだけだが。辺りを見回そうと左に動かす。が、雪崩かそれ以前の本による攻撃で首にダメージを食らっていた様で、向こうにも向けない状態。自分の情けなさに涙が零れて来た旭の首筋へ、またしても攻撃を仕かける。何処からか現れた細長い指は、襟元から出ているネクタイを引っ張り、散らばる本の山へと転んだ勢いで突っ込ませる。甘いというよりかは、優しい匂いが鼻を刺激した。

「…………起きていたんです、か」
「いやぁ、正直眠ってましたねー。最近睡眠時間が少ないもんで」

 悪びれもせず暖気(のんき)に笑う遙に対して、少し怒りを覚えたが、直ぐにその思いは消え失せた。理由は簡単。自分と彼の体勢がどうなっているのか、気が付いたからである。ミントの匂いが漂う制服を、倒れた体形のまま思い切り握っているし、包み込む感じで抱き締められている。つまり、旭は遥に抱き寄せられている訳で。逃げる様に立ち上がろうと、床に手を移動させ離れてみたが、またも腕や裾などを引っ張られて捕まえられてしまう。「身体、温かいね。このまま眠っても良いかな」と儚げに笑うので、旭は離れる事を止めた、その代り、体温を上げているのは先輩の所為です、と心の中で叫んでみたのだが、効果はない。


 これからの未来、黒き影に紛れながら——とはいかないが、今だけ先輩の事を思っていよう。それが旭なりの仕返し方だった。