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Re: ヒーロー達の秘密会議。 ( No.42 )
日時: 2015/07/04 10:42
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

【第3話・少女は愛の海を口遊む】


「では、これより。秘密会議を始める」

 
 冷えているが優しい声で告げる少年の周りには、4人の少年少女がそれぞれ椅子に座っていた。彼等の顔は笑みで満ちた——訳ではない。脳内を占領しているのは疑問。色々あるが、とりあえず疑問である。

「ねえねえ質問良いかな。何で椅子座っているの? 先ずそこお願い」
「秘密会議をするからだ」
「2つ目ね。そもそも秘密会議って何なの。聞いてないけど。あれ、もしかして俺だけ?」

 口調は普段と変わらないが、やはり半ば強引に始められた事で焦る遼。勿論、彼が見渡した時、他の者は頭を横に振った。誰も聞かされていない、つまり『椅子に座ってくれ』と言われただけで突然だという。視線が窓際の伶に集まるのだが、当の本人は何故か首を傾げている。いきなり誰も理解出来ない状況になった。

「え、何で伶が不思議そうにしてんの」
「いや」
「その続き、僕にも聞かせて欲しいんだけどー。早く言おうか」
「鴇崎先輩が変わっちゃった……」
「こういうのは見ちゃダメよ、旭ちゃん! 温かいなぁ」

 少年2人が椅子から立ち上がり両側から責める。取り残された旭と佑里は寒さで悴んだ指先などを温め合っていた。空き教室なので暖房がつかないのだ。呼吸をするのもつまらなくなって来た頃、漸く鬼畜人間等の質問と名乗る牢屋から出た伶を、またしても牢屋に閉じ込めて鍵をかける。最初に会話を交わしたのは、旭で遊んでいた佑里だ。

「あたしと旭ちゃんにも説明してください、何ですか、遙と遼くんだけ狡いです」
「私も聞きたい、です」
「言う、言うからそんな顔するな」

 机に両手を置いて不満オーラを躊躇う事なく放出する佑里、また彼女の後ろから怯え切った小動物がとる抵抗の如く口を曲げる旭が見つめ、疲れて息を吐いた伶は苦笑する。そんなやつれた様子に言葉を呑むと、彼は頭を掻いてばつの悪そうな顔をしながら発した。

「考え事をしていて…………会議、伝えるのを忘れていたんだよ」

 どちらも呆気にとられる。その表情以外するものがなかったのもあるが。10秒程度経ってからだろうか、遙の「もっと大変な事かと思ったのに」という声で生き返った。彼等が驚くのも仕方がないといえる。顔を顰めてしまう程の生真面目な伶が、内容も全く知らされない会議を開く事さえ忘れてしまっていたのだから。まさか悩んで困っているのでは、と旭はうろつく。後に遼が軽く止めた。

「伶も忘れる事あるんだね」
「言い方を変えろ。俺だってする」
「あ、考えてみたら毎回遅刻してきてますものね。そういえば」
「自慢出来ないがな」

 驚きを露わにする遙と佑里へ、伶が身体を休ませつつ笑う。気力が残り少ない為、やや引き攣る形となった。
 説明するか。伶が座り直すと同時に、立っていた旭も席に着く。振動で周辺の紙屑やら埃やらが舞う。それを払い終え、元々無表情だった顔を更に引締めた。つられて皆も笑顔を消して耳を澄ます。

「これから話すのは俺等が持つ能力について、だ。解らない所があった場合、手を上げて質問してくれ。答えられる範囲で答える」

 凛とした態度の彼に旭は頷く。前髪の隙間から見えた瞳は、何処か悲しげに思えた。隣に座る遼、遙、佑里の瞳も気付かぬ内に光を宿してはいない。何故だろうと理由を探していた旭の耳に、言葉が響き渡る。
 

「俺は能力を役立てる為、『お助け団』を作ろうかと思っている」


 もう直ぐ暖かな春を迎える。
 世界に置いていかれた少年少女が、笑顔だと嘘を吐いて泣いた春を。