コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ヒーロー達の秘密会議。【6/4更新】 ( No.43 )
- 日時: 2015/07/12 15:57
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
『お助け団』って何? そう旭は訊きたかった。訊きたかったが、その問いを邪魔する雰囲気が空き教室にはあった。まるで触れてはいけないと囁いている様に、旭には思えたし、同時に自分でも触れたくないと願っていると気付く。大切な宝物が壊れてしまう気がして。でも、その宝物が何かは知らない、大切だという事は知っていたから、彼女は訊くのを止めた。
「何で急に……」と、旭の隣に座る遼が呟く。その質問が来ると前々に考えていたのか、向かいの伶は「これ以上は引き延ばせないからだ」と答える。今年で俺は卒業するからな、とも。それを聞き、旭は伶が3年生である事を思い出す。自分より身長が低かったからか、はたまた同い年の様に馴染んでいたからか、残り数ヶ月で彼はもうこの学校にはいないのだという感覚が薄れていたのだ。嫌だな。素直にそう感じる。友人が少ない彼女にとって、この空間にいる彼等は皆大切な人なのだろう。
「あ、旭ちゃんも入るんだよね? なら、説明してあげようよ。あたし達だけで進めちゃだめでしょ?」
旭が話を理解出来ていないと思ったのか、佑里が笑いかける。しかし、空気が和む事はなかった。それをどう受け取ったのか、ですよね……と目を泳がせ、俯いてしまう。佑里の左側に座っている遙は、伶の澄んだ瞳をただ何も言わず見つめていた。言葉が見つからない訳でも、悲しげに笑う訳でもなく、何処か遠くを見る様にして。
「なあ。片峰」
「……っ! は、はい!」
海の少し上を歩いている伶の声に、一瞬旭は反応が遅れた。何時も聞いている優しい声ではない。今にも浅いと解っていながらも溺れてしまいそうな、暗く低い、初めての声。だからそれを伶だと思ったのは、彼の瞳が此方を映していると思ったからで、声から判断は出来なかった。したくなかった。
「お前は、自分の能力が嫌いだと言ったな。何故嫌いなんだ」
「そ、それは、あの…………」
「俺達もな。こんな誰にも理解してもらえない能力なんて」
「大っ嫌いだったんだ——」
眩しいと来る時は感じていた日の光が、伶の黒く染まる髪に当たって、綺麗なショコラ色に変わる。潤む瞳から小さな粒が溢れて、宙に消えて行く。1枚の写真を見ている気分で、瞬きなど頭にはなかった。もっと近くで見ていたい、そんな気持ちが旭を支配して、言葉も聞かなくてはと思っているはずなのに入らない。
『当たり前じゃないですか。嫌いですよ』
『何故だ?』
『何故って……気味悪がられるし。自分じゃコントロールも出来ないのに、突然出て来ちゃうし』
そういえば、と旭は思う。あの日の自分はそんな風に返していた。良い思い出など1つもなかったけど、自分はこの能力があったからこそ、此処にいられるのだ。この能力がなかったら、きっと今、自分は此処に……。その先は考えたくなくて、旭は「そうなんですか」とだけ言った。能力を治す方法があるなら、能力を消す方法があるなら、そう思っていた旭だが、少しだけ今が存在して良かったとも思って、胸の中で細い糸が絡まる。
「悪い、脱線したな。話を戻す。俺が言う『お助け団』とはその名の通り、自分が持つ能力を使って、困っている人を助けてあげる。というのを目的としている。片峰はまだ使いこなせていない様だから、先ずそこからになる。取り敢えず、此処までで何か……」
「はーい。僕から良いかな」
何時もと変わらない態度の遙なのに、旭は何処か緊張してしまう。何も変わらないからこそ、変に思えてしまうのは何故なのだろうかと。跳ねた毛先を指で弄りながら「あのさ」と笑う。数秒何かを考えてから、旭に目を向けて尋ねる。それは少し挑発的で、なのに真剣な言葉。遙みたいだと旭は心の奥で呟いた。
「片峰さんは必要なんだよね?」
「……ああ、多分な」
「ふーん。ありがとう。それじゃあ早めに確認しておこうよ。後からだめって言われても困るし」
何を? と口に出す前に、遙が縦に長い身体を小さくして旭の唇に指を当てる。目を細めて微笑する遙は、旭の左手を引いて3人の顔を見られる位置まで連れて来ると、手を離し、自分もその瞳に映った。そして意地悪な表情を作り、片峰さんと名を呼ぶ。
「お助け団へようこそ!」
可笑しい。何かが可笑しい。旭は可笑しい部分を見付けるのに時間がかかった。全員が揃っているのに、大切な彼等が自分を見ているのに、その瞳がこれまで感じた事のないくらい“寂しい”感情がつまっていたから。だから彼女も笑顔が自然と出て来なくて、作ってしまった。歓迎されて嬉しいはずが、歓迎されて苦しいなんて思う心を認めてしまう様で、泣きそうになりながら。