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Re: 春風〜千の想い〜【ギャグのネタ募集中】 ( No.39 )
日時: 2015/02/04 16:58
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

52:萌え

「血管浮いてる腕ってなんかよくない」

 そう言ったのは確か由莉だった。自分のタイプについて話しているときに、その言葉がぽろっと聞こえた。

「わかる。超わかる」
「でしょ!? 会長、わりとそんなだよねえ」
「うん。体育のあととか、ちょっとそでまくってね」
「ああ〜っ超わかる!」

 千風と由莉が盛り上がっている。華織はその会話にそうかなあ、と入ってみる。

「ああ、楓はあんまりそういうのないよね」
「うん、そうだよね。楓くん…細すぎて」
「そうそう、そうなのよねえ、うらやま…でさあ、千春はそうだと思うのよ」
「橘さん、最後まで言ってほしかった」

 華織がツッコむが気にせず、千風は彼氏自慢をする。なんだかんだ言って千風は千春のことが大好きだ。

「あいつ、運動できるわよねえ」
「ねー! 翔もわりと腕に血管浮かせる人だけど会長には勝てない」
「血管、浮かせる…!?」

 血管を故意に浮かせられる人なんていない。そういう意味で華織は声を上げたが、これまた拾ってもらえず。

「はぁ…血管…浮かせたい…」

 血管を浮かせたい、とは。と華織は頭の中で思う。うすうす気づいてはいたが、千風も由莉も、変な人だ。この人たちの萌えポイントもよくわからない。ホント、変な人たちだ。

「華織ちゃんはさあ、」
「ふぁっ!?」
「いや、華織ちゃんはどういうのに萌えるの?」
「え」

 萌えポイントなんて自分でもわからない。まだ楓とも日が浅いし、彼のどこがどう好きなのかもよくわかっていない。それなのに、急にそんなこと言われても。…あ。

「そで、かな?」
「そで?」
「うん…。全かくれと、ちょっと指が見えてる、みたいなのが好き…」
「あー、こんな感じ?」

 由莉が自分のカーディガンの袖を引っ張り、手を隠す。すると、華織は少し顔を赤くして、頷いた。

「ほうほう、彼氏のことが頭にあるね?」
「え、いや、その」
「そういえば、楓はそんなよねぇ…わかる」

 何か開けてしまった千風。目をキラキラさせて言うが、それは千春を裏切っていないだろうか…。

「なんかもうそれでいいわ、わかるわ!!」
「ねー!! わかる!!」

 千風と由莉はわかるわかるループに陥ってしまい、しばらくは戻ってこなさそうだ…。



「萌えポイント教えてくださぁーい」

 ファミレスでジュースを飲んでいるとき、翔がそう言った。この場にいるのは、いつもの3人と、そのへんで見つけた修一である。

「え、俺はこういう袖とかこういう泣きボクロとか…」
「修一、俺を例にすんのやめてよきしょいなぁ」
「うわああああ」

 今のは修一が悪かった。と千春も翔も思った。しかし、二人とも少し同意してしまった部分がある、というのが恐ろしいところだ。

「きしょいって言うなよぉ…」
「じゃあ修一がきしょいことしなきゃいいの。俺は、萌えとかわかんないかも」
「楓はそういうの疎いだろうと思ったよ。俺は、うなじかねえ」

 翔がそう言ったとき、沈黙が訪れた。どうにもならないほど重い沈黙…

「…翔」
「ん?」
「…きしょい」
「ええ!?」

 ものすごいしかめっ面をした千春が言った。ドン引き、というものすごい顔だ。修一と楓も、哀れなものを見るような目で翔を見つつ、ひそひそ話をしている。

「ちょ、ちょ、ええ!? 俺はありのままを出しただけだぜ!?」
「知らねーよ、レリゴーしすぎだよ」
「ごめんね浅川くん、ちょっ…かなり引く」
「わざわざ『ちょっと』から『かなり』に変えてくれてどうも」

 するとそのとき、千春がじっと翔を見つめ、いいか、と真剣な眼差しで言った。

「いいか、よく聞け翔」
「おう」
「…きしょい」
「さっき聞いたよ!! 二回も言うなよ傷つく!!」

 修一がごそごそと何か取り出した。———はさみだ。

「なあ、翔、これ…」
「え、何、なんではさみ」
「俺のうなじでよければどうぞ…」
「え、何、髪を切れと!? 切らねーよ!!」
「違うのか?」
「違うわ! 女子の萌えポイントの話してんのに男子て!!」
「おい、翔」

 千春が一段と低い声で翔を呼んだ。え、と黙ってみると、周りの客がひそひそと何か言っている。千春は溜息をつき、言った。

「お前が萌えとか言うから。オタクと勘違いされてんだろーが」
「いや、そうではないと思うけど、これ、俺が悪いの」
「当たり前だろ、俺帰るわ」
「え、帰るんか」
「ごめん、俺も、浅川くんと一緒にされたくないから帰る…」
「楓、それ傷つく」
「楓が帰るんなら俺も帰るー」
「ひでえよみんな。俺も帰っちゃうもんね!」
「いい年して『もん』とか言うなよ…」

 そうして、その日もみんな帰ったのだった。その夜、男子は日付が変わるまでその話題でメールをしていたんだとさ。