コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: TOBETOBERRY ( No.2 )
- 日時: 2015/02/27 22:25
- 名前: ファイトソング (ID: IqVXZA8s)
episode 1
title 問題児
side 苺
燦々と照り付ける太陽。
木々が小さな葉で風を受けて微かに揺れている。
今日私は、初めて高校に行く。
今時期は言わゆる真夏で、初めての登校にしては遅いのでは、というのが普通の感覚だろう。
自転車に跨り、ペダルを漕ぐ。
が、この時期の初登校にも色々と理由があって、そんなこともあってかペダルを漕ぐ足にあまり力が入らない。
早春、私は問題を起こした。
おかしな家庭環境でストレスが溜まっていた私は、夜の街に繰り出て、遊ばないかと誘ってきた男数人を力任せに殴った。
普通ならすでに決まっていた高校入学も危ぶまれる所だが、私は特待生としての入学だったから、約2ヶ月の謹慎を受けるだけとなった。
「バカみたい」
自分に対して、そんな言葉を放っているわけではない。
この、目の前にある無駄な大きさの学校に呆れているだけだ。
生徒駐輪場に、自転車を止めた。
「あー、遅刻だ」
腕時計を確認すると、30分以上の遅刻。
家を出た時には、既に登校時間を過ぎていたんだろうけど。
自転車の鍵をかけ、グランドを横切って、校舎に足を踏み入れる。
やはり、この感覚は慣れない。
決められた服を来て、知らない空気を吸う。
私以外の人は何気無くやってのける行動なんだと思う。
そして、それを好奇心と多少の喜びを持って行うんだと思う。
みんな、私とは違う。
ふと押し寄せる寂しさを紛らわすように、自分の下駄箱を探した。
あった。
だけど、その下駄箱は初めて靴を入れるのに全く綺麗では無かった。
むしろ、汚くて。
またか、って溜め息を吐く。
〝学校くるな!〟〝問題児!〟〝できれば消えてほしー〟〝悪魔は地獄に行け〟
どうでも良くなって、教室へ向かう。
そんなテキトーな私でも喪失感だけは否めない。
元々、何も持ってはいないけど。
一年生は三階。
二段飛ばしで階段を駆け上がって行く。
一歩一歩踏み締めるなんて、青春みたいなことは出来ない。
まず、真夏に初めて学校に来た私は完全に青春に乗り遅れているわけだし。
1-G組の教室の前で、柄にもなく深呼吸する。
がらっと勢い良く開いた扉。
力んでいたのか、それとも立て付けがいいのか…どちらにせよ、教室の奴等が驚いたのは確かだ。
「何?」
私の問いかけに誰も答えず、代わりに教師であろう人物が私を叱る。
「おいおい!遅刻か?!…取り敢えず座れ!」
「あ?…はーい」
教師が指差した、一つだけ空いている席に腰掛ける。
学校の椅子というのは、平らで座りにくい。
「じゃー、自己紹介してくれ」
「…私?!」
一度聞こえないように舌打ちしてから、立ち上がって口を開く。
「えっとー、佐藤苺。チビだとかは言わないで。結構気にしてるから。まぁ、色々あって今日から登校。んとー…できれば私に構わないで下さい」
不審な目が私に向けられる。
いつものことだし特に気にはならないけど、こうも嫌われているのかと思えば妙な虚しさが胸を締め付ける。
私に味方なんていない。
家に帰っても、学校へ来ても…誰もいない。
授業が始まり、鞄から教科書とノートと筆記用具を出す。
教師の話に耳を傾けて、問題児らしからぬ態度で授業を受ける。
一限目が終わり、次は移動教室。
はぁ、どこ行けばいいの?
そそくさと、私を避けるように教室から出て行く奴等を追いかけるわけにもいかない。
どうしよ…困った。
「…なぁ、お前が苺?」
突然背後から男の声がして、ぱっと振り返る。
「…お前が苺?」
「そうだけど」
「俺、結城グループ跡取りの結城永遠」
「ゆうきえれん?何その名前」
何こいつ。大企業の跡取りだってこと自慢しに来たの?
偉そうに腕組みするそいつを睨んで席を立つ。
「お前さー友達いないだろ?」
「いてもいなくても変わんないし。つーか何なの?」
「俺とさ友達になってよ」
「…いや、無理」
「じゃあ、俺が努力するからさ。友達になれるようにね?」
本当は
嬉しかったんだ。
結城永遠…
何不自由なく暮らしてきたことが、顔から体から…全身からだだ漏れだった。
だから…
…親から捨てられるような私とは、釣り合わないよ。