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#29　長期休み



「突然だけど」
　訪問者入り口が塞がれて数日。
　夏が始まろうとしていたその日。
　言葉通り、ルーナは突然言った。
「長期休みよ！」
　……本当に唐突である。

◇

　登校中に聞いたところよると、そこまで長期間ではないらしい。
　まぁ、地球で言うゴールデンウィークの様な物で、1週間の休み。
　……ちなみに宿題多め。
　魔法科に入ってからと言うもの、俺は一段と忙しくなった。
　まぁ、生徒会にも入っている、ルーナやシスルほどではないのだが……
「ミズキ君っ！」
　と、後ろから何かが抱き付く。
「降りろ、エリン」
　瞬間、周りからの視線が突き刺さる。
　この光景は、端から見れば、曰く逆ハーという物かもしれない。
　こいつも、黙っていれば可愛いものである。
　……黙っていれば、な。

「ねーえーミズキ君！　ルナ姉の事教えてよー！」
　……変態。女好き。シスコン。
　今風に言えば、ストーカーだろうか。
　……レズとかな。
　というか、いつからコイツは、俺を名前で呼ぶようになったんだ。

「……もう集会だろ。さっさと行くぞ、変態」
「いいもんっ！　私変態だもん！」

　……特技、開き直り。

#30　校長の話



　広い体育館で、ざわざわと騒ぎ声がする。
　これから長期休み前の集会が始まるところだ。
『これから、全校集会を始めます』
　アナウンスが入れば、一瞬で声が消えた。
『校長先生のお話です』
　再度声がすると、壇上に、いつか見た校長が上がった。
「えーと。はい、長期休みです」
　……はい?

「さて。子供はよく遊びましょう。私からは以上です。はい、かいさーん」　

　と、みんな慣れたように次々と体育館から出ていく。
「ミズキ」
　振り向くと、シスルの姿があった。
「校長の話はいつもこうだから、慣れろ」
「……おう……」
　ルーナから聞いてはいたが、ここまで酷いとは……
「シル姉っ！」
「……あぁ、エリン。ルーナは戻ったぞ」
「えぇーっ！」
　どうやらシスルとも知り合いらしきエリンが、がっくりと肩を落とす。
　……ある意味で顔が広い……

#31　動き始める



「あーもう……っ！」
　動けば痛みが走り、血が布に滲む。
　早く来ないだろうか、リュウは……

「あーりーあーっ！」

　突如、大声が聞こえた。
　タイミング良さすぎだろう……
　私の前までくると、リュウこと黒田流星は、傷をまじまじと見た。
「結構深いねぇ……。これ、あの時の女の子がやったの?」
「あぁ」
「もう少しか弱いイメージだったんだけどなー」
　ボリボリと頭を掻き、救急箱を取り出した。
「女は爪を隠すものだ」
「そう言う自分も女でしょ」
　慣れた手付きで包帯を巻いていく。
　口が達者でムカつくが、こういうことは頼りになる。

「……そういえばさー」
　と、リュウが話を切り出した。
「あの人、また現れたって噂があるけど?」
「！　……わかった。確認しといて。私はさっさと怪我を治す」
「仰せのままに。お大事にね?」
「あぁ」
　無愛想に返せば、リュウは笑い、帰路についたのだった。