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- Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【3/7更新】 ( No.12 )
- 日時: 2015/03/07 19:09
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
お婆さんに手招きされて私はその洋館に足を踏み入れた。洋館の中は中世ヨーロッパの城を連想させるようなファンタジックな世界が広がっていた。彼女が私にソファに座るよう手を向けた。軽く礼をしながらソファにそっと座る。ふかふかで低反発のソファなんて座る経験が過去になかったため、ぎこちなくなってしまう。
「どうぞ、温かい紅茶よ」
「あ、ありがとうございます……」
いつの間にかお婆さんは私の前にある真っ白なテーブルにカップとミルクを置いていた。緊張のせいか指が震えて上手くカップを持てそうになかったので、口は付けられなかった。お婆さんはそれには触れずに微笑みながら私に言った。
「改めて、私は神埼星子です。“Platonic Star”という化粧品会社の取締役を担当しているの」
「ぷ、Platonic Starの取締役……?!」
「Platonic Star」といえば超大手化粧品メーカーだ。化粧なんてお金がかかるためしたこともないが、そんな私でも知っている程の会社の取締役の方に自分の短い人生を話したり、お婆さんなんて呼んだりと失礼なことを繰り返してしまった。
「ええ。それで、単刀直入に言うわね。あゆみさん、ここに住んでみない?」
「え……え?!」
そんな大事なことを笑顔でさらりと言う神崎さんを私はつい凝視してしまう。それでも神崎さんは顔色一つ変えずに言葉を続けた。
「この洋館は私の会社で管理していているの。もちろん、家賃はいらないわ。その代わり、ここに住む五人の高校生のお世話をしてあげてほしいの。私は仕事があって普段ここに来ることは出来なくてね」
「お世話……ですか?」
「そう。全く生活感のない駄目な人たちが集まってしまってね……」
そう言って神崎さんは初めて顔を曇らせた。そんなに駄目な人たちだと言うのか、その高校生たちは。
「どうかしら」
「有難いですが……どうして神崎さんはそんなに良くして下さるんですか?」
そう問うと、神崎さんは一瞬きょとんとした顔をしたがすぐに元の優しい笑みを浮かべて静かに言った。
「理由なんて特にないけれど……そうね、あえて言うとしたら似てるからかしら。貴女が公園で一人項垂れていたのが彼等に似ていたから」
「彼等……?」
神崎さんは楽しそうに笑いながら一度手を叩いた。私はその音に驚いて声を発することが遮られてしまった。
「さて、お話はここまでにしましょう。あゆみさん、ここに住んでもらえるかしら?」
「住んでもらえるか」なんて言葉は勿体無い。私は自分の膝に額にぶつける程頭を下げた。
「はい……! よろしくお願いします!」
神崎さんは私の頭の上でふふっと微かに笑い声を立てて私の頭に軽く触れて上げさせた。
「じゃあ、一緒に住むことになる人たちを今呼んでくるわね」
神崎さんは軽い足取りでゴシック調の階段を上がって行った。
私はその背中を見ながら考える。一体どんな人たちなのだろう。女の子は何人だろう。どんなものが好きなんだろう。これからの生活に少しだけ期待を持つ。同じ高校生ということで友達のように過ごせるかもしれない。安心したからか、いつの間にか指の震えもなくなっている。私はカップを持って紅茶を一口頂いた。それはとても甘くて、丁度良い温かさだった。