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Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【3/7更新】 ( No.13 )
日時: 2015/03/07 19:14
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)


「あゆみさん、ごめんなさいね、遅れて。ちょっと連れてくるのに時間がかかってしまって……」

 そう言われて顔を上げる。その瞬間、身体にいきなり重みがかかった。誰かが抱きついてきたのだと知るのに一瞬間があいた。私に抱きついてきたのは小柄で茶色の髪をした少年だった。

「きゃっ……?!」

 彼は顔を上げて私の目を見つめた。大きな黒い瞳に中性的な顔立ちはとても可愛らしくて、思わず胸がときめきそうになる程だった。

「君が黒原あゆみ?」
「あ、あの、黒原じゃなくて白原あゆみです……」
「え、そうなの? ごめーんね」

 屈託のない笑みを浮かべる。これ、絶対悪いと思ってないよ。

「僕は園田リク! よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします……」
「——うるせえ!」

 挨拶を返したと同時に力強い声が飛んできた。うるさいって言われてもそんなだと思うのだが……。

「リクはいちいちうるさいんだよ」

 そう言いながら現れたのは眼力が強く、不機嫌そうに顔を歪めている男性。その目にギロリと睨まれて萎縮してしまう。

「本当にばーさんはお人好しだよな……何でこんな平凡な女連れ込んでんだ?」
「は……?!」

 初対面でこんなに言うか?! と腹が立ったが、この人も共に住む高校生なのだろう。下手に言い返すことは出来ずに唇を噛む。彼は盛大な舌打ちをして言い放った。

「お前、俺に惚れるなよ?」
「はああああ?!」

 さすがにこれは我慢が出来なかった。いくら顔が良くても性格がこれなんて悪い意味でギャップがありすぎるだろう。

「そんなこと絶対にない! ちょっと自意識過剰すぎると思います……!」
「んだと、このやろ……!」

 そう言って突っかかってこようとした彼を誰かが後ろから止める。

「こら、真。いきなり暴れすぎ」

 現れた人はとても紳士的な雰囲気で大人のオーラを持っていた。優しさと戸惑いを混ぜたような表情を浮かべながら「シン」と呼ばれた人を抑えつけていた。

「申し訳ないね、あゆみさん。僕は梅澤和希。このうるさいのは宮野真。ここに来た経緯は聞いたよ。大変だったんだね。うるさいところだけど是非ここに住んで楽しく過ごしてほしいな」

 その口から紡がれる言葉はとても優しくて泣きたくなる程に温かかった。永遠にこの温かみに触れていたいとつい思ってしまう。そんな思いを持って和希さん、という方を見つめていると彼の後ろから微かな足音が聞こえた。

「……だからって人の家に転がり込むなんてね。随分常識外れの人間だとは思うけど」
「え……」

 そう言いながら階段を下りてきたのは色白でミステリアスな雰囲気を持ったとても顔の整った美少年。思わず見とれてしまうくらいに美しい顔は一つも表情を変えず、無表情で口を開いた。

「——人の顔を黙って見つめるとか失礼すぎるんじゃない? それともアンタの脳内には“常識”って言葉が存在しないわけ?」
「……っ、そういうわけじゃ……」

 飛んできた辛辣な言葉に面をくらって何も言えなくなる。それでも彼は表情一つ変えずに私から目を離した。

「ごめんねー、この人は常にこんな感じなんだ。平井泉っていう名前なんだよー」
「勝手に人の個人情報振りまかないでくれない?」
 
 私の隣でリクさんが無表情の彼を見ながら言う。すぐに泉さんはリクさんを睨んだけれど。
 個性的なメンバーだな……と思っていると、階段の中間部分で立ち止まる、黒いパーカーを身にまといフードを被った人影を見つけた。

「……桐野由紀です。住んでもいいですけど、僕の半径一メートル以内に絶対に寄らないで下さいね」

 聞こえるか聞こえないか位の小声が響く。そう言った彼の顔は全く見えない。由紀さんと名乗ったが、そこから一歩も動く気配はなかった。人見知りなのだろうか……。
 真さん、リクさん、和希さん、泉さん、由紀さん……五人の高校生……全員男の。

「ごめんなさいね、騒がしくて面倒くさい人たちで。この子たちがあゆみさんと一緒に住むことになる五人の高校生よ」
「五人の高校生……お、男の……」

 心なしか「男」と言う声が小さくなってしまう。星子さんは「やってしまった」という顔で私に言った。

「ごめんなさい、私言い忘れてたのね。同居人は全員男だって」

 そんな大事なことを言い忘れないでほしい、と心から思った。心の声が顔に出ていたのか、真さんがまた意地悪気な声で言い放つ。

「安心しろよ。お前みたいな女興味ないから」
「わ、分かってます、そんなこと……!」
「……というか、帰る家もないアンタに選択権なんてあるわけ?」

 泉さんが無表情で言った言葉に私は何も言い返せなかった。黙っていると、星子さんが満面の笑みを浮かべながらコートとバックを手に持ってから口を開いた。

「じゃあ、そろそろ私は戻るわね。あゆみさん、この子たちのお世話よろしく頼むわね」
「は、はい……」

 そう言って星子さんは玄関の方に向かってしまった。本当はもう少し居てほしかったが仕事があるのだ。引きとめるわけにもいかず、私はぎこちない返事で彼女を見送った。

「じゃあ、また後で」

 和希さんの声が背中に届き、振り向くとすでに五人はいなくなっていた。自室に戻ってしまったのだろう。私はまたもや盛大に溜息をついた。

「……どれだけ自由なの、ここの住人は……!」

 ——これが、私と狼どもの出会いだった。

                        【prologue end】