コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【3/20更新】 ( No.22 )
- 日時: 2015/03/20 18:31
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
【Ⅰ宮野真の場合】
パスタを鍋に入れて五分。その間にトマトソースを作る。こんな風に人の家で食事を作るのにはまだ慣れない。
私がここ「星屑荘」のお世話係としての仕事の一つ、皆の食事を作ること。それを全うするために六人分の大量のパスタとトマトソースを作る。この仕事で生活費を負担してもらえるのならば安いものだ。ゆであがったパスタにソースをかけてからキッチンに配備されている電話を手に取る。ここで部屋番号を押すと、彼等の部屋に連絡を取ることができるというハイテクな機械だ。
「真さんの部屋は……一一一番、と」
一一一、とゆっくり確認するように押してから耳元に受話器を当てる。
『——はい』
「あ、真さんですか? あゆみです。夕食ができたのでダイニングに……」
『部屋に持ってこい』
そう言うとすぐに電話が切れ、ツーツー……という虚しい音だけが私の耳に届いた。
私は命令されるために電話を取ったわけではないのだが。
——そうして、今私は真さんの部屋の前にいた。
というか、全員の部屋を回った。電話をかけた結果、全員に「部屋に持ってきて」と頼まれてしまったのだ。折角大きなダイニングがあるのだから、食卓を囲めばいいのにと思うが、ここの住人たちにそういう考えはあまりないらしい。
皿が乗ったお盆を床に一旦置いてから私は真さんの部屋をノックした。
「真さん、夕食持ってきました」
少しの沈黙があってから、ゆっくり扉が開いた。真さんが私を見下ろした。
「あ、じゃあ私はこれで。食べ終わったら部屋の前に皿を出しておいて下さい」
そう言って真さんに背中を向けようとした私の手首が急に掴まれる。驚いて振り向くと、片手にお盆を持った真さんが無表情で言った。
「部屋、入れよ」
「……え?」
そう言われて、返事をする間もなく私の体は簡単に引っ張られて真さんの部屋に足を踏み入れてしまっていた。
真さんはデスクにお盆を置き、フォークでパスタを一口食べた。目の前で自分の料理を食べられるのは初めてだったので少し緊張しながら彼が口を開くのを待った。
「ふーん、結構美味いじゃん」
その言葉を聞いて安心する。これで皿でも投げつけられたらどうしようかという想像をしてたから。
「……で、こんな風に食事を作ったり面倒くさいことして何を狙ってんの?」
「……え?」
「とぼけんなよ。どうせお前も俺等のことステータスに考えてる女だろ? お遊びでならいいけど、家でまでなんてごめんだからな」
「あ、あの、どういう意味ですか?」
「ちっ、まだそんな純情ぶってんのかよ。だから俺等をブランド品みたいに思ってんだろ?」
心底人を軽蔑する様な眼で私を見る真さんに私は必死で弁解した。
「そんな気はありません! たまたま神崎さんと出会ったってだけで!」
「はあ? ……仮にそうだとしても、野良犬みたいな女と一緒に生活なんて俺はまだ認めない」
「野良犬みたいな女」それはのこのこ人の家に踏み込んでしまった私のことだけではなく、他の女の子のことも言っているのだろうか。きっと、真さんは女の子に群がられてそれを嫌とはしない人なんだと思う。それなのにその人たちをそんな風に呼ぶなんていくらなんでも酷いと思う。
「……女の子のこと、傷つけちゃ駄目ですよ。真さんにとっては大人数の女の子でも相手に捕ったらただ一人の真さんなんですから」
そう伝えると、真さんは面喰ったように目を丸くしてから、私をきつく睨んだ。私はその視線に少しだけ滅入ってしまう。一瞬で後悔した。
——言わなければよかった、と。
「——偉そうな口利いてんじゃねえよ!」
そう言われながら背中に合った真っ白なシーツのベッドに押し倒された。真さんが私の両腕を押さえながら覆い被さる。驚きで声が出ない。呼吸もままならないまま真さんの視線に囚われる。瞬間、首筋に濡れた熱い「何か」を感じた。それが真さんの舌だと気付いたら急に身体全身が熱くなった。
「やっ……?! 何してっ……」
「何って、お前もこういうことしに来たんだろ? いいぜ、別に。アソんでやっても」
真さんの唇が首筋から段々と下に降りてくる。腕を振り払おうとしてもビクともしない。鎖骨に唇が触れた瞬間、私は勢いで——脚を出していた。
「いってえ!」
そんな叫びが真さんから聞こえたと同時に真さんは身体を離した。
私が出した脚は真さんのお腹に上手くヒットしていた。そんな真さんはお腹を両手で押さえつけるように丸まっていた。ちょっと上手く当たりすぎて逆に申し訳なくなってくる。
「お、まえ……本当に女かよ?!」
「正真正銘女です! よ、世の中の女の子が皆、自分のことを好きだなんて思わないで下さいね?!」
自分の両腕を盾にして、身体に回す。まだ身体全身に広がる熱が治まらない。
「……そんな真っ赤な顔して何言ってんの?」
「ま、まっ?!」
思わず両頬を触る。確かに私の頬は熱くて、そんな顔を真さんに見られたかと思うと余計顔が熱くなる。そんな私を呆気とした顔で見つめてからふっと吹き出した。
「……ははっ、面白い女」
真さんが笑いながら身体を揺らす。何に笑っているのかよく分からないがさっきまでの不機嫌さはなくなっているみたいだ。
「お前、恋愛初心者なんだな」
「な、何言って!」
真さんは笑いを止めてから一瞬真剣な顔をして私を見つめた。
「……決めた。お前のこと、惚れさせてやるよ」
「はっ?!」
何を言っているんだと思わず目を見開いてしまう。そんな私に自分の顔を近付けて真さんの綺麗な顔を見せつけられる。
「だって、お前から近付いてきたんだからな。覚悟してろよ?」
真さんは私の耳を軽く舐めながら言った。その感触に身震いして私は思う。
この男の部屋に踏み込まなければ良かった——と。そしたら、こんな男にときめくはずなんかなかったのに。
【first episodeⅠ end】