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Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【3/20更新】 ( No.28 )
日時: 2015/03/28 11:18
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

【Ⅱ園田リクの場合】


 淡いピンクの二段弁当箱に巻き終わった卵焼きを小さく切り分けて詰める。一息ついてから私はお弁当箱に蓋をした。
 昨日の夜、リク君に「明日のお弁当作って」と頼まれて私はいつもより一時間早く起きて気合を入れて作った。張り切り過ぎて目元に隈が出来てしまったことが痛いが、初めて星屑荘の住人に求められたのだ。気合を入れないわけはない。
 しかし、今日は私は委員会の仕事があったため早く学校に行かなければいけない。私はリク君に「このお弁当を持って行って下さい」というメモと弁当を机の上に残して通学鞄を持った。


 学校に着くとすぐに職員室に向かい、担任教師の元へ行った。担任の東屋先生は熱血で体育会系。あまり得意とはいえないタイプだ。

「悪いな、白原。こんな朝早くから」
「いえ、構いません」

 先生は乱雑した机の上からプリントを取り出して私に手渡す。ホチキスで留める仕事を頼まれた。面倒臭いが、立場上断るわけにもいかず私は笑顔でそれを受け取った。

「それとな、白原」

 そう言う先生の声は小声になる。私は無意識に身体を少しだけ前のめりにして先生の言葉に耳を澄ました。言いにくいことなのか言葉を詰まらせながら申し訳なさそうに口を開く。

「今回のテストだがな、お前学年二位だったんだよ」
「え?」

 思わず間抜けな声を出してしまう。学年二位、私にとってそれは取ってはいけない数字だからだ。

「白原の家が大変だったのは知ってるし、二番目でも問題はない。だが、いつも一位だったお前が下がるとな……」

 私が言葉を発せずにいると、先生は無理やり笑顔を取り繕って言った。

「安心してくれ。別に特待生扱いをやめるってわけではないからな」
「……はい」

 職員室を出てからも気分はブルーのままだ。
 私の家は壊滅的にお金がない。もちろん高校になんて行けるわけもなかったため、もう勉強をして入試トップでここ、美波浜高校に入学し、特待生として学費全額免除で通わせてもらっている。そのため、成績を落とすことは許されない。別に二番目でも構わないのだが、今まで一位をキープしていたものが下がったとなるとかなりきつい。
 一体誰が一位なのか。もう私の頭の中はそれだけで埋め尽くされた。

 昼休み、私は自分用に作ったお弁当を広げる。リク君は気に入ってくれるだろうかと少し不安に感じながら卵焼きを一口食べた。

「あゆみちゃーん! お弁当ありがとう! 美味しかった!」

 いきなり大声で名前を呼ばれ、箸から卵焼きが落ちそうになる。声の方を見ると、教室の扉の先からリク君が笑顔で私に手を振っていた。

「え、え? 何でリク君があゆみに……?!」

 少し教室がざわめき始めたのに気付き、私は椅子が倒れるくらい勢いよく立ち上がり、リク君に近付く。腕を引き、人目のない階段裏に行くようにお願いする。
 階段裏につくと、リク君は不思議そうな顔をしながら「どうしたの?」と問う。私はその顔を少し恨めしく思いながら口を開いた。

「あの、あまり学校では話さないように……」
「え? どうして?」

 リク君がモテるせいでこっちにとばっちりが来そうだからだよ、なんて口が裂けても言えない。

「高校生で同居してるなんて、ちょっと世間体が悪いじゃないですか」
「ふーん……そういうもん?」
「そういうもんです」

 リク君は納得しきっていないような顔で頷く。その反応に少し安堵する。リク君は笑顔を見せて小首を傾げるという可愛い動作をしながら問うた。

「でさ、あゆみちゃんはどうして敬語なの?」
「え? それは居候させて頂いている立場なので……」
「でも僕はあゆみちゃんより年下だよ? 僕には敬語じゃなくてもいいんじゃない?」
「……」

 そういうものか、と考えるたせいか沈黙が生まれる。瞬間、身体が思い切り引っ張られる。驚いて声も出なかったが、冷静な思考回路を取り戻した時には目の前にリク君の顔があった。

「!」

 思わず息をのむ。リク君は今までとは違う少し目を細めながら笑みを見せずに言い放つ。

「——いいから、やめなってば。これは命令だよ? 命令に逆らったら……」

 リク君はそう言いかけて、空いている左手で私の紺色のネクタイに触れる。

「どうなるかくらい、分かるよね? 自ら望むっていうならそれでもいいけど」
「——っ! うん、わ、かった……」

 そうか細く返事をすると、リク君は私の身体を離し、普段通りの笑顔を見せてから言った。

「ならいいんだよっ!」

 私はリク君に触れられたネクタイを右手で強く握ってから思った。
 人間って誰しも裏の顔があるんだな。


                     【first episode end】