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Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【4/12更新】 ( No.45 )
日時: 2015/04/12 11:12
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

【first episode】


「リク! お前、俺の“チョコっととろけるプリンアラモード”勝手に食っただろ!」
「別に“真”って名前書いてるわけじゃないんだからいいじゃん」
「名前書いてなくても俺が買ったんだから俺に食べる権利があるだろ!」

 本日も星屑荘は安定のうるささである。
 真さんが買って冷蔵庫に隠していたプリンをリク君が勝手に食べたことでまたもや喧嘩が起こっている。言い争う二人の間に苦笑いを浮かべながら和希さんが入っていく。

「真、朝なんだからそれくらいにしなさい。リクも! 今後は勝手に食べないこと」

 私は朝食のスクランブルエッグを作りながらそのやり取りを見る。毎朝学校に行く前はこんな感じだが、騒がしいのが今ではとても心地いい。皆で食卓を囲むなんて今までなかった経験だ。

「何で朝なのにこんな五月蝿いわけ?」

 一人ダイニングテーブルの前で座る泉君が目障りに言う。私は泉君の前に出来上がったスクランブルエッグとベーコンが乗った皿を置きながら答えた。

「朝の夜も関係ないってことですかね」
「面倒くさい奴ら……」

 泉君も最近ようやく朝食を一緒に食べるようになった。これもいい変化である。
 私も泉君の正面に座り、食事を始める。あの三人はまだ食事を始められる状況ではないだろう。

「……由紀君は相変わらず自分の部屋を出てきませんね」
「……俺、由紀の姿最近見た覚えないんだけど」

 さらりとそんなことを言う泉君につい苦笑いをしてしまう。私は一旦箸を置いてから独り言のように呟いた。

「学校も通ってくれたらいいんだけどな……」
「……」

 若干の沈黙が生まれたが、泉君が溜息をつきながら椅子を立った。驚いて見上げると、泉君は面倒くさそうな表情を浮かべていた。

「連れていけばいいんだろ? 学校に」
「そ、そんなこと出来るんですか? 由紀君を学校に連れていくなんて……」
「アイツの考えてることは単純だし。それに、ああ見えて精神年齢が幼い」

 泉君はそう言ってから階段を上り始めた。由紀君に部屋に向かうのだろう。私は茫然としてしまい、そこを動けなかった。



 由紀の部屋に辿り着き、ノックをする。返事はない。泉は溜息をついてから口を開いた。

「……あゆみが学校に来てほしいって言ってるけど」

 そう言うと、部屋の中から聞こえるか聞こえないか位のか細い声がした。

「例え彼女がそう思ったって……無理です、僕は行きません」

 頑固とした意志が感じられる言葉だったが、ここで引き下がる様な泉ではない。それに、泉は口は誰よりも達者なのである。

「別に俺は由紀が来なくてもいいけど。一人家に残って部屋に引き籠れば? その間俺は学校であゆみと一緒にいるけど。いつでも顔を見られるし、会話も出来る。引き籠ってる由紀は出来ないことが出来る」

 泉は悪質な顔をしながら言い放った。

「それでもいいんだ?」

 返事はなかった。泉は次の言葉は言わずに無言の扉に背を向けてあゆみがいる所へ戻って行った。





「……泉君!」

 階段を下りてきた泉君を見て声をかける。泉君は由紀君の所へ向かう前と表情は変わらず、安定の無表情だった。

「どうでした?! 由紀君の様子」
「……さあ」
「さあって……どういう意味です、か……」

 階段に背を向けて立つ泉君に問うている時、階段から下りてくる私たちと同じ制服姿の人影が視界に入る。彼はゆっくりとゆっくりと階段を下りてきた。まだ言い争いをしていた彼等もその人影に驚いたのか声を上げるのをやめた。

「……何ですか、皆して驚いた顔をして」
「ゆ、由紀……お前、その格好」

 真さんが驚きを隠せないまま由紀君を指さす。

「泉が、五月蝿いから」

 由紀君が泉君を睨む。泉君は見下すようにふっと微笑んだ。一体泉君はどんな言葉で由紀君を学校に行かせる気にしたのだろうか、と疑問が浮かぶ。そう思っていると、由紀君が私の前に立つ。長い前髪で瞳を隠してはいるが、フードを被っていないと青い瞳は時々見える。しかし、ブレザーがとても似合う……と不純な思いも生まれてしまう。

「昼休みに僕と会わないのなら、二度と学校なんて行きませんから」
「は……はい!」

 機嫌が悪そうにそういう由紀君がとても愛おしかった。
 その時、リク君がくくっと笑った。和希さんが「どうした?」と聞く。リク君は泉君と由紀君を交互に見ながら笑いを堪えて言った。

「いや、泉も由紀もあゆみちゃんのためにそんな動くなんて可愛いなーと思って」

 そう言われて少々戸惑う。しかし、そんなセリフを今吐いていい状況ではないと思う。

「……リクの脳内は無能すぎて腹が立つんだけど」
「……僕もう学校に行く気力なくしました」

 そう言い放ってリク君を睨む二人。そんな状況を楽しむように真さんたちが笑う。こんなに星屑荘の暮らしが楽しくなるなんて思ってなかった。今はすごくこの空間が心地よい。

「さ、遅刻するから行くよ」

 和希さんが皆に声をかける。私もその声につられるように鞄を持った。外に出ると太陽が温かい光を放っていた。まだ、春は始まったばかりである。





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 こんにちは、朔良です。
 ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
 これにて【first episode】は終了となります。次回からは【second episode】とします。
【second episode】では個人のエピソードですが、今回よりもあゆみと親しくなっていますので、もっと踏み込んだ物語を書く予定です。
 そちらも読んで頂けると幸せです。
 感想もありがとうございます! いつも励みになっています。
 では! 今後ともあゆみと五人の狼どもとよろしくお願いします。


あゆみ「皆さん読んで下さりありがとうございました! 騒がしい星屑荘の日常、楽しんで頂けたでしょうか」

真「second episodeはまた俺から一周するから、ちゃんと読めよ。お願いじゃなく命令だからな」

リク「もー真ってば、そんな乱暴な言い方しちゃ駄目だよ。次回の僕のエピソードではあゆみちゃんを沢山からかっちゃうからね!」

和希「こらこら、読者様の前ではしゃぎすぎない。次回の僕のエピソードは……普段見られないあゆみさんを見られる予定です」

泉「……俺のエピソードは……お仕置き、してあげる」

由紀「言っておきますけど、どこに居てもあゆみさんは僕のモノですから」

朔良「こんな奴等ですが、もうしばらくお付き合い下されば幸せです!」