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- Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【7/12更新】 ( No.58 )
- 日時: 2015/07/12 13:56
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
【Sweet Devil】——園田リク
「……あ! あゆみちゃん、それ新発売のポッキーだよね?!」
「あ、これ? うん、友達から一袋もらったの」
私が自室に戻る途中、手にしていたポッキーの袋を見たのだろう、リク君が食い気味に言った。返答すると「へー」と言いながら私の手元を見つめる。私は内心吹き出しそうになるのを堪えながらポッキーをリク君に差し出した。
「良かったらもらって? 私、あんまり甘いもの食べないから」
「いいの?! じゃあ、僕の部屋に来て!」
「え? リク君の部屋?」
イエスともノーとも答える前に腕を引かれ、リク君の部屋へと連れていかれる。「一緒に食べよう」という意味なのかもしれないけれど、現在の時刻は二十二時を過ぎようかというところ。この時間に甘いものは乙女には大打撃だ……。
リク君の部屋は全体的にパステルカラーで、雑誌や服が散乱している。一言で言うなら「らしい」部屋だった。
「待ってね、あんまり甘くないお菓子あるはずだから……っと」
そう言いながらリク君は何やら奥の棚をまさぐり始めた。まさかお菓子貯蔵庫なのだろうか……と思いながら背中を見つめる。まさかポッキーをあげただけでこんなことになるとは。
「あった! はい、抹茶ポッキーと、無糖のストレートーティー。これなら大丈夫?」
「……ありがとう」
リク君が屈託のない笑顔でポッキーのペットボトルの紅茶を渡してくれた。無邪気に笑うリク君はやっぱり可愛らしい。この時間にお菓子を渡されるのは少々困るけれども。
「いやー“カスタードプリン味”食べてみたかったんだけど、売り切れてて買えなかったんだよね」
ポッキーの袋を開けながらリク君がとろけるような顔をしながら言った。そんなに喜んでもらえるなら、今度コンビニを回って探そうと思った。リク君の無邪気な笑顔は破壊力がある。ポッキーを食べるリク君をそんな気持ちで見つめていると、リク君がこちらの視線に気付いたのか笑った。
「あゆみちゃんも食べる? カスタードプリン味」
「ん? いいよ、いいよ。リク君が食べて」
「ううん! 一本くらい食べなよー」
そう言って、リク君が一本のポッキーを手に持って、私の口元へ持ってきた。どんどん迫ってくるポッキーを拒絶することは出来ず、私は口に含んだ。その瞬間、リク君がニヤっと笑い、私が口に含むポッキーから手を離し——
「っ! リ、……」
「ふふっ」
——リク君は、手を離して、自らそのポッキーを口に含んだ。つまり、いわゆるポッキーゲーム状態になった。リク君がポキンっと音を立てながら噛んだ。
「……離しちゃ駄目だよ?」
子供が悪戯をして楽しむように言うリク君が怖かった。こんな恥ずかしいこと耐えられない!
抗議しようと口を開くと、遮るようにリク君が早口で言った。
「もし離すなら、もっと恥ずかしいことしちゃうから……ね?」
「うっ……」
リク君が言うと嘘に聞こえないから怖い。私は観念してそのまま口にポッキーを含み続けた。リク君は満足そうに笑い、ポッキーを食べ進めた。少しずつ、私の唇に近付いてくる。身体を私に近づけて、ほほに手を添えている。触れられた部分すべてから熱を帯びていくようだ。
「……ねえ、分かる? 少しずつ近づいてるの、僕の唇が……」
「リ、リク君……ま、って!」
「待つ? 何を?」
何をと問われると言いにくいというか、恥ずかしい。それも狙ってのリク君の言葉なのだと悟ると余計に無邪気なリク君が恐ろしくなる。
唇と唇とが触れあう寸前、リク君が食べ進めるのをやめて、笑った。悪魔的な笑みで。
「あゆみちゃん、食べていい?」
「——え?」
That is sweeter than sweets.——それはお菓子よりも甘い。