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- Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【7/22更新】 ( No.61 )
- 日時: 2015/07/22 20:15
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
【Liqueur】——梅澤和希
「あゆみさん、これいる?」
「はい?」
夕食の片付け——食器洗いをしていた私のところへ和希さんは近づきながら、茶色の包装紙に赤いリボンが映えるオシャレな箱を私の視界に入れた。私は一旦水を止めて、手の水気を払ってから和希さんに近付いた。
「いわゆるチョコレートボンボンなんだけど、ちょっと一人じゃ多くて」
「チョコならリク君にあげたら喜ぶんじゃないですか?」
「いや、リクは洋酒は飲めないんだ」
なるほど、と思ってから有難く頂戴することに決めた。
「じゃあ、ごちそうになります」
そう返事をすると、和希さんは笑顔で頷いてからリボンを素早く解き、三十個ほど収められているように見える「liqueur」と書かれ小分けされているチョコをくれた。
「いただきます」
そう言ってから口に含む。結構酒が強いな……と思いつつ噛み締める。ふわりと溶けていく優しいチョコを楽しみつつ美味しく頂いた。
「美味しいですね!」
「ん……本当だ」
和希さんも遅れて口に含む。思わず顔がほころんでいるところが和希さんらしくて落ち着いた雰囲気に包まれる。
「もう一個食べる?」
そう問われながら小首を傾げる可愛い動作にドキリとしてしまう。身体の奥底から熱い何かが溶け出すような感覚に陥る。何故だろう、何かふわふわして、もどかしい気持ちになる。私は何故か重くてだるい身体を引きずるようにしながら和希さんに近付いた。
「も、う一個くださ……」
そう言い終わらないうちに視界が揺らぐ。何かに思い切り寄りかかってしまった。
「あ、あゆみさん?!」
重くて自分のものとは思えない身体はいつの間にか和希さんに支えられていた。
「すみません……」
そう言いながら言うことを聞いてくれない身体に鞭を打って身体を離そうとした時、見上げたところに和希さんの顔が見えた。私は困惑している表情の彼を見つめた。
「……和希さんって、綺麗な顔してますよね……」
「は、い?」
和希さんが苦笑いを浮かべる。離れようとしていたのに、身体にはそんな気力がなかった。
「んー……和希さんからすごくいい香り……シャンプーかな」
「——っ、」
いきなり、和希さんが私の身体を突き飛ばすように押した。ぐらつきながらも背中に合ったデスクに手をついて私は体勢を保つ。
「ごめん、離れて……何か今日の君、限界だから」
和希さんが少し頬を染めながら私から視線をずらす。いつも目を見て会話をする人だから、余計動揺が伝わってくるようだ。
ああ、なんて——可愛いんだろう。
「和希さんが動揺する姿珍しい……嬉しいです」
「……はあ」
和希さんが呆れたように溜息をしながら俯く。しかし、顔を上げた時には動揺なんて見えない表情になっていた。真剣な目をして真っ直ぐに私を見る。和希さんの長い手が近づいてきて、私の髪の毛に触れた。そっと優しい触れ方が曖昧すぎて逆に心臓がドキドキする。
「和希さん?」
和希さんは髪の毛先を自分の唇に近付け、そっとキスをした。
「——!」
「……僕と同じ香りがする」
何をしてるんだこの人は、と思った途端、身体の力が抜けていった。また和希さんが抱えてくれ、私の顔を見ながら苦笑いをして言った。
「そんなに顔を真っ赤にしないで。僕にだって、理性が押さえきれなくなることだってあるんだから」
その言葉にまた顔が赤くなっていくのを感じながら、意識が途切れた。
「——もう彼女には酒を含ませないようにしよう」
If you drink, you should get drunk.——酒を飲むのなら酔わなければならない。