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Re: 狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜【9/22更新】 ( No.87 )
日時: 2015/09/22 10:08
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

【独占したい、愛したい】——宮野真、梅澤和希、平井泉


 とある土曜日の話である。
 コンコン、と2回ノックが鳴らされる。どうぞ入ってきて下さい、と言おうと思ったが自分の部屋を見渡し、この部屋に入れたら女子として疑われるな……と思い、自分で開けようと扉に近付いた。しかし、

「遅い」

 一言そう聞こえたかと思うと、一瞬の間もなく勝手に扉が開かれた。思わず「あ」と声が出る。扉の先にいたのは真さんだった。この部屋を見た瞬間「女として終わってる」とか言われるのかと予測し顔がひきつってしまう。
 真さんは一周目で部屋をぐるりと見てから溜息に交じらせて言った。

「お前、人としてこれはやばいだろ」

 まさか人間まで疑われるとは。

 そんなこんなで返す言葉もない状態になりつつ、私は口を開いた。

「き、気にしないで下さい。それで、どうかしたんですか?」
「ん? ああ、お前の部屋のあまりの散らかりように衝撃して忘れてたな。今日明日のどっちかでこの前壊れたチェストを見に行かないかと思ってな」
「ああ! えーと、明日は友人と約束しているので、今日なら」
「友人?」

 真さんが心底驚いたように目を見開く。そんなに驚くなんて、私には友達の一人もいないと思っていたのか、とちょっとしたダメージをくらいながらも続ける。

「はい、それで何を着て行こうかと部屋に服を散らかしてしまいまして」

 私は苦笑いを浮かべながらこんな部屋になった経緯を簡単に話す。
 何を着ていくかに悩み、ベッドの上やらデスクの上やらにありったけの服(人並み以下の数である)を広げていたのだ。

「……待て、友達に会うのにこの服で行くのか?」
「え? はい」
「……それは友達への冒とくだろうがああ!」
「えっ、ええ?!」

***


「……アンタ、何やってんの? 捨てられた子犬みたいになってるけど」
「……捨てられたというか、待てをされたというか」

 リビングで私はふわふわの絨毯の上で正座をして待たされていた。そこへ、泉君が相変わらずの無表情で上から見下ろすようにして立ち止まったのである。
 真さんが「私服がダサすぎる」と言い、今から買いに行くことになったのだ。真さんが着替えている間、私はここで待っていることになった。
 その一連の経緯を話すと、泉君の周りがいかにも呆れたような見下すオーラで包まれる。思わず苦笑いを浮かべてしまう。女として疑われるだろうか。

「……今着てる服は何」
「これですか? これは真さんが私の服の中から一番マシなものを選んだって言っていました」

 白い生地に赤い小さな花が咲き乱れるフレアワンピースだ。私は他に着たい服があったので少々不満ではあるけれど。

「本当は“SAMURAI”って書かれたTシャツとか、“WOOOOOO!”ってロゴTシャツ着たかったんですけど、止められてしまって」
「…………」
「泉君?」
「俺、今初めて真に共感した」

 何でだろう、泉君が私から視線を逸らしてそう呟いた。私が何故、と聞く前に泉君が口を開く。

「……じゃあ、もしかしてアンタこれから真と二人で行くのか?」
「そうですよ」
「……俺も行く」
「え? 泉君も? いいとは思いますが、女物の服とか見るだけなので退屈じゃ……」
「アンタのこと見てればそれなりに暇つぶしになる」

 褒められたのかけなされたのかよく分からないセリフを言われた時、優しい、耳が安らぐ声が泉君の背後から聞こえた。

「泉も素直になりなよ」

 泉君の背後から現れたのは、穏やかな微笑みを浮かべた和希さんだった。

「素直にって……どういう意味ですか?」
「ん? 泉はあゆみちゃんと真が二人で行くことが気にいら——」
「和希」

 そう一言言って、冷淡な瞳でこれでもかというくらい和希さんを睨む。和希さんは「ごめんごめん」と冷や汗を少し流しながら自分の顔の前で手を制止するように開いた。
 結局、どういう意味なのか教えてはくれないようだ。

「ね、あゆみちゃん。話聞いてたんだけど、僕も一緒に行っていい?」
「え? は、はい」
「良かった。今日リクと由紀が神崎さんのところにお使いに行ったから一人だったんだよね」

 和希さんは嬉しそうに笑って、そのまま隣にいる泉君を見た。泉君は溜息をついてから「いいんじゃないの」と言った。


***

「——おい、どういうことだよ」

 準備を終えた真さんは私たちを見て顔をわずかに引きつらせながら言った。

「何で和希と泉まで行くことになってるんだ?!」

 和希さんはにっこり笑って大声で叫ぶ真さんに諭すように穏やかな声で撫でるように言葉を放つ。

「……抜け駆けは、駄目だよね?」
「ーっ! そ、んなんじゃねえよ!」
「……格好の気合の入りようは何」
「うるせえ、泉!」

 リビングで言いあう三人。一体どうなるのか……不安で心を一杯にして私は外へ出た。


 後編へ続く!